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ルームシェアとは言い得て妙

「最初に手伝う相手は、あなたにする! イザベルには、苦労させないから……気づけばルームシェア状態だけど、苦労は私が引き受ける! 修道院なら、最低限の衣食住は保証されてるから! 私が、あなたを幸せにする!」

「…………」


 ほとんどプロポーズみたいな言葉に、無言で返されて――どれくらい経っただろうか?

 顔は、上がらなかった。けれど俯いたまま、現世のイザベルが、前世の私に抱き着いてきた。


「……私は、イザベル・ラ・セルダ……あなたは?」

「えっ……加奈。市川いちかわ加奈かな……こっちだと、カナ・イチカワかな?」

「カナ……さん」


 名乗りながらしがみついてきた幼女が、前世の私の名前を口にする。年上だからなのか、さん付けしてくれる辺り、本当に良い子だなぁって思う。


「…………よろしく」

「イザベル……!」


 しばしの躊躇の後、短いがフェードアウトすることに頷いてくれた相手の、少しくせのある黒髪を私は撫でた。


(すごく勇気出してくれたんだろうな、偉い……しかも、今度は頭撫でても避けないし)


 そして顔は上げないが逃げもしないのに和んでいると、前世の私(加奈)と現世のイザベルは、明るい光に包まれて――。



「……ま……イザベル様っ」


 呼びかけに応えて、目を開けたのは『私』だった。

 現世のイザベルの記憶はあるし、なかにいるのも解るけど、思考とか言動は前世の私(加奈)って感じだ。同化とか融合って言うよりは、何かノリで言ったけど本当にルームシェアみたいな感じだと思う。


(まあ、無視や放置されてたとは言え、貴族令嬢がいきなり平民、しかも修道女生活は大変だし……安心して! 前世の私は、バリバリ平民だからねっ)


 逆に平民だからこそ、今みたいな針のむしろ状態より、住み込みする代わりに働く方が納得出来る。

 ただ数日とは言えお世話になるなら、下手に衝突せず円満に過ごした方が良いよね?


「……ごめんなさい、ローラ。急に、気が遠くなって……もう、大丈夫」


 倒れた私を、ゆっくり起こしてくれる侍女さん――ローラに、私はそう言って少し笑ってみせた。

 美幼女だけど母親似なので、マイナスイメージなのは把握した。あとあんまり全開の笑顔だと、あざとくなりそうだからね。

 人見知りだけど、悪目立ちしない為には最低限の挨拶や会話はするし、多少は愛想も振る。

 最後は病気で退職したけど、それでも就職した(対面は無理だから、コールセンターだけど)のは、コミュニケーションスキルを養う良い経験になった。


(ローラって現世父の乳母で、現世母のこと微妙そうに見てたけど、他の使用人みたいに陰口とかはなかったし。大人しくしてれば、虐められはしなさそう)


 そう思っていた私に、キッと表情を引き締めてローラが言う。


「お茶は、口に出来そうですか? 大丈夫なら、夕食まで今少しかかりますので、焼き菓子と共にお召し上がりを……辛ければ、少し横になりましょうか?」


 ……表情は固いけど、今までが今までなのですごく気遣われてるのが解った。最低限の食事しか与えられず、お菓子をほとんど貰ったことの無い現世のイザベルが反応したからだ。


(焼き菓子? 甘いの?)


 現世のイザベルが、戸惑いながらもワクワクするのが解る――あー、もう、可愛すぎか!? うんうん、たーんとお食べ!


「ありがとう。大丈夫、頂くわ」


 だからお礼を言うと僅かに、でも確かにローラの雰囲気が柔らかくなった。



 前世の私(加奈)も、現世のイザベルも知らなかった。

 自分の部屋が解らない心細さから、ローラに声をかけられた時、我知らず頬を緩めて微笑んでいたことを。

 それだけでも、母親とは違うと思われたが――不安からか(実際は、現世の記憶が甦ったからだが)部屋で倒れ、しかし健気に振る舞おうとする幼女に、ローラがすっかりほだされたことを。

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