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寄り添いへの応え

 王宮でのパーティーは、約三か月後である。それだけ聞くと、前世の感覚だと支度は余裕だと感じるかもしれない。

 だが、この異世界にはそもそもミシンがない。

 しかも、貴族や富裕層は既製服や古着は着ないので、パーティーがあるとその為に一から、そして手縫いで礼服を作るのだ。そう考えると、三か月と言うのはギリギリの時期である。

 ……そんな中、私の現世父はやらかしてくれた。


「娘はまだ、子供なので……ドレスを作ると言い出した時は、まず保護者である私を通すように」


 修道院を出ていった後、パーティーに間に合わせないようにとデザイナーやお針子、更に商人などに手を回したのだ。

 高位貴族の面倒事に、進んで首を突っ込む者はいない。

 今まで放置していたくせに、ここまでやるとは――実は思っていたので、私は父親と迎えに来るまでアントワーヌ様、更にビアンカ様と連絡を取って準備していた。

 まずは、アントワーヌ様と話した翌日。寄り添い後の夕方に、私はアントワーヌ様が招いた四十代くらいの女性と対峙した。


「我が家のお抱えデザイナーである、シャルロッテだ。すまぬが、この娘のドレスをデザインして、型紙まで用意してほしい」

「えっ? そこまでで、よろしいのですか?」

「ああ。仮縫いは、確認してほしいが……おそらくだが近々、妨害が入る可能性がある」

「……かしこまりました」


 妨害と聞いても、シャルロッテさんはアントワーヌ様からの申し出を断らなかった。代わりにスケッチブックと色鉛筆を取り出すと、おもむろにデザイン画を描いていき、アントワーヌ様と相談後に私の寸法を測っていった。そして現世父からの通達に間に合うように、超特急で型紙まで完成させてくれた。

 次は、商人の妻となったビアンカ様の登場である。


「任せて! あ、お金とか妨害については気にしないでね? あなたは、私達夫婦の恩人なんだからっ」


 そう笑顔で言うと、ビアンカ様は旦那様の商会に頼んでドレスの生地や飾り、そして靴やアクセサリーなどの手配を請け負ってくれた。更にお針子にも手が回ったからと、寄り添い部屋に来ていた平民の奥様達に声をかけてくれた。


「聖女様の為のドレスですか!?」

「せっかくの宴の参加を、邪魔するなんて許せないっ」

「ぜひ、お手伝いさせて下さい!」


 それぞれ家庭があるのと、万が一、彼女達にも妨害の手が回った時の為にと、ビアンカ様は数人の奥様達に手分けして仮縫いを。そして補正と生地の裁断までシャルロッテさんが行った後の本縫いをお願いした。


「イザベル様! 馬鹿父が、とんでもないことを……何か、わたしに出来ることはありませんか!?」

「そんなことしたら、あなたの家での居心地が悪くなるわ。それにあなたも、王太子の婚約者として発表されるんでしょう? そんな大変な時に、無理しないで……」

「そんなの、関係ありません!」

「……だったら、頼まれてくれるかしら?」


 一方、現世父の妨害を聞きつけたのか、エマが義母に頼んで寄り添い部屋へとやってきた。

 気持ちは嬉しいが、エマを現世父との確執に巻き込む訳にはいかない。そう思い、断ろうとしたがエマはやはりエマだった。それ故、私は出来るだけエマがダメージを受けない方法での協力をお願いした。


『エマ、ありがとう』

『とんでもないです! あ、わたしのことは気にしないで下さいね? 当日は、ユリウス様がエスコートしてくれることになってますから』

『……良かった』

『イザベル様が、わたしを引き留めてくれたおかげです』


 寄り添い部屋の壁で、顔は見えない。

 けれど、アントワーヌ様達が私に向けてくれたように――エマも、笑っていると解る声で言ってくれた。

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