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~甘く優しく~

 「お兄さん!! お兄さんってば!!」

香さんの声が頭に響く。

「あと5分だけ……寝かせて下さいぃ……」

「駄目だよ!! 早く起きてよー」

ついにはバサッと布団を取られてしまう。

「……寒いです……」

僕はブルッと身を震わせた。

「おはよ、お兄さん!!」

香さんはやけに元気だ。僕は仕方なく体を起こし、溜め息を吐く。

「……おはようございます。香さん……朝から元気ですね……」

そう言うと、香さんはにこっと笑って

「うん!! だってね、しばらくお兄さんと一緒に暮らせるから!!」

と、答えた。可愛らしい様子だったが、僕は複雑な気持ちでいた。そう、昨日見たあの夢。そして、どうして現実に夢の時と全く変わらない香さんがいるのかと……。やはり別人とは考えにくかった。顔も性格も全く同じで、名前も同じ……。そんなの、偶然と言えるのだろうか。いや、言えないはずなんだ。この子は夢で出てきた子……香ちゃんなんだ。だけど、そう考えるとつまり……現実ではありえないことが起こっているのを、信じることになる。そしてそれがもし、事実なら……星奈も此処にいるのでは……? 星奈がいるかもしれないと思うと、胸が騒ぐ。また……星奈と会える……?

「……お兄さん……?」

「!!」

香さんの声にはっと我に返り、

「大丈夫です。少し考え事を……」

そう言って、誤魔化した。

「……香さん、僕としばらく暮らせる……というのは……?」

「あ、あのね。親とは仲直りしたんだけど、当分お兄さんの所に住まわせてもらいなさいって!! それ聞いて私、やったぁー!! って飛び跳ねそうになったぐらい、嬉しかったの!! お兄さん、まだ元気ないみたいだし、私も、もうちょっとお兄さんの傍にいたかったから」

香さんは目を輝かせて言う。本当に嬉しそうだ。

「僕は十分元気ですよ。香さんに相談もしましたし、だいぶスッキリしましたよ」

そう言うと、香さんは悲し気な顔して

「私、お兄さんと生活してみたいんだ……。そして、悩みとかあったらちゃんと聞きたい。……お兄さんは私と生活するの……嫌……?」

香さんは本気だった。星奈を失ってから、僕は人との関わりを避けてきた。もちろん今も香さんがいなくなったら……と思うと、今度こそ僕は壊れてしまうのではないかと不安と恐怖が心を支配する。だけど心の何処かに寂しいという気持ちもあった。香さんと一緒に暮らせばどれほど楽しいことだろうか。……香さんと暮らせば、星奈のことは忘れることは出来なくても、心は少しずつでも回復して、いつか、星奈の死を受け止めることが出来る日が来るかもしれない。そう思うと、ふと僕の視界に映る世界が少し色付いた気がした。香さんに色が付いた。横に二つにくくっている黒髪。可愛らしいピンク色のワンピース。泣きそうな顔。目と頬と鼻を赤くさせている。小さな体をフルフルと震わせ、香さんは僕を見ていた。そして、僕の部屋も少しずつ色が付いていく。木の床。白い冷蔵庫。黒いベッド。黒いソファ。大きな窓から見える景色はまだ白黒だったが、綺麗な青空は見えた。

「……香さん」

「何……? お兄さん……」

香さんは今にも泣きそうな顔で僕を見つめる。すると、僕の心に何かが生じ、僕の体は勝手に動き、気付けば香さんを抱き締めていた。

「……!? お兄さん……? どうしたの?」

「僕は……ずっと貴方みたいな人を……待っていたのかもしれません……。貴方のような……思いやりがあって、優しくて……明るい人を……」

「お兄さん……」

「貴方と出会えたから……僕はこうして自我を保てます……。貴方がいてくれるから……世界に色が付くんです……。だから……」

「……だから……?」

香さんに聞かれ、僕はすっと息を吸って

「僕の傍に……いて下さい……。これからも……此処で……一緒に……」

いつの間にか涙が出てきた。今まで人と関わる気にもなれず、ずっと閉じ籠ってきた。だけど香さんと出会って、星奈に対する悲しみを話したことで、僕はやっと心に余裕が出来た気がした。そして、香さんは少しずつ、僕の悲しみを癒してくれた。だから僕は今……生きている。

「……うん!! 私もお兄さんの傍にいたい!! ずっと……いたい!! ありがと、お兄さん!! 嬉しいよ……!!」

香さんはそう言って、満面の笑みを浮かべた。

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