01:出会い
~~~ヒルザス帝国/交易都市ベダン~~~
「相変わらず大した賑わいね」
ヒルザス帝国でも屈指の交易都市であるベダンは検問で魔導具に顔と名前を記録すれば自国民だけでなく、他国の旅人や商人も税を取られる事無く出入りできる。
その為、毎日多くの交易商や冒険者がこの都市を訪れる。
それは魔王が健在だった時も滅んだ後も変わる事はなく、有ったとしても売れ筋の商品が変わるぐらい。
因みに螺子角ウサギは角も肉も細工品やギルドに卸す携帯食に使われるから今でも安定した値段で売れる。
「ギルドはあっちね」
私は人混みの流れに紛れ、目的地まで向かう。
初めて旅をした時はこういう人混みの音や臭いで酔ったりもしたけど、今では慣れたもの。
露店に目移りしたりもするけど余計なモノを変える余裕は無いから、大都市特有のスリに気を使いながらギルド会館までまっすぐ向かうが、
「……なんか緊張する」
いざギルド会館の大扉を前にすると、尻込みしてしまう。
ギルドなんて色んな都市で、それこそここよりも大きなギルドにも何度も出入りしたはずなのに、怖い。
「…………そういえば、一人で来たのは初めてだ」
今までは誰かしら一緒に居た。
けど、今では私一人しかいないのだ。
私、一人しか
「……。大丈夫、大したことない。ここの道中でも、一人で戦えたし素材も取れた。ギルドに入って登録を済ますぐらい余裕で出来る。うん私は出来る、なんせ天さ――「おい」――ヒッ!?」
念のため、自己確認をしてる最中に肩をポンと叩かれて思わず驚きの声が出る。
バッと振り向きながらバックステップで距離を取ろうとしたら、
「いたっ!」
大扉に思いっきり頭と背中をぶつけてしまう。
しゃがみ込んで痛い部分を抑えたいのをグッと堪えて前を向くと、ポカンとした顔と男の子と女の子がいた。
生意気そうな男の子は動きやすそうだがそれなりに使い込まれた革のプロテクターを付けて腰に手斧を吊るしている。
ポワンとした女の子は豊穣神のマークが付いた僧服を来て、杖槌を持ってる。
恰好からして駆け出し戦士、見習い僧士か。
「大丈夫か?その、色々と」
「何が?大丈夫じゃない事なんて私には何一つ無い」
「でも、さっきなんか大門の前でブツブツ言ってたし、今も何か涙目だよ?」
「い、痛くないし!このぐらい、なんでもない!」
「おもいっきり『いたっ!』って言ってただろ」
反論してきた男の子をキッと睨んで言う。
「言っていない」
「いや、絶対言って――」
「ストップ。貴女も今は痛くなくても後で痛んで来たりするし、治癒かけといたほうがいいよ」
「……治癒術なんて使えない」
「アタシが使えるから大丈夫だよ」
「知らない人にそこまでして貰う筋合いは、無い」
「でも、瘤とか青痣とかになっちゃうかもよ?変に跡が残ったりしたら嫌でしょ?」
「そ、それは……」
「ほら後ろ向いて」
「あ、ちょっと!」
見た目に反して意外と力が強かった女の子に強制的に半回転させたれ、そのまま治癒術をかけられる。
懐かしい、身体が暖かくなるような感覚と共に痛みが引いていった。
「はい、終わり。痛い所とかはない?」
「……ない。ありがとう」
「ん。どういたしまして」
ホワッとした笑顔をする女の子。
何となく居心地が悪い。
そんな時に、生意気な男の子が変な提案をしてくる。
「お前さ、ギルドに登録に行くとこだろ。俺達とパーティ組まないか?」
「は?」
「アタシ達もギルドに登録しに来たんだ。でも子供二人だけだと何かと大変だろうし、後何人か仲間が欲しい所だったの」
「見たところ、魔導士なんだよな。ティアは回復とか補助とかは出来るけど、攻撃とかは出来ないからな。後ろからでも色々と攻撃出来る奴が居たら助かるんだよ」
女の子の方はティアっていうらしい。
にしても、この二人の考えも間違ってはないけど
「治癒術のお礼に教えるけど、その場で見かけただけの見ず知らずをパーティに加えるなんてしない方がいいよ。きちんとギルドを通してパーティを組んだ方が安全」
国営とはいえ、元々ゴロツキ紛いな連中に目的と報酬を与えてこき使うのが目的なギルドの登録審査なんてどの国でも共通して雑なもの。
規約と罰則で縛ってるとはいえ、ギルドと依頼人に対して表面上を取り繕ってればそれも問題にならなず、パーティ内での揉め事には基本的にギルドは不干渉。
例外としてギルドを通しての勧誘であれば、ギルドに訴えを出して対処してもらう事もできるため、どんな奴か居るか分からない以上は登録者の査定評価を持ってるギルドを通してパーティ勧誘するのが基本になる。
私もそのつもりだった。
「俺達みたいな駆け出しのペーペーが勧誘出しても碌なの来ないって。それに戦士職なんてそれこそ一束幾らみたいにいるから既存パーティに入る事も厳しいしな。それなら自分たちの目を信じた方がマシってもんだ」
「こう見えてアレンの眼は確かなの。本能で生きてるようなとこがあるから」
「ちゃんと考えて生きてるわ!」
アレンっていう男の子の眼が確かかどうかはさて置き、私にとって益になる提案でもある。
もし騙し目的だったとしても二人ぐらいなら、最悪後遺症覚悟で封印を一時的に緩めれば単騎でどうにでも出来るレベルだし、勧誘するよりも初めからパーティを組んでる方が目立ち難いのも確か。
「……分かった。一応、お試しでパーティに入るけど、貴方達か私、どちらかが組まない方がいいなって思ったら解消するって約束するのが条件」
「合わないなら別のパーティ探した方がいいって事だな。けど、始めは息が合わないのはしょうがねぇし、解散するのはパーティ行動の5回目からでどうだ?」
「4回目までは互いの擦り合わせ期間、まぁそれでいいよ」
「じゃあ決まりだね。もう分かってるだろうけど、アタシはティアでこっちはアレン。貴女の名前は?」
名前、か。
以前の名前はもう使えない。
だから、先生は私に新しい名前をくれた。
新しい、私のその名前は――
「私はニューア。短いか長いかは分からないけど、よろしく」