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二人の心は一つになった

 言うだけ言うと、ラジャブは王族の座る席を立ち、スタスタと歩いて会場を後にしようとした。居合わせた一同が焦るが、あれだけ高らかに宣言されてしまうと止めるに止められない。

 ユリウスにはずっと異母兄に対して『追い出した』という負い目があった。だから功績を上げ、王都にやって来た時には、王位を『返さなければ』と思っていた。

 ……今日、こうして本人の口から『辺境で、医師でいたい』と聞くまでは。


(勝手に思い込んで、恥ずかしい……が、こうして任されたからには)


 傍らのエマに目をやると、ちょうどユリウスを見ていた彼女と目が合い、微笑まれた。

 そんなエマに笑い返し、その手を取るとユリウスは宴の会場の中央へと向かった。それから、足を止めて軽く目を瞠るラジャブに笑顔で言った。


「任されました! 異母兄上も、恋人とお幸せにっ」

「……ああ、ありがとう。ユリウス」


 目線で楽団に合図を送り、流れ出した音楽に合わせてエマと二人でファーストダンスを踊る。

 それに笑って、踵を返し──ラジャブは、今度こそ会場を後にした。



 王族が一曲踊った後、他の貴族達も踊り出す。

 今までは『聖女枠』だったので踊らなくても許されたが、仮にも爵位を得た今はそうはいかない。私はアントワーヌ様からダンスを教わっていたが、今日の為にラウルさんも練習してくれたので何とか一曲、無事に踊りきることが出来た。

 踊った後は軽食やお茶やお酒を楽しむことが出来るが、そこまでは余裕がないので挨拶を終えた後、少し早いが私とラウルさんは城を後にし、手配しておいた馬車に乗った。

 ……乗ったところで限界が来て、その場で崩れ落ちそうになった私は、ラウルさんの膝の上に乗せられた。


「久々だな」

「ありがとう、ございます……そうですね。多少は、免疫が出来ていましたが……ここしばらく、自分のキャ……許容量以上の人と会ったり、話したりしましたので」


 私の人見知りは、話せなくなって無言になるのではない。逆に自分から話しかけて場を取り持とうとするが、そうすることでいっぱいいっばいになり、家や自分の部屋でダウンしていた。

 そんな訳で前世の時も、初出勤の日の夜などにこうして限界が来て、力尽きて動けなくなることがあった。

 仕事と思えば何とかなるが、前世だと初出勤に複数の同期や上司と挨拶や世間話で交流した時に。今世だと現世父と宴に参加し、大勢の人達と話した後、あと臨時講師として学園に初登校した時にこれが出た。

 恋愛感情のある今となれば照れはするが、それよりも逞しい腕の中に収まり、肩や胸に受け留められる安心感が上回る。何せ、子供の頃からずっと護衛のラウルさんにはお世話になったので──だからこうして、ラウルさんに身を寄せて私はホッと安堵の息を吐いた。

 結婚をしたので、戻る先は修道院ではない。爵位と共に屋敷を得たので、今日からは二人でそこに住むことになる。

 今回得た、一代限りの爵位の報酬である屋敷は、代替わりにより手放すことになるそうだ。だから今回も、そうして空いていた屋敷を譲り受けた。逆に国に貢献し続けるか、別の功績を上げると新たに爵位を得られ、屋敷にも住み続けられるので、これからの頑張り次第だろう。

 ……ちなみに、ラウルさんと二人で住むが、二人『だけ』ではない。

 大豪邸ではないとは言え、貴族が暮らす屋敷である。せめて一人は使用人を雇うべきだとエマやアントワーヌ様から言われ、募集したところ──何と以前、現世父のところで働いていたローラが応募してくれた。

 何でも現世父が領地に戻った時に退職し、早くに夫を亡くしていたので息子夫婦のところで暮らしていたそうだが、お孫さんも成人したタイミングで使用人募集を知り、応募したと言う。


「年を取りましたので、あまりお役には立てないかもしれませんが……」

「最低限の衣食住については、自分達でやるつもりなの。ただ、あなたも知っての通り、私は子供の頃に修道院に入ったから……多少は淑女教育は受けたけれど、貴族の屋敷で仕えていたあなたに、貴族社会について色々、教えてほしい。ただ、元平民に仕えることになるけれど……どうかしら?」


 最後にそう続け、相手の答えを待ったのは現世父の乳母である彼女は子爵夫人だからである。私は修道院に入ったことで平民扱いだし、ラウルさんも平民だ。この異世界の身分社会の中ではむしろ、抵抗があるのが当たり前なので無理強いはしたくなかった。


「問題ございません。私は誠心誠意、おじょ……ご主人様達に、仕えるのみでございます」


 そんな私の問いかけに、ローラは生真面目に答えてくれた。こうしてローラの採用は決まり、今は屋敷で私達の帰りを待ってくれている。


「こうなる可能性は伝えているので、風呂や寝台の支度はされていると思う。帰ったら、すぐ休もう」

「……あの、でも、今夜は」


 ラウルさんの気づかいは嬉しかったが今夜は結婚後、初めての夜である。

 経験はないが、知識はある身としては情けなさと申し訳なさしかない。けれど、そんな私の後頭部に手を添えると、ラウルさんは更に私の頭を自分の胸に埋めて言った。


「俺を、こんなふにゃふにゃになっている女性を手籠めにする、最低男にしてくれるな……ああ、でも心配だから……何もしないから、一緒に寝てはくれるか?」

「……っ!」

(……っ!)


 その瞬間、私と現世のイザベルの心は一つになった。と言うかラウルさんにときめくあまり、何だかエマのように二人でハイテンションになってしまった。


((ラウルさん、満点! 百点、いや、百万億点ーっ!!))

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