ゲームとのズレと、〇〇キャラ
聞こうと思ったが、さて、どうやってエマとの話し合いの場を設けようか。
そう私が思っていたら、エマの方から放課後、保健室に来てくれた。そして、今のところは寄り添い利用者がいないことを見て取ると、申し訳なさそうに目を伏せてラウルさんとナタリー、あと一緒に来ていた殿下達に言った。
「私達は義理とは言え、姉妹ですが……なかなか、話す機会がなくて。申し訳ありませんが、少しだけ二人きりで話をさせてくれませんか?」
「エマ……姉上、少しだけで良いから構わないだろうか?」
そんなエマの言葉に、最初に頷いたのは彼女を愛する殿下だった。
そしてこの場にいる中で、殿下が言ったことに逆らえる者はいない。おかげで私は、エマと二人で話せるようになった。念の為、お互いに日本語で会話を始める。
『今日、来たらアリア・ラ・グランという娘について、聞いたけど……彼女も、乙女ゲームのキャラクターなの?』
『……あの人は、とぅるらぶのサポートキャラです』
とぅるらぶとは、確か乙女ゲーム『True Love~幸福を探して~』の、ファンの間での略称だ。まずそのことを受け留めてから、エマの言葉に首を傾げる。
『サポートキャラ?』
『ええ、ヒロインがいじめられるのを慰めたり、攻略対象の情報を教えてくれたりするんです』
エマの説明に、成程と思う。エマから、ゲームキャラのイザベルは物理の攻撃はなく、あくまでも常識の範囲内での注意や叱責らしいが――平民並みの知識からの令嬢教育は、確かに辛いだろう。
乙女ゲームだと、エマのような利用者がヒロインを動かすので、そんな利用者を応援するキャラクターを出すのはまあ、解る。解るのだが、しかし。
『え、男装の麗人がサポート? 百合ルートでもあるの?』
ネット小説で、攻略対象に女性も含まれていて主人公逆ハーレム状態になった話を読んだことがある。
今まで聞いたことがないが、とぅるらぶにもそういうルートがあるのだろうか? そう思って私が聞いたら、即座に否定と力説が始まった。
『違います! ゲームでは、普通の伯爵令嬢で。高位貴族なのに庶子の平民を見下さず、熱血ではないですけどくじけそうになった時、とても的確に励ましてくれて……キャラ推しもありましたが、彼女がいなければ最初はゲームクリア出来なかったと思います。本当に、助けられました』
『ご、ごめんなさい』
『いえ、わたしこそ熱く語って失礼しました』
失言に気づき、謝罪するとエマも我に返ってそう言った。そしてエマは、少し考えるように目を伏せた後、顔を上げて言葉を続けた。
『……もしかしたら、彼女も私達みたいに転生者かもしれません』