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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~王女編~
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帰還

「アリス!」


 騎士達を引き連れてきた女生徒が、一番最初に駆け寄ったのはアリスだった。

 女生徒の後ろから来ていた数名の騎士は、自警団の方へと走り寄っていく。

 カインが何やら騎士と言葉を交わしていた。

 すると、自警団の生徒の保護と、近くに魔法によって拘束されたままの男達の連行を、統率の取れた動きでこなしていく。


「ありがとうございます。助かりました」

「気にしないでよ。アリスや皆が無事でよかった~」


 駆け寄ってきた女生徒はアリスの無事を確認すると、嬉しそうにアリスに飛びついた。

 アリスもアリスで、安心したように女生徒を受け止めている。


「でも、さすがだね!あんなに強そうだった男達を倒すなんて、やっぱアリスは強いよ」


 状況を見た女生徒は、そう言ってアリスに笑顔を向ける。

 それに対して、アリスの方は女生徒から視線をそらしていた。


「アリス?どうかした?」


 そんなアリスを見て、女生徒は心配そうな声を上げる。


「私ではありませんよ」


 アリスはそう言って女生徒の言葉に対して首を振ると、視線を隣に立っているアルバに向けた。

 女生徒も同じようにアルバを見ると、アリスの視線の意味を察したのか驚きの表情を浮かべる。


「うそ……」

「嘘ではありません。全てはこの人がいたからなのです。私達だけでしたら、きっと今頃……」


 そしてアリスは後ろに横たわっている、男の亡骸に視線を移した。

 アリス自体は、男の攻撃によって一時的に生きるのを諦めてしまうところまで来ている。アルバがいなけえば、きっと地面に亡骸を晒していたのは男ではなくアリスの方だったに違いない。

 そう思うと、男の術中に嵌まった自分の心の脆さがアリスには恐ろしかった。

 今でこそあのニコラスは男のつくった幻影だと理解できるが、ダークミストを受けた直後のアリスには、ニコラスがまるであの世から会いに来た本物かのように感じられていたのだ。自分の罪に対して何の疑問を持つことなく、アリスは男の刃に切り裂かれていたことだろう。


「でも、さすがに男達全員ってわけじゃ」


 女生徒の方は信じられないように言葉を呟いた。

 それにアリスは思考をやめ、女生徒に向き合い真実を口にする。


「全員ですよ。リーダー格この男も、男の仲間も、この人が全て倒してくれました。このアルバが」


 アリスの言葉に女生徒はまたもや驚いたように目を見開いている。

 しかし、その驚きはどうやらアルバが全員倒したことではなく、アリスが最後に言った言葉の方だったようで、女生徒はアリスを見つめたまま呟いた。


「アルバって言った……アリスがあいつのこと名前で呼ぶなんて……」


 そして何かを理解した女生徒はアルバの近くまで歩いてくると、片手で軽く拳をつくり、アルバのお腹に軽くパンチをする。


「ちょっと」


 女生徒の行動にアリスが止めようとして声を上げる。

 女生徒のところまで歩いて来ようと身体を動かすアリスだったが、それをアルバが片手で止めた。

 女生徒はアルバのお腹に拳を当てたまま、小さくアルバにしか聞こえないような声で囁く。


「私はあんたのこと好きじゃない。ヴァニタスだからとかそう言うのとは関係なくて、単純にアリスにする態度が気に入らない」

「ああ」

「だけど、アリスがあんたのこと名前で呼ぶようになってるし、きっとアリスの言ったこと、嘘じゃないって思う」


 そして女生徒は拳をアルバから離すと、アルバの目を見つめてくる。


「ありがと。アリスと自警団を守ってくれて」


 女生徒はそう言って一度アルバのことを真剣な眼差しで見た後、くるりと身体の向きを変えて、アルバから、そしてアリスからも離れていく。

 女生徒が向かう先には自警団がいた。

 アルバは去っていくその背中に声をかける。


「こっちこそ助かった」

「べっつに私は何にもしてないよ~」


 アルバの言葉に女生徒はさっきまでの雰囲気を消し、間延びした声を上げて答えた。

 女生徒はそのまま自警団の方へと歩いて行った。


「アリス様ご無事でなによりでございます」


 すると、女生徒が去ったタイミングを見計らっていたように、騎士の一人がアリスに話しかけた。


「私の方こそ心配をかけました」

「そんなことありません。我々騎士がもっとしっかりしていればこんなことにはならなかったのです。無理を言ってでも護衛として騎士を連れていくべきでした」

「いいのです。この件の責任はすべて私にあります。誰も悪くありません」


 騎士はアリスの断言するような言葉に何も言えなくなる。

 アリスはこの話題を終わらすためか、視線を男の亡骸へと向けて近くにいる騎士に対して口を開いた。


「主犯格の男は自殺しました。捕らえられれば良かったのですが」

「いえ、アリス様が無事であればそれで十分でございます」


 騎士はそう言ってアリスを見て安心した顔を向ける。


「アリス様、王都に帰りましょう」


 女性の騎士がアリスの身体を支えるようにする。


「一度王宮の医務室に参りましょうか。何かあるといけませんから」

「ええ。そうですね」


 そしてアリスは視線を少し離れた場所にいる自警団へと向けた。

 すでに自警団の皆は騎士に守られるようにこの場所から移動を始めている。傷を負った生徒も、騎士達の対処のおかげで歩けるまでになっていた。

 アリスの視線を感じ取った女性の騎士は、アリスに微笑みかける。


「安心してください。生徒の皆さんは、我々の仲間がしっかりと学園までお送りします。その後は、ライラ様に任せてありますので心配ありませんよ」

「分かりました」


 アリスが安心したように、歩き出そうとした。

 しかし、うまく足を踏み出せなかったのか、倒れそうになった身体を女性の騎士に支えられる。


「ご、ごめんなさい。何だか気が緩んだ途端に急に身体が」


 よく見ると、足が震えてうまく立てていなかった。


「お気になさらないでください」


 そうしてアリスの肩を、二人の女性騎士が支える形になった。

 すると、一番最初にアリスに話しかけた騎士が、三人に向かって手を掲げる。


「王都のそばまで、移動魔法を使う。アリス様いいですか?」

「ええ。構いません」

「その後は君達に任せる。アリス様をしっかり王宮に運ぶんだぞ!」

『はい』


 女性騎士の二人が、その騎士の声に対して返事をすると、アリスを含めた三人の身体が仄かに光り出す。

 アリスが唐突にアルバの方を向く。


「アルバ。すみません。先に行きますね」

「気にするな。しっかり休め。お前にはまだやることがあるんだからな」

「分かっていますわ」


 そのアリスの言葉を最後に、三人の姿が消える。

 無事、移動魔法が成功したようだ。

 それを見届けていると、移動魔法を使った騎士がアルバに近づいてくる。


「アルバだったな」

「そうだが。なんだ」

「君には学園ではなく王宮に行ってほしい。ダリアン様がお待ちになっている」

「分かった」

「身体は大丈夫なのか?男達全員を相手にしたようだが」


 女生徒とアリスの会話を近くで聞いていたようで、騎士がアルバの身体を見てそう言ってくる。


「ああ。別にこれといった傷はない」

「……すごいな」

「急にどうした」

「いや、男達は随分と戦闘に慣れているの連中なのだろ?よく五人も相手にして無傷だなって思ってな」

「まぁ、運が良かっただけだよ」


 五人の内、三人は不意打ちによって一発で決めているし、他の二人だって冷静さが欠けていた。

 偶然が重なったってだけで、次も上手くいくとは限らない。

 一人で歩き出すアルバを騎士は一目見る。


「その様子だと一人でも王都に戻れそうだな」

「ああ。問題ない」

「そうか。ならば言ったように王宮に向かってくれ」

「あんたたちは?戻らないのか」

「我々はあの男達を王都にある牢獄へと連れて行かなければならないからな」


 騎士の視線の先には、数名の騎士に囲まれた状態の男達がいた。

 腕を切られた男意外の意識はすでの戻っているようで、周りの騎士の多さに諦めたように大人しく指示に従っている。


「ヴァニタスとは言え、相当の手練れであるのには違いない。なにがあるか分からないからな。牢獄に入れるまでは安心できん」

「だな。分かった。後は任せたよ。俺は行く」

「助かった。君の実力は噂通りのようだな」

「……」


 アルバは何も言わずに森を走り王都へと帰還する。

 森はすでに元の状態に戻っていたので、アルバはモンスターに遭遇することなく、森を抜けることが出来た。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


「アルバ様」


 アルバが森を抜け王都に入ってすぐ、待っていたかのようにミリンダに迎えられた。


「ミリンダ」

「アルバ様。王宮に行くのですよね。お供いたします」


 そう言ってミリンダがアルバの身体に、いつもの様に治癒魔法を使う。

 魔法が終わった後、隣の立ったミリンダを連れ、アルバは王宮へと向かって走るのを止め、歩いて行く。

 急ぐ必要はもうない。


「アリスはどうした?」


 アルバは隣を歩くミリンダに聞いた。


「はい。アリス様は随分前に、王宮騎士の方々に支えられ王宮へと行きました」

「そうか」


 アルバは少しだけホッと胸をなで下ろす。


「他の自警団の皆さんも、学園近くの門から学園へと無事に戻っています。今は、ライラ様とトーイさんによって治療を受けている最中のはずです」

「これで一安心だな」

「はい」

「ミリンダはどうしてここに?」

「ライラ様がアルバ様の帰りを迎えるようにと、私に言ってくれたんです。ですので、こうして王都の中で待っていたんですよ」

「そうだったのか」

「本当は騎士の方々と一緒に森まで行きたかったのですけど……」


 ミリンダが少し沈んだ声を上げる。


「流石にそれは危険だと思ったのでしませんでした。私の仕事はアルバ様を迎えることです。それに、アルバ様なら大丈夫だと信じてましたから」


 ミリンダはそう言って満面の笑みを向けている。

 その笑顔にアルバの身体が少しだけ軽くなる。どうやら無意識のうちに感じていた緊張が、ミリンダの笑顔で解けたようだ。

 アルバは軽くなった身体でミリンダと共に王宮まで歩いて行く。

 ひとまずは、これで一件落着と言ったところである。

 まぁ、まだやることはいろいろあるが。

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