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猫ならぬ幼児の手も借りたい

 貴族相手なのに、キッパリと言ってくれたクロエ様に私は感動した。

 そう、焼き菓子作りは始まったばかりである。そしてこの修道院のお菓子は店に卸しているが、雪で家に閉じこもる為、冬はいつもよりたくさん売れるらしい。結果、私のような幼女の手も借りたいくらい忙しいのだ。

 だが、エドガーは引かなかった。


「じゃあ、俺もその労働を手伝おう」

「……えっ?」

「そうしたら、お前と共通の話題が出来るしな。うん、そうしよう」


 そう言って、エドガーから笑顔を向けられたのに――私は人見知りの気持ちより、何だかもう色々と面倒臭くなった。自分では見えないけど絶対、目からハイライトが消えていると思う。


「……労働中は、話しませんよ。終わった後に少しでよければ、話しましょう」

「「イザベル?」」

「ああ、解った!」


 私の言葉に、クロエ様とアントワーヌ様が驚いて声を上げた。一方、エドガーは嬉しそうに目を輝かせた。

 ……憎らしいが顔が良いので可愛らしく、けれどだからこそ余計に憎らしいと私は思った。



 そんな訳で、エドガーも借りたエプロンをつけて焼き菓子作りを手伝うことになった。

 イザベルは初めて見るが、体験労働自体はたまにあるらしい。それこそ、アントワーヌ様やビアンカ様も献身者になる前にやったと言う。


「と言うか、貴族の夫人や令嬢としては修道院や教会、あと孤児院への慈善活動は嗜みの一つなんだ。私達の場合は、ここに入ろうと思っていたので慰問の時に頼んで、労働を体験させて貰ったがね」

「そうなんですね」


 アントワーヌ様の説明に、なるほどと私は納得した。そう言えば、読んでいたネット小説でもヒロインが寄付や慰問をしたり、孤児院の子供達と遊んだりしていた気がする。

 とは言え、少なくとも中高生以上と思われる令嬢と私達は違う。だから幼児、それから労働の先輩として私はエドガーに向き直った。口に出す時は『様付け』することを気をつけながら。


「……エドガー様。労働するとは言え、私達子供に出来ることは限られています」

「そうなのか?」

「そうです。ですが一方で、猫の手も借りたいくらいですので」


 そう言うと、私は空のボウルをエドガーに差し出し、テーブルの上に並べた小麦粉やハーブ、塩を示した。

 砂糖や卵は、高価なので使わない。一方で、ハーブは修道院で薬として植えていたので一定数手に入るのである。


「このボウルに決まった量の材料を入れて、大人の修道士さんや修道女さんに渡します……大雑把では、駄目ですよ? 多少は仕方ありませんけど、大幅に違ったらお菓子は失敗しますからね」

「し、失敗したらどうなるんだ?」

「売れません」


 脅しではなく事実なのでキッパリ言うと、エドガーは固まった。責任重大ではあるが、他の作業(材料をかき混ぜたり、クッキー生地を鉄板に絞ったり、窯で焼いたり)の方が腕力や身長的に出来ないので仕方ないのだ。

 とは言え、怖がらせるだけでは可哀想なので、私はポジティブなことも口にした。


「でも、成功したら幸せクッキーが出来ます」

「……幸せ?」

「ええ。辛い時、心が弱った時に食べると心が明るく、上向きになるんです」

「本当か?」


 修道院の売りである幸せクッキーのキャッチコピーを説明すると、エドガーが興味深そうな目を向けてきた。それにおや、と思いつつも事実なので私は大きく頷いた。


「ええ、本当です」

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