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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~王女編~
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無表情のメイドが見せた小さくも確かな笑み

 笑いあう夫婦の姿をアルバが呆然と見ていると、王座の間の扉が唐突に開かれた。

 ダリアンとサマリー、そしてアルバの視線がその方向へと集まる。

 入ってきたのは学園にいるはずのライラだった。

 ライラは三人の姿を確認すると、歩きながら声を発した。


「なんだ?邪魔したか?」


 そう言ってアルバの隣まで歩いてくる。


「いや、問題ないよ」


 ダリアンがライラに対して返事をすると、ライラに向かって笑みを少しだけ抑えて話を聞く態勢をとった。

 それを見てからライラは話し始める。


「一応お前達に伝えておく必要があると思ってな。ひとまず、学園の生徒は皆無事だ。軽傷の生徒は簡単な治癒魔法をかけた後、寮で休んでもらっている。敵の攻撃を受けた生徒は念のため医務室で寝かせ、トーイが付きっ切りで見ているところだ。安心してくれていい」

「そうか。それはよかった」


 ライラの言葉にダリアンがホッと胸をなで下ろした。


「後はアリスちゃんだけですね」


 サマリーが心配そうな声を上げ、扉の向こう、おそらく王宮の医務室の方向を見る。

 心配なのも無理はないだろう。今回のことで一番怪我を負っているのはアリスなのだから。それに加え、男の攻撃によって体力と共に精神まですり減らされていたのだ。

 完全に回復するにも時間がかかる。


「アリスは今どうなんだ?」


 王宮に行ってからのアリスの様子をアルバは知らない。

 森を出ていくときは体の震えで歩けてはいなかったものの、意識ははっきりとしていたから大丈夫だとは思うが、聞いておきたいところだ。


「アリスちゃんは、騎士の方々に連れられながら医務室に入りました。怪我の方は軽傷でしたけど、相当疲れていたようで、怪我の治療の間にベットの上で眠ってしまったようなんですわ」

「まぁ仕方ないだろうな」

「ええ」


 サマリーは娘のことが気になるのかずっと視線を医務室のある方向へと向けている。


「安心しろ。アリスのところには今、学園の生徒三名がいるはずだ」

「そうなのか」

「まぁな。三名のうち二名は無傷だったし、もう一人も軽傷とはいかないまでも安静というほどの怪我でもなかったからな。アリスのところに行くと言っていたから、ついでに連れてきてやった」

「らしくないな。優しいじゃないか」

「理事長だからな。生徒の希望は叶えてやらないと」

「俺のことは無理矢理だったくせに、よくそんなこと言う」

「アルバのことは私の考えをもとに、生徒の将来に必要だと思ってのことだからな」


 ライラはそう言って挑戦的な笑みを浮かべる。

 それからライラはアルバではなくダリアンに話をするようで、視線をダリアンに向けた。


「今回の件は、アリス達自警団を止められなかった私に責任がある。全ては理事長の私が受けよう」


 ダリアンの向かうライラの顔は、生徒を守る理事長のそれだった。

 アルバにとってはライラに会ってから初めて見る顔でもあった。

 ライラのいつもの好戦的な態度で忘れがちだが、ライラはこれで生徒のことを大事にする立派な理事長なのだ。だから、ダリアンもライラをフトゥールム学園の理事長に任命したのかもしれない。

 そんなライラをダリアンは真剣な面持ちで見つめると、不意にその表情を和らげる。


「王である私が何かするつもりはありません。ライラに責任があるならば、アリスの意見を尊重すると言った私にも責任がありますからね。今回の事は不幸な事件です。こちらに死人が出なかっただけで十分ですよ」

「そう言うと思った」


 そしてライラはまたしてもアルバを見る。

 ダリアンもまた、ライラから視線を移し、アルバを見た。


「これも全部アルバ君のおかげです」

「よくやってくれたなアルバ。ご苦労だった」


 二人からの感謝の言葉にアルバはもううんざりだと言うような顔で答えた。

 すると、そんな時にまたしても王座の間の扉から音がした。

 コンコンと扉を叩く音が、控えめながらも王座の間にしっかりと響き渡る。

 そうして少しの間をとってからダリアンが口を開いた。


「入っていいよ」


 ダリアンの大きな声が響くと、扉がゆっくりと開いた。

 扉を開け中に入ってきたのは、アルバを初めて王座の間に連れてきてくれた、あの無表情のメイドだった。

 メイドはゆっくりと頭を下げた後、ダリアンとサマリーを順々に見た後、ライラとアルバを見てから平坦な声で話し始める。


「アリス様が目を覚まされました」

「本当か」


 メイドの言葉に一番早く反応したのはダリアンだった。

 

「意外と早かったな」

「流石は王女様だ」


 ライラとアルバもダリアンに続いて言葉を紡ぐ。


「それで、アリスちゃんの容体は?」


 サマリーがメイドに聞く。

 それに対してメイドは感情が読み取れない声で答える。


「意識はしっかりとされていて、会話も無理なく出来るようです。ベットから起き上がれるだけで、まだ完全とは言い切れませんが……もう大丈夫でしょう」

「よかった……」


 メイドの言葉を聞きサマリーはやっと安堵の声を上げた。


「それでですね」


 メイドはそう言うと不意にアルバに視線をやった。

 急にメイドに見られたことにアルバは少しだけ戸惑う。


「アリス様がアルバ様にお会いしたいそうなんです」

「俺にか?」

「はい」


 メイドはそう言い切った。

 アルバがダリアンを見る。すると、ダリアンはゆっくりと頷いた。


「アルバ君からの報告はもう終わっている。行っても構わないよ」

「分かった」

「あなた。私も行ってきますね」

「うんそうだね。アリスを頼んだよ。私はライラと少し話さないといけないから」


 そうしてアルバは身体をくるりと回しメイドの立っているところへと歩いて行く。

 後ろからはサマリーがこちらに歩いてくる。

 

「それでは失礼いたします」


 メイドはそう言い、アルバとサマリーを連れ、王座の間を後にする。

 中にはダリアンとライラの二人だけが残された。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


「アルバ様。私も行きます」


 アルバがメイドとサマリーと一緒に王座の間から出ると、すぐに外に控えていたミリンダが話しかけてきた。

 外にいたミリンダには事情をすでに知っているようで、出てきたアルバの隣に迷いなく立つ。


「あら。ミリンダちゃん。久しぶりね」


 サマリーがそんなミリンダに対してニコニコと笑って手を振る。


「サ、サマリー様!お久しぶりです!」


 ミリンダが緊張した面持ちでサマリーに勢いよく頭を下げた。

 そんなミリンダを楽しそうに見守るサマリー。


「そんなに緊張しなくてもいいのよ~」

「で、ですが」

「ふふっ。可愛いわねぇ」


 サマリーがミリンダを、まるで愛おしい小動物を見るように優しく声をかけていた。

 それにもミリンダは緊張してしまって、言葉を返せていない。


「行きますよ。アリス様が待っています」


 そんなやり取りをしていて歩き出す気配のない二人に、メイドはミリンダとは対照的な冷静な態度で声をかける。


「うふふ。そうね。行きましょうか」

「は、はい!」


 二人は互いにそう言い、メイドの後ろを付いて行く。

 こうして、王宮メイド二人に、王様の妻、そしてヴァニタスの青年という異様な面々で、アリスの待つ医務室へと向かって、王宮の廊下を歩いて行った。



 先頭を歩いていたメイドがある扉の前で足を止めた。

 扉に手を触れると、魔力で魔道具を起動させ、扉のロックを解除する。


「これでアルバ様にも扉は開けられます。では、アリス様をよろしくお願いいたしますね」

 

 メイドは一言そう言うと、自分は控えるように扉の横に立った。


「入らないのか?」


 アルバはそんなメイドを不思議に思い聞く。

 メイドはアルバの言葉に首を縦に振る。


「はい。誰の専属でもない私がこの中に入ることは出来ませんから。王宮の仕事をやらずに、ここに控えさせていただけいるだけで、私は満足です」

「だけど、心配なんだろ。そんなの気にせず入ればいい。アリスも許してくれるはずだ」

「そうですよ!」


 アルバとミリンダに促されるも、メイドは目を伏せながら答えた。


「いえ、そういうわけにはいきません。今の私は王宮に仕えるメイド。アリス様の専属メイドではありませんから」


 そう言ってメイドは頑なに医務室に入ることを拒む。

 頑固であるが、自分の気持ちを優先せずに立場をしっかりと見極めて行動できる。そんなメイドだからこそ、アリスの専属となっていたのかもしれない。

 そんなメイドをサマリーは複雑な表情で見つめる。


「ごめんなさいね」

「サマリー様が謝らないでください。ここにこうして居られるのも、ダリアン様とサマリー様もおかげでございますから」

「でもいいの……?」

「はい。これは、アリス様と私が決めたことです。私はアリス様が学園を卒業するまで、待ち続けますから」

「そう。分かったわ」


 メイドの揺るがない気持ちを理解したサマリーはそれ以上メイドの何か言うことはなかった。

 ただ黙ったまま扉の横に控えるメイドを見ている。

 アルバもメイドの説得は諦め、メイドによって開けられた扉に手を当て医務室の扉を開けようとした。


「アルバ様」


 すると、ミリンダに話しかけられた。

 何となくそう言うだろうと思っていた。同じメイドとしては、頑なに医務室に入ることを断るメイドの気持ちが痛いほどわかるのだろうか、断り続けるメイドをミリンダは沈んだ表情でずっと見ていた。

 アルバは驚くこともなく、ミリンダの言葉にすぐに反応を返す。


「どうしたミリンダ?」

「私もここに残りますね」

「なんでだ?」

「王宮に直属に仕えるメイドの話を聴けることなどほとんどありませんから。いい機会だと思いまして」

「そうか。分かった」


 アルバはそう短く答えるだけで、ミリンダの提案を承諾した。

 一切ミリンダの顔を見ていないアルバだったが、今のミリンダは笑っていることだろう。それが、アルバには手に取るように分かった。


「ミリンダさん」


 メイドはミリンダに意外そうな声を向ける。


「お話、よければ聞かせてください。まだまだ私は新米メイドですから。分からないこともたくさんあります」

「……分かりました。お優しい方ですね」

「だろ」


 メイドの呟きに、アルバが得意げに答えた。

 

「はい。ミリンダさんも、そしてアルバ様も」

「俺は優しくないぞ。ミリンダだけだ」

「いえ、お優しいですよアルバ様も」


 そしでメイドはアルバとミリンダに身体を向けると頭を下げる。


「アリス様を助けていただき、ありがとうございました」


 そう言って上げたメイドの顔には、分かりづらくも確かな笑みが浮かんでいた。


「いいよ別に。それに、もう礼は聞き飽きた」


 アルバはそのままメイドとミリンダを残し、医務室の扉を開けた。

 そしてそこには、三名の生徒と、ベットから起き上がりこちらを見ているアリスの姿があった。

 身体の傷はもうないようだ。

 サマリーがアルバの後ろから医務室に入ったところで、扉がメイドとミリンダによって閉じられる。

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