以前とは違って
「ユリウス様経由で、エドガー達も協力してくれることになりました。いくらお異母兄様でも、イザベル様の恋路の邪魔をするなんて……わたし達は、認めませんからっ」
「エマ……」
私は、正座をしたまま力説するエマの名前を呼んだ。そうすることしか、出来なかった。
そんな私の視線の先で、拳を握ってファイティングポーズをしたエマが話を続ける。
「とぅるらぶは好きですけど、推しはイザベル様とユリウス様ですからっ……お姉さまが不幸になることは、どんなことをしても阻止しますから!」
「……ごめんなさい」
「えっ?」
「あなたは『とぅるらぶ』が好きだから、私とラジャブをくっつけると思っていたわ……本当に、ごめんなさい」
私は、正座をするエマの前で膝をつき、頭を下げて謝った。そんな私にパチリ、と瞬きをしたエマが、慌てて両手を振りながら言った。
「謝らないで下さいよー! 『とぅるらぶ』が好きなのは、事実ですし……まぁ、わたしには前科がありますから」
「……あぁ」
(そうだったわね)
気まずそうに目を逸らしたエマの言葉に、私と前世の私がかつてのエマとの出会いを思い出して納得の声を上げる。
そう、エマは私に殿下の婚約者になるように言ってきたんだった。私と殿下が推しであり、乙女ゲームとは異なる展開になったせいで、本来ならヒロインであるエマでは逆に、殿下のラジャブによるトラウマを刺激するからというのが理由だった。
(でも、今は違うみたいね)
(そうね、カナさん)
そんなやり取りをする私と前世の私の前で、エマが振っていた手を膝に置いて言う。
「あの時に、お姉さまに言われたじゃないですか。『自分の望む結末を、推しキャラに押しつけてはいけない』って。だから今度は、お姉さまの幸せを優先しようって……結局は、これも『わたし』の望む結末かもしれませんけど」
わたし『だけ』じゃなけりゃ、いいですよね?
小首を傾げ、子犬のような目で見上げてくるエマの左肩に、私はコツンと額を乗せた。
「え? あの、お?」
突然の接触に、エマが驚いて固まったのが解ったが──顔を見ると、年上ぶったり保護者ぶったりしてしまいそうなので、そのまま私は口を開いた。
「……助けて、くれる?」
「っ、はい!」
まだ本題に入っていないのに、エマが良い子の返事をする。
それに、ふ、と笑みをこぼすと私は自分で考え、ラウルさん達と話し合って決めた『これからのこと』をエマに打ち明けた。