表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

その他の短編

メリーさんは0距離

作者: 卯の雛

 静まり返った夜。マナーモードの携帯電話が必死に震えている。俺は応答ボタンを押して、そっと耳に当てた。


「もしもし? 私メリーさん。今駅にいるの」


 俺は通話を切り、ため息をつく。

 電話をそばに置きテレビの電源をつけた。すると、もう一度振動音が聞こえてくる。俺はまた、通話に出た。


「もしもし? 私メリーさん。今あなたの家の前にいるの」


 俺は携帯電話をソファに落とし、玄関へと向かった。のぞき穴には誰も映っていない。戻ってインターホンのカメラを確認するが変わりはない。

 そのとき、ソファから呼び鈴が鳴り出す。俺は、三度(みたび)その声を聴いた。


「もしもし? 私メリーさん。今あなたの後ろに――」


 話を最後まで聞かず後ろに振り返る。しかし、人影も何かがいた形跡もない。俺はただ、着信を待った。

 俺が携帯電話からその声を聞くことはなかった。


「もしもし? 私メリーさん。今あなたの――中にいるの」


 直接耳元でささやかれた。脅かすように、おどけるように。その瞬間から体が動かない。それどころか意思とは関係なく動き出す。そして、勝手に口を開いた。


「よっしゃー憑依成功! 私の勝ちぃ! 避ける暇もなかったようね」


 俺の体は片腕を突き上げる。固く閉ざされたまぶたからは、その満ちた感情を誰もが理解するだろう。初めから抵抗するつもりもなかったが言わない方が良いか。


「久しぶりのミルクプリンだー!」

「あぁ、良かったね」

「安心しなさい。食べ終わったらすぐに体を戻してあげる。濃厚なミルクの味を堪能することね。でもクリーミーなのど越しは私が全部味わっておくわ!」


 同じ体の中で感覚の所有権を奪われた俺は、慣れと諦めで高揚した声を聞くに徹する。健やかに伸びる笑いは体を重くするが、心は軽くなる気がしなくもない。


「それにしても、わざわざ駅まで行かなくても良くない?」

「それじゃあメリーさんっぽくないじゃない」

「アンタとの共通点幽霊ってだけだけどな」


 なんのこだわりか知らないが律儀なことだ。さしずめ、やりきった後のご褒美と言ったところか。着々と準備を進め、カップのふたを取り、スプーンを構える。


「いっただっきまーす!」


 もしもし、うちのメリーさんは今俺の中にいます。体が戻る前にチョコレートの場所でも教えてやるか。とびきりビターなやつのをな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ