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~寒さと温かさと戸惑い~

 「あ……あの時のお兄さんだ……!!」

香さんは僕を思い出すと、にこっと笑い駆け寄ってきた。……可愛らしいなと思った。

「また会えましたね、お兄さん!!」

「……やあ」

僕は目を逸らしたまま尋ねてみた。

「此処で何してたの?」

「うーんとね……私、親と喧嘩しちゃって……家出したの。でも行く所がなくて……此処に座ってたの」

香さんは苦笑いしながら答えた。すると、あっ!!と声をあげて、僕に向き直って

「そういえば、前の約束、覚えてる? また会えた時、話を聞くって約束!! 此処で会えたのは奇跡だよ!! だから、今日お兄さんの話、聞くよ!!」

香さんは目を輝かせて言った。僕は甘えたい気持ちになった。甘えてはいけないのに、甘えたくて仕方がなかった。

「……ありがとう。でも此処で話すのは気が引けるから……良かったら僕の家に来ますか……?」

そう言うと、香さんはパァと顔を明るくした。

「うん!! 行きたい!! お兄さんの自宅……!! あと……私、今行く所がないから、しばらく泊まっていいかなぁ……?」

その様子に僕はふっと頬が緩みそうになった。香さんの時々無邪気な所が仲良かった人にそっくりだった。僕は一瞬考える。“この子はあの人の生まれ変わりなのかな……„と。でもそんなことはありえないと心の中で慌てて打ち消す。改めて香さんを見た。春に近付いていると言うものの、まだ肌寒い気候だ。それなのに香さんは薄着だった。上着は着ていたがそれ程、温かそうな物ではなく、下はスカートだった。そんな香さんを放っておく訳にもいかない。そう考えた僕は香さんの小さく冷たい手を握って言った。

「……いいですよ。あまり広くないですが……それでも良ければ」


 僕は香さんを連れて、家に向かった。横に歩いている香さんはやはり寒そうだった。体をブルブル震わせ、僕の手をぎゅっと握っていた。

「……まだまだ冷えるね……」

そう香さんは呟いた。すると、クシュン!!と香さんがくしゃみした。

「……いくら家出するにも、その薄着では寒すぎますよ」

僕は苦笑いしながら、ダウンを脱いで香さんに被せた。

「へ……?」

「それ、貸しますから、温かくして下さい。ボロボロですみませんが……」

そう言うと、香さんはいやいやと言うばかりに焦り出す。

「いや、それだとお兄さんが寒いよ……! 大丈夫、私寒くないし……!!」

その姿も何処か仲良かった人に似ていて、微笑ましかった。

「僕は大丈夫ですよ。だから、それは香さんが着ていて下さい」

そう言うと、香さんは申し訳なさそうに

「ありがとう。じゃあ……借りるね」

そう言って、香さんは僕のダウンを着る。ブカブカだ。

「……ふっ」

「あぁー!! 笑ったなぁーお兄さん!!」

香さんはぶぅーと頬を膨らませる。

「ごめんごめん……だって香さんがあまりにも可愛らしかったから……」

そう言うと、香さんはふと顔を赤くした。

「さぁ、着いたよ。少し古びたアパート。あそこが僕の家です」

「へぇー!! あそこがお兄さんの……!! 楽しみー!! 早く見たいなぁ、お兄さんの部屋!!」

「そんな大した部屋じゃないですよ……」

そう苦笑いしながら、鍵を開け、扉を開ける。香さんを先に入れ、僕も入り扉を閉める。

「お邪魔しまーす!!」

香さんは明るい声で言って、奥に進む。

「暗いので、明かり付けますね」

「あ、ありがとう」

香さんは振り返って、にこっと笑う。ぐぅー……。お腹の音が鳴り響いた。

「あ……!! 私、あれから何も食べてなかったんだ……」

顔を赤くしながら照れ笑いする香さん。

「あ、インスタントですが、ラーメン、ありますよ」

そう言うと、ぱあっと顔を明るくし

「わーい!! お兄さんと御飯だぁー!!」

香さんの笑顔は僕の心を温かくした。あまりにも温かくて……あまりにもその温かさが星奈と重なって……。……悲しくて。

「……お兄さん……?」

目頭が熱くなった。何かが零れ落ちていくのを感じた。

「……お兄さん……」

彼女の声に僕ははっと我に返り

「あ、すみません……!! これにお湯入れて3分待って下さい」

僕は必死に顔を隠した。泣いている顔なんて見られたくなかったから。

「お兄さん……無理しないで……?」

「え……?」

「お兄さん……またあの時の顔色してる……。ねぇ、私に話して? ほら、私も話したでしょ? だから今度はお兄さんだよ」

香さんの優しい言葉に僕はもう我慢が出来なかった。零れる物はますます零れ出す。

「……っ……ありがとう……香さん……」


 僕はあの後、香さんにポツリと出来事を話し、そして香さんが星奈や仲良かった人に似ていることも言った。全てを話し終わった時にはもう夜で僕は寝てしまった。

「あはは……お兄さんが先に寝ちゃった……」

「…………んー……」

香さんはずっと僕の寝顔を眺め、頭を撫でていたらしい。

「あ……涙……」

香さんが言うに、僕は寝ている時も泣いていたのだという。星奈への思いが募り、そして香さんの優しさが余計涙を誘ったんだと思う。

「……私が星奈お姉ちゃんと似てる……? そんな馬鹿な……だって星奈お姉ちゃんは……」

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