めでたし、めでたし
貴族の収入源は領地の税金や、貴族所有の畑で撮れる作物。領地での事業からの税金だ。でも一代貴族であり、領地のない私にはその方法は使えない。
そんな訳で、修道院を出た私の収入源は魔法学園の講師の給与と、家で始めた寄り添いである。もっとも、臨時講師は本日契約終了したのでこれからは寄り添い一本だが。
(修道院を出たから、ナタリー先生には残ることも提案されたけど……今後のことを考えると、別の修道女に任せた方がいいものね)
(でも寄り添いが修道院だけじゃなく、学校への派遣も増えたから定期的に、寄り添いの指導者として修道院や、学校にも顔を出すことになったものね)
(……結局、フェードアウト出来たのは最初だけかぁ)
現世の私にそう言って、私は自分の格好に目をやった。
今、私は卒業式の後のパーティー会場にいる。生徒ではないが、本日で契約終了なので参加するように言われた。修道院を出たので、それこそ新年のパーティーの時に着たドレスで、と思ったが毎回、ドレスを用意してくれるビアンカ様達が今回も今、私が着ているドレスを用意してくれた。しかも、前回はダレンさんが自分の礼服を譲ってくれたが、今回はラウルさんの礼服も一から作ることになったのだ。
しかも、料金を支払おうとしたら笑って辞退された。いや、笑い事ではない。
「ダレンの服も悪くはないけど、イザベルのドレスも作るならね!」
「まぁ、聖女様と違って男の人の礼服は、一着あればいいでしょう?」
「いえ、あの、私のドレスも毎回、作らなくても……」
「解ってます解ってます」
皆様、とても良い笑顔で私のお断りを受け流した。申し訳ない気持ちはあるが収入源の為にも、そしてラウルさんとこれから暮らす為にも寄り添いで貢献し、毎回じゃないにしろ新年のパーティーに出るようにはするつもりなので、ありがたく甘えることにしよう。
……現世父はあの後、侯爵から子爵へと降爵され、領地も一部没収された。
それでも幸か不幸か、現段階で跡継ぎがいないのと、私とラジャブとの婚約が未遂だったので他の貴族のように、当主引退まではなかった。そんな訳で、再び現世父は領地での引きこもり生活へと戻った。
(領地収入で、生きていけるから……今回こそ、懲りてくれるといいなぁ)
(そうね。幸せは祈れないけど、別に不幸になれとは思わないもの)
(……うん、そうね)
『好きの反対は、嫌いじゃなく無関心』。現世の私があっさり言ったのに、私は前世で聞いた言葉を思い出した。
「イザベル。そろそろ始まるみたいだ」
「ありがとう……ラウル、さん」
(惜しい!)
(ええ、もっと精進するわ)
傍らのラウルさんから声をかけられたのに、お礼で答える。答えながら、敬語はなくなったが未だにさん付けをやめられない私に現世の私が言い、それに私は次こそはと気合いを入れた。
「皆、卒業おめでとう!」
そんな私の耳に、殿下の声が届く。視線を向けるとその傍らには、いつものように青い──殿下の色のドレスを纏ったエマがいた。
実は、ゲームではここで攻略対象の色のドレスを初めて着るらしい。まあ、ここまでは攻略こそすれ婚約してはいないので言われてみればその通りなのだが。
もっともゲームと違い、既に婚約しているので以前から、エマは青いドレスを着てお互いの愛情を示しているし、見れば脳筋の婚約者であるアリアも、猪の傍らにいる婚約者らしき令嬢も、それぞれ彼らの色のドレスをまとっていた。ちなみに、教皇になる暴風雨は独身なのでパートナーはいないが、その格好は教皇としての礼服姿だ。
……こうして愛が叫ばれることなく、でもそれぞれの未来を手に入れて乙女ゲームは終わった。
「めでたし、めでたし……なんて、これからもまだまだ人生は続くけどね?」
「ああ、一緒に過ごす人生がな」
(素敵ね!)
お互いにだけ聞こえる小声でそう言って、私とラウルさん、そして現世の私はこっそりと笑い合った。
第三章&本編完結しました。
のんびり更新でしたが、ここまでのお付き合い、本当にありがとうございました!