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さよならではない、ごきげんよう

 月日の流れは早い。六歳の時に前世の記憶を思い出してから、気づけば九年の時が流れていた。

 新年のパーティーには、あの後も毎年呼ばれているが――二回目からは、修道院に招待状が来るようになった。エマも直接、殿下ユリウスが迎えに行くようになったので、特に目立った活動のない現世父には招待状が届かなくなった。

 それが耐えられなくなったのか、今では現世父はエマの母と共に王都を離れ、領地に引きこもっている。会わなくなるので、フェードアウト自体は良い。しかし残されたエマが心配だったが王宮で暮らすようになり、王太子妃教育を受けることになったので一安心だ。

 そして十五歳になった私は、乙女ゲームでは侯爵令嬢として魔法を学ぶ為、学園に入学したらしい。

 けれど、今の私が着る予定なのは女子学生の着る制服ではなく、修道服で――更に立場も、一生徒ではない。


(まさか生徒としてじゃなく、講師として通うことになるとは)


 しかも生活魔法のではなく、寄り添い部屋の手腕を買われてだ。ただでさえ多感な時期だが、今年は更に殿下ユリウス達が入学するので週に一度、学園に出張するように言われた。怪我などに対しての養護教諭はいるらしいので、イメージとしては前世の学校にいたスクールカウンセラーだろう。

 初めての試みなので、本日のパーティーでは私が四月から講師になると、紹介されることになっている。修道服で参加しようと思ったが、周りに止められて今回もドレスだ。二回目からも、聖女への寄付が形に出来ると周りがはりきり、ドレスが送られてくる。デザインは変えているが、初めて着たドレスを私が気に入っているので、今日も濃い緑の生地に刺繍があしらわれたドレスだ。


「ラウルさん、今日もありがとうございます」

「いや、春からは俺も週一で通うのだから、一言くらいは挨拶すべきだろう」

「……恐縮です」


 そして、寄り添い部屋の護衛であるラウルさんは、パーティーの時のエスコートを引き受けてくれていた。四月からは、学園にもついてきてくれることになっている。

 元々が年上に見えていたのでこの十年、ほとんど見た目が変わっていないと言うか、逆に年相応になった。この調子だと、これからは年より若く見えるようになるのだろうか?

 とは言え、無表情な彼は端正な面差しのせいもあって迫力がある。身長だけではなく、胸もしっかり育った私としては、ラウルさんがいてくれると安心感が半端ない。


(あと三年で成人だから、そろそろ独り立ちしなくちゃなんだけど……有名人なだけじゃなく、現世のイザベルってば美人さんだから。一人歩きは色々と、危険なのよねぇ)

(もう、カナさんってば)


 しみじみと思っていると、現世のイザベルが照れながら窘めてきた。

 私達のルームシェア状態も、相変わらずである。そして成長しても、現世のイザベルは相変わらず可愛くて天使だ。


「……お姉さま!」


 そんな私に、前方から声がかかる。

 青いドレスに身を包み、満面の笑顔で手を振っているのはエマだ。子供の頃はピンクのドレスが多かったが、ここしばらくは殿下ユリウスの瞳の色を着ることが多い。


「やあ、来たな。姉上」

「はぅっ!」


 エマの隣にはあえて自分ではなく、エマの瞳の色だと言って青の衣装に身を包んだ殿下ユリウスがいる。気づけば彼からは姉呼びされるようになり、いつまで経ってもエマは慣れないのか、真っ赤になって口元に手を当て悶えている。


「よう、聖女!」

「エドガー……二人とも、久しぶりですね」

「よくいらしてくれました。春からも、よろしくお願いします」


 二人の背後にいたのは、背が伸びて逞しくなった脳筋エドガーと、眼鏡をかけてますますツンデレな感じになったケイン。そして伸ばした髪を首の後ろで束ね、ますます性別不明な美人になった暴風雨アルスだ。


(うん、確かに乙女ゲームな感じのメンバーだ)


 前世で実際には見たこともやったこともないが、ゲームのパッケージはこんな感じなのだろう。もっとも、彼らの笑顔の先にいるのは悪役令嬢である現世のイザベルだが。


(まあ、今の私は悪役でも令嬢でもないけどね)


 そう心の中で呟くと、私は満面の笑顔を一同に向けて言った。


「……皆様、ごきげんよう!」


 さよならではなく、会えて嬉しいという意味を込めて。

第一章完結です。少し休んで、第二章も書きたいと思います。また見かけたら、よろしくお願いしますm(__)m

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