疑惑と、一方その頃
主人公視点/アリア視点
サポートキャラ故、変に目立たない為か――アリアという少女は、乙女ゲームでは長い栗色の髪と、同じ色の瞳。顔立ちは整っているが、どちらかと言うと真面目さや誠実さの方が印象強い少女だったそうだ。
けれど、エマが移動教室の時などに(わざわざ見に行くのは、殿下達が付いてくるので無理だった)見た限りでは、髪と目の色こそ同じだが美少年にしか見えなかったらしい。
『だけど、この世界では女性でも家は継げますし、女騎士の方は騎士服を着ますけど……それ以外で男装するって発想が、そもそもないんです。でも、彼女は男装しています。逆に、見た目が完全に美少年なので違和感が仕事していませんけど』
『そうか。男子の制服を、着ているってことは……私達と同じ転生者で、男装するって発想を持ってるって訳か』
『ええ。だから、気をつけていたんですが……女生徒にモテモテになるのは、予想外でした』
エマの質問を聞いて、成程と思った。私にも前世の知識はあるが、普段は修道院にいるので発想自体がないとは言われるまで気づかなかった。身近には男装女子はいなかったが、漫画や小説などでは普通にいたからだ。
(それって、私がこの世界をフィクションっぽく思ってるってことよね……気をつけよ)
(フィク……ショ?)
(惜しい。フィクション、前世の創作物って意味の言葉よ)
そして私は、現世の私に癒されつつも――自分達同様に、乙女ゲームとは違う動きをするアリアが、どこまで状況を把握しているのかと思った。
※
私は、アリア・ラ・グラン。
本来は、乙女ゲームのサポートキャラ――なんて言っていることで解ると思うが、前世は日本人である。趣味はコスプレなアラサー事務員で、通勤中の事故で亡くなるまでやっていたくらい、とぅるらぶにはすごくすごくハマっていた。
そんな私が、自分の前世を思い出したのは七歳の時だった。
伯爵家に生まれた私は、ユリウス殿下の婚約者を決める為のパーティーに呼ばれ――父と共に挨拶を終えた後、現在の婚約者であるエマが挨拶に行った時に「違う」と思ったのだ。
(え? エマは、平民との間の庶子だし……セルダ侯爵の娘なら、イザベルが来る筈……って、あれ? もしかしてここって、とぅるらぶの世界!?)
最初は、乙女ゲームの世界への転生に驚いたが――その後、私は見た目はヒロインキャラの子供バージョンだが、乙女ゲームのエマとは違う楚々とした仕種と、王子の塩対応に愕然とすることになる。