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やられたこととやりたいこと

ラジャブ視点

 母は、東の辺境で医者をしていた。

 親の代から、住んでいたのは王国内だが見た目通り、母は異国の血を引いていた。そして、親から教わった医術で近隣の者達を支えていた。

 そんな母はある日、避暑に来たが嵐で馬車が横転し怪我を負った、当時王太子の父と出会った。

 父は、手当てをしてくれた母に惚れ込んだ。年下の熱量にほだされつつも王太子なので当然、父には婚約者がいた。だから、と母は王宮入りを断ったのだが──なんと、父の婚約者は母が王宮に来ることを了承した。

 実は、婚約者には死別したが想い続けている相手がいた。しかし、国の為に父との婚姻が必要なのは理解しており、何より母が王妃の座を望まなかった為、母の王宮入りは認められたのである。

 それ故、母と父と婚約者、あとそれぞれの子供であるラジャブとユリウスの関係は良好だった。また、母は愛妾と言うよりも王族専門医師のような立ち位置でもあった。

 だが、母の養父である辺境伯が求めなかったのに、一部の貴族が母とラジャブに王太子となるよう迫ってきたのだ。何度も母が、そして当人であるラジャブが断り続けたけれど、全く聞いては貰えなかった。

 内心では平民の愛妾と見下しているくせに、彼ら母子の為だとうそぶいてすり寄ってくる面々に、母は心身共にまいってしまった。直接の死因は肺炎だったが、本人に治ろうという気がなく高熱で倒れた後、そのまま亡くなってしまったのである。

 母の後を継いで、医師になりたかったというのも嘘ではない。

 ないが、それよりも母が亡くなったことで元凶である貴族達が出しゃばってくるのを防ぐ為、母の義父である辺境伯に頼み込んで王宮を出て東の辺境へと向かった。これで、性質の悪い連中から諦めて貰える。せいせいした気持ちでそう思い、医師であることに専念した。

 ……けれど、異母弟ユリウスが成人する今になっても、ラジャブを担ぎ上げようとすり寄ってくる奴らはいた。

 しかも今回は、頼んでもいない婚約者まで押しつけようとしてきたのである。


「わっ……我々は、国の為を思って!」

「そうですっ、だからこそ王には、ラジャブ殿下がふさわしいと……っ」

「そ、そして即位するからには、殿下を支える伴侶がひつよ」

「本当に、君らは無礼だね。いっそ、感心するよ。よく、こんな公の場で言えるよね?」


 かつての貴族達や今回、新たに加わった聖女の父親が言い募る。今までは陰でコソコソしていたが、これだけの証人達の前で自白したのだから、死刑にこそならなくても代替わりによる引退は間違いないだろう。いや、もしかしたら降爵もありえるかもしれない。

 もっともやられたことを許す気はないので、煽るように大げさに肩を竦めてみせてラジャブは言葉を続けた。


「そもそも皆、前提を間違えている。私が王になりたいなら五年前、成人になる時に王宮に乗り込んでいたさ。医師でいたいから、ずっと辺境にいたんだよ。君らは勝手に『私が王になりたい』と決めつけて、私にその気持ちがあるか聞こうとすらしなかったけどね」

「……王には、ならんのか?」


 そう尋ねてきたのは、国王である父だった。そして黙ってはいたが、王妃と異母弟ユリウスも同じく眼差しで問いかけてきた。

 昔は、とにかく王宮ここから逃げたいと考えて、医師になりたいとだけ告げて王宮を後にした。その後もそれ以上を伝えなかったので、他人だけでなく家族からも『誤解』されていたようだ。

 ……もう、王宮ここに戻るつもりはない。

 だから、ラジャブはにっこり笑って国王夫妻、それから異母弟にしっかりと『やりたいこと』を告げた。


「王位を押しつけられようとした末に母が死に、王宮を逃げ出すしかなかった私を救ってくれたのは、辺境伯を始めとするいかつくて、でも素朴で優しい人達です。そんな彼らを、これからは私が救いたい。あと、弟子兼恋人もいるので婚約者の押しつけはご遠慮願います……ユリウス? だから、王位は君に任せるよ」

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