05:失敗
~~~ヒルザス帝国/北の森~~~
「よっと」
北の森にある薬草の群生地。
そこで目標である薬草を摘んでるわけだけど……
「…………普通に上手く抜いてるし」
心配だったアレンは予想外にも道具を上手く使って丁寧に薬草を根っこから抜いている。
薬草採取の注意点もきちんと守ってるし、アレなら高評価で買い取りして貰えるはずだ。
「こんなもん、山菜採るのと変わらねぇだろ。それよかニューア、お前って不器用なんだな」
グハッ!
「う、うるさいバカ!これは、そう久しぶりだから上手くいかないだけだし!」
ちゃんと傷をつけない様に抜いてるからちょっと遅いだけだし!
こういうのは早さじゃなくて丁寧さが重要なんだよ!
「や、こんなんに久しぶりとか関係――ガハッ!?」
「はいはい、余計な事は言わずに必要分引っこ抜いてね」
余計な追撃をしようとしてきたアレンは、いつの間にかその背後に回っていたティアに杖槌で横腹を見事なスィングで撃ち込まれて悶絶した。
「ニューア、もしやり難いんならすこし広めに掘って根っこの周りの土ごと掘り出すようにしたらいいよ。この種類なら根っこもそんなに深くは伸びないし、土は後でどうとでも出来るから」
「あ、うん。ありがと……」
ティアのアドバイスに従って周りの土ごと薬草を掘り出すようにする。
これはこれで大変だけど、根を傷付ける心配も少なくて確かにやりやすくはなった。
「ティアもアレンも薬草採りなれてるみたいだけど、前から似たような事してたの?」
「アレンは山菜採りとかで、アタシは神術の勉強の一環で薬とかも作ってたから自然と材料の薬草採りも慣れたかな」
「なるほど」
薬草採りは私も先生の下で修業してた時にやってたんだけどね……
うーん、でもこれだとどっちが駆け出しか分からなくなる。
一応私も駆け出しってなってるけど、自信なくなるなぁ。
「よいしょっ、と。これで目標の数になったかな」
ティアが薬草を抜いて数を確認する。
一番多く採ったのはアレン、続いてティア、最後に私。
…………前のパーティの時は仲間ががちゃちゃっとやってくれてたから分かんなかったけど、ここまで私の採取技能は低かったのか。
「あんま取れなかったからって気を落すなよ」
「落してない!取っていい量は決まってるんだし、別に気にしてない!」
「あーはいはい。で、どうするよ?このまま戻って納品するか、少しうろついて森とかでの戦闘も体験してくか?」
「……納品前の薬草持ったままあまり暴れたくはないけど、ギルドの資料だとここにはそこまで危険なのもいないみたいだし、まだ時間に余裕もあるから薬草は私とティアで持って夕方前には終わるようにすれば帰りも問題無いはず。狙う獲物は螺子角ウサギと鬣狼辺りで」
「でも上手くいっても無理はダメだよ。アレンはいつも調子に乗って失敗するんだから」
「俺が勝手な行動しようとまたフルスイングしてくるだろうがよ。アレはプロテクターの上からでもキツイし進んで喰らおうとは思わねぇよ」
「ならいいけど」
ティアは半目でアレンを見てるけど、深く注意しない辺り信用はしてる様子。
まぁ信用して無ければ一緒に冒険者になろうとは思わないだろうけど。
「よっ、と!」
「グルァァァ!」
《守護の祈り》のかかった革の籠手の防御力にモノを言わせ、鬣狼に腕をわざと噛ませた上でその首に手斧を叩き込むアレン。
ティアの神術の効果を信頼しての確実に殺る為の思い切った行動は駆け出しの前衛職とは思えない。
でもさ、《防壁の祈り》の安全圏にいる私がいうのもなだけど、あれって結構な蛮族ムーブだよね。
そういえば、北の辺境の地にそれこそ神術や魔法の補助無しにああいうのを平然とする戦闘民族が居たなぁ。
威嚇は効かないわ片手片足が無くなっても平然と襲い掛かって来るわと、二度と敵にしたくない連中だった。
……まさかアレンも連中みたくならないよね?
まぁそれはそれとして、
「《大地の水布》!」
「ギャン!?」
一体が噛み付けたのにそのまま殺られたのを見て敵わないと判断したのか、そのまま逃げようとしていた三体の鬣狼たちの足元の土を魔法で泥沼へと変える。
下級呪文だからそこまで範囲は広くないし深くもないけど、急に足場がそれなりの深さの泥沼に変われば足は取られる。
「ナイス!」
アレンは泥沼にハマって抜け出そうとする鬣狼たちに向かって駆け出す。
一番手前に居た鬣狼が反撃しようと口を広げた所に、アレンが容赦なく手斧をその口に叩き込む。
が、それは悪手だった。
「げっ!コイツ……!」
明らかに致命傷な一撃を受けた鬣狼だが、最後の力を振り絞ってるのか手斧に噛み付いて離さない。
そうしてる内に他の鬣狼は泥沼から抜け出してしまう。
「手斧は諦めて!」
「クソッ!」
ティアの言葉にアレンは手斧から手を離すが、距離を取る前に二体の鬣狼がアレンに襲い掛かる。
「《氷結の弾》!」
私の周りに小石程度の氷の礫が幾つも発生し、鬣狼たちに襲われるアレンの周囲に放たれる。
「ギャワッ!」
広範囲に結構な速度で放たれた氷の礫は鬣狼たちを怯ませれた。
そして《守護の祈り》で防具の上からなら噛み付かれても大丈夫な程度に防御力が上がっていたアレンはあの数瞬の間では致命傷を喰らっては居なかったようで、そのまま距離を取る事に成功する。
鬣狼たちもこれ以上戦う気は無い様で、こちらに背を向けて駆け出してく。
「はぁ、疲れた」
「アレン!大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。《守護の祈り》もあったし、あれぐらい平気だって」
「念のため《治癒の祈り》かけるから」
「いや大丈夫だって。回数がもったい――」
「黙って受ける!」
「はい!」
ティアがアレンに治癒を施していく。
目に見える怪我は無くてもやっぱり痛みはあったようで、アレンも楽になった様子だ。
「……アレン、ごめん」
「あ?なんでニューアが謝るんだよ?」
「鬣狼たちはあのまま逃がすべきだった。出来ると思って調子に乗って迷惑かけたから」
《氷結の蔦》だと逃がしちゃうからって《大地の水布》で足止めしたけど、反撃される可能性をきっちり考える考えるべきだった。
「いや、あれは俺のミスだろ。もっと勢いつけて振り切るかさっさと手斧を離しときゃよかったんだから。とっさの判断が重要ってフェルト兄さんからも言われてたしな」
失敗したぜとため息をつくアレン。
「アレンの手持ちはあの手斧だけだし、離せない気持ちは分かるよ。予備武器があれば踏ん切りも付きやすいと思うけど」
「金がなぁ。農具系のでもしっかりとした奴は値が張るしよ。あの手斧も餞別で貰ったもんだし」
その手斧は泥沼の方に浮かぶ鬣狼の顔に刺さったまま。
流石に噛み付いていた鬣狼も事切れてるみたいだし、ちゃんと回収出来るのは良かった。
「でも安い物だと心配だし、こういうのはちゃんとしたものを用意しないと」
「分かってるって。安物買いして死ぬのは勘弁だしな」
「お金、ね」
確かに、ちゃんとした物は中古でもお金がかかる。
侯爵家に居た頃は勿論、前の冒険の時も実家の伝手や上位依頼の報酬でお金に困った事は無かった。
対して今は、先生の教え通りにかけるお金を切り詰めて二人と一緒に馬小屋の飼料置き場を借りて寝起きしててもお財布の中身は心許ない。
自分で武器や防具の手入れするにしても、きちんとするにはある程度のお金はどうしてもかかるし、すき間を縫って臭い消しや傷薬とかを数本作ってギルドに卸してる分、収入がマシな私でもそうなんだから武器を買うのは難しいかも――――あっ。
「……これなら、いけるかも?」
「お、何か良い金儲けでもあるのか?」
「楽して儲けられたら苦労しないでしょ」
「お金儲けじゃないけど、武器の代案にはなる、かもしれない」
「マジか!」
「それはね―――――」