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直接会って話すのならば

主人公視点&エマ視点

 エマと話をしたい。そう手紙を送ると、修道院に来てくれる代わりに一つの条件を出された。

 それは寄り添い部屋で普段、私と訪問者の間を隔てている闇魔法の壁を外してほしいということだった。


(顔を直接見て、話をしたいってことかしら?)

(カナさん……)

(大丈夫よ。元々、弱音を吐きやすいようにと安全対策で出したものだし。他の修道女を守る為に毎日、出し続けてるけど……私の魔法だから、消してもすぐにまた出すのは可能だし)


 現世のイザベルを安心させるように言ったところで、エマが寄り添い部屋に到着した。そして彼女が入室したところで、私は闇魔法の壁を消した。

 ……王立学園の時のように、じかにエマと対峙する。


『この度はっ! 馬鹿父が本当に、本当にっ、申し訳ございませんでしたーっ!』

『っ!?』

(何々っ!?)


 途端に私の前で膝をつき、日本語での謝罪と共に土下座したエマに私と現世のイザベルは驚き、固まった。そんな私達の視線の先で、エマが頭を下げたまま言葉を続ける。


『馬鹿父のやらかしに気づいた時は、話が進んでいて止められなくて……それで、今回は謝罪もですがイザベル様の気持ちをお聞きしたかったんです』

『……私の、気持ち?』

『ええ……もしかしたら、お異母兄にい様との婚姻を断ろうと、国外逃亡をお考えではないかと』

『っ!』


 図星を指されて、思わず息を呑む。

 そんな私に膝はついたまま、けれど下げていた頭を上げて、エマは真っ直に私を見た。


『そうだとしたら……イザベラ様が決めたのなら、わたし『達』が力を貸します。ただ、どうかラウルさんとお二人で……この国を離れて、幸せになって下さい』

『そんな!? 駄目よ、そんなことをしたら、あなたた……『達』?』


 エマの申し出を、慌てて止めようとした私はふと引っかかった。私を助けようとしているのは、エマだけではないのだろうか?

 疑問が、顔に出たんだろう。エマが、私の疑問に答えてくれた。


『はい! ユリウス様にも土下座して、協力して貰えることになりましたっ』

『…………は?』


 笑顔で、あっさりととんでもないことを。



 ユリウス様の婚約者であるわたしは、妃教育の為に王宮で暮らしている。

 とは言え、未成年の男女なので部屋で二人きりという訳にはいかず──でも、人に聞かれない話をする場合は夏ならバルコニー、あるいは庭の東屋で。そして、今のように冬や天気が悪ければで王族が使う食堂で『お茶会』の支度をし、侍従や侍女を声の届かない距離に控えさせる。

 そんな訳で、ラウルさんからイザベル様が自分と話したがっていると連絡を受けたわたしは、学校から王宮に戻ってすぐに食堂で『お茶会』の支度をさせた。


「今から、ユリウス様と込み入った話をするけれど……大丈夫だから、お願いだから呼ぶまで待っていてちょうだいね?」

「「かしこまりました」」


 セッティングを終えて、扉は開けたままの食堂から出ていく侍女達に、わたしはそう声をかけた。

 そして、彼女達が完全に外に出て、ユリウス様と二人きりになったところで──わたしはおもむろに、ユリウス様の前で土下座をした。


「エマ!?」

「申し訳ございません。私は、お姉さまとお異母兄様との婚姻は反対でございます……姉には、想い人がおります」

「それは……しかし、兄上は断らなかった。確かに、今は愛情はないかもしれない。だが、姉上……聖女となら。嫌っていないなら、これから一緒に過ごせば……」


 ユリウス様の、お異母兄様への思い入れは解る。それこそ、イザベル様が多くの方に寄り添って幸せにしたので、お異母兄さまも幸せにしたいんだろう。

 だけど、わたしは知っている。

 そんなユリウス様の推しはイザベル様に、そして何よりわたしにとって地雷なのだと。


「それは、お姉さまに想い人がいない場合の話です。姉も、そして私も一途ですよ? いくら素敵な方だとしても、想い人以外にはなびきません」

「っ!」

「ただし想い人とは別に、姉への……家族への愛はございます。私は、お姉さまに幸せになってほしい。だから反対いたしますし、出来る限りお姉さまの力になりたいです……ユリウス様、申し訳ございません」

「…………」


 そう言って再び頭を下げたわたしに、降ってくる沈黙。

 ……次いで、目の前のユリウス様がしゃがんだ気配を感じて、わたしは慌てて顔を上げた。


「謝ることはない。いや、逆に君が私と、姉上を想っていることは解っている筈なのに……板挟みにしてしまった。申し訳ない」

「そんな!? ユリウス様こそ、謝らないで下さいませっ」

「……いや。私は君のことを引き受けると姉上に啖呵を切ったことがあるんだ。君の、一番になりたくて……それなのに、君『を』私の一番にしていなかった。本当に、申し訳なかった」

「えっ……えぇ?」


 頭を下げたユリウス様に言われたことは、全くの初耳だった。だから最初、その言葉の内容に頭がついていかなくて──理解した瞬間、わたしは頬が、いや、全身がカーッと熱くなるのが解った。

 そんなわたしの目を真っ直に見つめて、しゃがんでわたしに目線を合わせたユリウス様が言った。


「姉上に伝えてくれ。エマもだが、私も姉上に協力すると……すまなかった、と」

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