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フェードアウト、と思ったけど

 ナタリー先生には心配されたが、ラウルさんと合わせて今のラジャブとのやり取りの口止めだけをお願いして、私は今日の寄り添いを何とかやり遂げた。

 ちなみに口止めは、そもそも二人が言いふらすと思っていないのだが──本来なら聞かせなくてもいい話に、結果的に巻き込んでしまったのであえて言った。ラウルさんは相変わらずの無表情だったが、ナタリー先生はむしろ安心したようだった。聞くと王族との高位貴族との婚姻という秘密を、下級貴族の自分がどう扱っていいのか悩んだらしい。そこで、私から方向性を示されたので安堵したそうだ。


「解りました! この命に賭けても、口外しませんっ」

「いえ、そこまで賭けないで下さいね?」


 そんなナタリー先生と私のやり取りを、ラウルさんは口止めに対して頷いた後、いつものように黙って見守っていた。

 ……お互いを大切に想っているとは言え、私とラウルさんは恋人という訳ではない。

 だからこれは私の勝手な気持ちなんだけど、他の男性との婚姻に対してラウルさんが何も言ってくれないことを寂しいと思った。

 けれど、言ってもラウルさんが困るのと──うっかり、恋心をぶちまけてしまいそうなので私も何も言わず、二人で帰りの馬車に乗った。

 気遣ってはくれているのか、ラウルさんが黙ったままなので私も無理に話題を振らず、これからのことを考えることにする。


(いくら精神年齢が年上でも、平和ボケした私じゃ勝てないか)

(カナさん……)


 現世のイザベルが慰めようとしてくるが、事実なので仕方がない。

 せっかく本人と直接、話が出来たのに私はラジャブとの婚姻を断ることが出来なかった。

 現世父が、強引に私を押しつけただけ。それなら簡単に断れると思った私が馬鹿だし、甘かった。現世父から、そして家から離れて修道院にいるが、私には貴族令嬢としての価値も残っていたんだ。


(だから、いくら私本人が『平民』だと言って逃げようとしても、こうして引っ張り出される)


 昔は『聖女』という地位と、殿下ユリウス達の後押しを得て現世父に連れ戻されることを断ることが出来た。

 だが、今回は違う。

 何しろ、私を選んだのは王族だ。教会としては『聖女』の私を手放すのは惜しいかもしれないが、生活魔法や寄り添いは大分、布教された。自分で言うのも何だけど、もう発案者の私がいなくても続けていけるだろう。


殿下ユリウス達や……エマも、なぁ)


 そして今回、もう一人の王族である殿下ユリウス達の力も正直、当てにならない。

 エマの様子を見たりエマから聞いた殿下の話からすると、逆にラジャブとの婚姻を勧められるのではと不安しかない。

 だが、好きでも何でもない男と結婚なんて出来ない。

 そうなると、周りを巻き込まない為に修道院を、いや、この国を離れなくては。


(イザベル、ごめん……)

(……いいわ。カナさんは、一緒でしょう?)

(ごめんね、ありがとう……また一緒に、フェードアウトしましょうね)


 そうイザベルと約束をしたところで、馬車が修道院へと到着した。先に降りたラウルさんの手を取り、馬車から降りる。

 それから、いつものように夕食の後に晩の祈りをおこなって消灯となった頃──私は、同室のアントワーヌ様が眠ったのを見計らい、パジャマの上に外套を羽織り、魔法学園に行く時のように財布やハンカチなど最低限だけを持って部屋を抜け出した。

 消灯後なので、廊下には誰もいない。とは言え、見つかっては困るので足音に気をつけながら進み、修道院を抜け出そうとしたのだが。


「聖女様」

「……ラウルさん!?」


 建物を出たところで、ラウルさんと鉢合わせて私は思わず声を上げ、慌てて口を押さえて視線を巡らせた。そして、他には誰も駆けつけないことを確認してから、おずおずとラウルを見上げた。


「気づかれていたんですか……? 私が、修道院ここを出ると」

「ああ。修道院ここや、我々の為に出ていくと思ったから、こうして待っていた」

「……寒かったでしょう? 申し訳ないです」


 雪こそないが、冬なのに外で待たせてしまった。いや、解っているのなら正直、放っておいてほしかったが、馬鹿がつくくらい真面目なラウルさんには出来ないと思う。だから、と謝って、頭を下げると──ラウルさんの声が、降ってきた。


「聖女様は優しいが、優しすぎて一人で抱えてしまう傾向にある……だが、あの男と結婚したくはないんだろう?」

「あのおと……ええ。あの人だけじゃなく、私は誰とも結婚する気はありません」


 半分平民とは言え、仮にも王族に対しての無礼な物言いに焦って顔を上げて、私は「ラウル以外とは」と声に出さずに続けた。ラウルさん本人には言えないが、主人公とイザベルの本心だ。

 だが、そんな私にラウルさんは思いがけないことを言ってきた。


「それは、俺の為だろうか?」

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