~突然の……~
ふと目を覚ます。どうやら僕は気を失っていたらしい。まだ頭痛はするが、大分マシにはなったみたいだ。僕は黒いベッドで寝ていた。
「あれ……確か……倒れなかったっけ……」
僕はあのまま、床で気を失ったんだ。きっと。なのにベッドにいる……。ということは……
「香さんが……僕を……?」
そうとしか考えられない。僕はお礼を言おうと、僕の隣で寝ている彼女を揺さぶる。
「香さん、起きて下さい。香さん!!」
が、いくら揺さぶっても、香さんは起きなかった。
「え……。香さん……?」
よく見ると、香さんの姿が少し薄くなっている気がした。
「そんな……まさか……香さん……!!」
僕は小さな香さんを抱きかかえる。……温かかった。けど、このままだと香さんは危ないだろう。
「香さん……!! あぁ……どうして……」
僕は香さんを抱き締めた。香さんの温もりを忘れないように……。香さんの体が冷たくならないように。
「…………お兄……さん……?」
「!! 香さん……!!」
見ると、香さんはうっすらと目を開け、こちらを見た。
「お兄さん……ありがとう……。私を……ぎゅっと抱き締めてくれて……。嬉しかったよ……私」
香さんは微笑む。……呼吸が荒い。あぁ……どうして僕は気付いてあげられなかったんだろう……。香さんが……弱っていることに……。
「……お兄さん……? どうしたの……? ……泣いているの……?」
香さんに言われ、はっと気付く。僕は今、涙を零して泣いていることに。そういえばあの時も……。星奈が死んだと分かって部屋で大泣きした。あの時は悲しみばかりで何も考えられなくなった。またあの時に戻るのか……。白黒世界に。今度は一生、色付くことはない。。ただ、死んだように生きるだけ……。そうなるのだろうか……。
「……大丈夫。私がお兄さんを守るから……」
香さんは笑った。あぁ……なんて綺麗な笑顔……。
「あのね……本当のことね……私はもう既に死んでるの。……6年前に。……私、お兄さんのこと、知ってるんだ。……西川理雄。理雄兄さんって呼んでた……。もう分かるよね? 私は……理雄兄さんの夢に出てきた“香ちゃん„だよ。そしてね、あれは夢じゃないの。……現実であったことの一部。理雄兄さんが私のことを覚えてないのは、私が理雄兄さんの記憶を一部、消したからなの……」
香さんはそう言うと、一気に体が薄れ、消え始めた。
「……!? 香……ちゃん、どうして……」
僕は尋ねると、香さんは悲し気に微笑み
「本当はもっと……理雄兄さんの傍にいたかった……!! もっともっと、生活してみたかった……!! このままずっといたかった……!! でもね、私はもう死んでる身で……此処にいるのは、理雄兄さんを元気付けるため……。そして私の正体を知られたら……消えちゃうんだ。体も心も記憶も何もかも……。……理雄兄さん。幸せをありがと……。話してくれて……遊んでくれて……一緒に寝てくれたり、食事してくれたり……ありがと。生活させてくれて……理雄兄さんを好きにさせてくれて……ありがと……!!」
香ちゃんは満面の笑みを浮かべる。どんどん消えていく……。
「香ちゃん……!! 消えないで……。お願いだよ……!!」
そう必死に頼むも、香ちゃんは悲し気に微笑みながら首を横に振る。
「……っ。じゃあ最期に……こう…させてくれ……」
僕はせめて香ちゃんの温もりを……存在を忘れないようにと、香ちゃんを抱き締めた。
「理雄兄さん……ありがと。温かい……。忘れないよ…たとえ、お兄さんが私を忘れてしまったとしても……。私はずっと……お兄さんを忘れない……」
そう言って、目を閉じる。だけど、どれだけ抱き締めても…香ちゃんは消えていくばかりで……ついに。ふっ……と抱き締めていた存在が消え、感覚がなくなった。最期にこの言葉を残して――――……
「大好きだよ……理雄兄さん……」




