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その後の人生は  作者:
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06:試しに

「うりゃあ!」


「グギャアアアッ!」


次の日の昼、アレンが突いた棒が鬣狼の横腹を突き刺ささる。


それもフェルトさんとやらに習ったのが、突き刺さった棒に捻りを入れながら引き抜く。


鬣狼の横腹からは多量の血が流れ出てるが、まだふらつきながらも倒れていない。


アレンは昨日私が突貫で作ったお盆サイズの盾擬きな木の板を左腕に括りつけており、それを前に出しながら間合いを計っている。


「グラアアアア!」


「ッシ!」


決死で跳びかかる鬣狼。


アレンは鬣狼の前足部分を盾擬きで弾く様にぶつけ、下から腹に向かって棒を思いっきり突き刺した。


これがクリティカルだったらしく、鬣狼も動かなくなる。


アレンは息切れを起こしてはいるけど、鬣狼一匹ぐらいなら慣れない武器でも戦えるみたいだ。


………この二人、実は私みたく力を抑えるとかして一からやり直してるとかじゃないかと疑う時がある。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「お疲れ」


「苦戦してたみたいだけど、見えないとこに怪我とかしてないでしょうね」


「大丈夫だっての。けど、やっぱ槍とかは使い慣れないわ」


アレンは仕留めた鬣狼の腹から棒を引き抜いた。


そこには槍先は付けられてないけど、代わりに《防壁の祈りマティ・ウォール》による小さい三角錐状の不可視の結界がある。


今は結界に着いた血でその形状が見て取れた。


「にしても、最初にこういう使い方を思いついた人って凄いね。大ネズミを通せんぼした時もだけど、アタシじゃこういう使い方は思いつかないよ」


「……いや、聞いた人の言い方だと、思いついた方の性格に問題があるだけな感じだったから思いつかないのが普通だと思うよ」


神への信仰心を糧に奇跡の一端を借受けているって事になってる神術をこんな風に使うのはどうなの?ってあの頃から思ってた事を、まさか自分から提案する事になるなんて人生は分からない。


本来は守りに使う《防壁の祈りマティ・ウォール》を、こういう風に使ったアホがいるらしいよと話して試した結果、それなりに有効ではあるみたいだった。


ただ《防壁の祈りマティ・ウォール》の結界には切れ味なんてないから工夫する必要はあったけど。


昔のパーティの僧士に倣うにしてもハンマーは癖が強いから槍で試して貰ったけど、アレン的には槍はあんまり好みではない様子。


「でも槍がしっくりこないなら鈍器にでもするしかない訳だけど」


「それは流石にお怒りが来ないかちょっと心配になっちゃうかなぁ……」


「うんまぁ、それが普通だと思うよ。それに鈍器ならそこらで材木買ってきて適当に削りでもしたら棍棒っぽいのは出来るしな。わざわざ神術の回数を削ってやる程じゃねぇかなって思うわ」


「ホントは盾もそうだけど、戦いに使うなら素人作りのはオススメしないよ。でも、そうだね。いっそ武器の代用とかじゃなくて仲間を増やす方向性もいいかもね」


「仲間?」


「そう。アレン以外の前衛職を入れるわけ。そうすれば一人で戦うよりも安定感が増してさっきみたいな事にも陥り難くなるだろうし、壁職でも居たら私達後衛職もティアの神術に頼らなくても安全を確保できるからその分の注意を前衛に向けれる」


「成程な。前衛なんて探せば掃く程いるしな」


「でも冒険者として経験のある人達は私達みたいな駆け出しのパーティには入らない。となると新人狙いになるけど、二人みたいに優秀なのは期待できない」


私の言葉に二人が揃って首を傾げる。


「優秀って、俺達が?」


「…………自覚は無いみたいだけど、アレンみたいに初めからそんなに立ち回れるのも、ティアみたいに三、四つも神術を憶えててしかも数回も使えるのはレアなの。普通はもっと弱いし色々と出来ない事が多いの」


「でもニューアも魔法を幾つも使えるよね?」


「私の場合は元々天才で先生も良かったから例外」


「自分で言いきるのか」


アレンが呆れた様な声を出すけど、魔力の多くを封印して大半の魔法が使えなくなってるとしても、自分の才能と先生に師事した事で得た知識や技能は私の誇り。

  

恥そうじ入る事は何もないのだ。


「大半の冒険者希望は、村の都合で放り出された次男坊や三男坊ってのが多いの。アレンみたいに優秀な冒険者の知り合いに色々と習った、なんてまず無いから皆素人で装備も粗末。戦いとなったら闇雲に武器を振り回すだけって考えてる奴も普通にいる」


ギルド設立の経緯がそういう次男坊以下が野盗化するのを防止すると同時に口減らしを自然な形で行う為って噂もあるぐらい。


駆け出しの死亡率を考えればあながち間違ったものじゃないし、それを考えるとパーティに誘ってくれたのがティアとアレンだったのは幸運だった。


「じゃあ、ニューアは仲間を増やすのは反対なのか?」


「代用の武器を買う代金が貯まるのにも時間が掛かるし、仲間を増やすのが一番安定だと思うよ。だけど、二人みたいに戦える様になるのにはにらぐらいに時間が掛かるという話」


「長い目で見てって事?」


「仲間を増やすならね。後は性格とかそこらの相性もあるけど、それは一緒に組まないと分からないだろうから何とも言えない」


「なら、今みたくお試しでパーティに入れて大丈夫そうならそのままオーケーで、ダメならサヨナラでいいんじゃないか?」


アレンの言葉にティアも得に異論はないようだった。


ここでふと、イタズラ心が湧いた。


「じゃ、ギルドを通して仲間を募集しようか。でもアレンにとっては少し残念な結果になるかもね」


「は?俺の負担を減らす為に前衛増やすって話なのにか?」


「だって前衛職は圧倒的に男率が高いんだよ?可愛い幼馴染とついでに私で両手に花なハーレムパーティが崩れちゃう」


「な、何言ってるのニューア!?」


ボッと顔を赤くするティア。


対してアレンの反応は悪い。


「ハーレム……、ハーレムなのか?これ?」


「客観的に見たら」


「二人が悪いとがダメとかって意味じゃないけどさ、ハーレムってのは皆が俺を好いてキャーキャー持ち上げまくってくれるようなのじゃねぇの?」


「複数の女の子を一人で独占してたらそれはハーレムだよ」


「独占してるのは援護ぐらいで、他は全然じゃねぇか」


「貴重な女の子冒険者を二人も抱えてるんだから内情は問わないんじゃないかな?」


「マジか。詐欺喰らった気分なんだけど。ハーレムってのはもっとこう、男のロマンとか夢とかに溢れてるものじゃないのか?」


「現実ってのは厳しいものだよ。でも、新しく入るのが女の子だったら―――」


「ああもう!終わり!この話はこれでお終い!さっさと鬣狼の証明部位取ってギルドに戻るよ!」


ティアが手を大きく叩いて話を強制終了させる。


アレンも、「おう」と応えてナイフで鬣を切取っていく。


まぁ、期待してたリアクションは無かったけど、これはこれで面白いから良しとしよう。



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