白髪の騎士
ネット小説大賞って感想サービスとかあるんですね
昨日知ったわ〜
男の身体が魔法によって、姿形が変わった途端、今まで余裕そうだったアリスの表情に変化が見られた。
そして、今現在、アリスは冷静さを失ったかのように、騎士の格好になっている男に向かって魔法、斬撃を繰り返し放ち続けている。
アリスが得意の炎の奔流を男に対して放出した。
これまでに何度も見てきた光景だ。男はその攻撃が出るたびに、防御するつもりも、避けるつもりもない様子で、その場に立ったまま炎に飲み込まれていく。
そうして男は、当たり前のように無傷の状態で炎から出てくるのだ。
男の姿が変わってから、この光景は何度目だろうか。
アリスにもこの展開は分かっているのだろうに、何度も繰り返し繰り返し続けていた。まるで、男の存在を消し去りたいかのように。
今のアリスには怒りのような感情が見てとれる。
それも、男が白髪の騎士になってからだ。
アリスは男の変化を見たところで一瞬固まったかと思ったら、突然に男に向かって突進していった。目は見開かれ、表情にもどこか切羽詰まったものが見える。
あの騎士の存在がアリスとどういった関係があるのかアルバには分からない。だが、男が騎士に変化中に言った言葉には気にかかるものがあった。
男の言葉を借りるならば、白髪の騎士がアリスがヴァニタスを嫌う原因となったらしいのだ。
しかし、あんな騎士などアルバは見たことが無い。街で出会ったアリスの、周りにいた騎士にはあんな白髪の男などいなかった。
アルバがそう思っていた矢先、今度は魔法を受けても無傷だった男に対して、アリスは炎を纏った剣で突っ込んでいく。
右左と、アリスの素早い斬撃を、男は小さな短剣によって防ぐ。その時、男の周り数センチまで近づいたアリスの剣は、男の短剣と交錯する直前に、その纏っている炎を消されていたのだ。それにより、アリスの炎の剣はただの剣へと変わり、男の短剣を溶かすことは出来ていない。
男が何を使っているのかさして検討がつかない。だが、今の男に向かって魔法を撃ち続けるのは無意味であるのは確かだ。ただただ魔力を消費するだけで、何も効果が得られていない。
しかし、アリスは尚も繰り返し魔法を使い続けている。
炎魔法だけではない。光弾や色々な魔法を織り交ぜて男を執拗に攻撃していた。
そのかいもなく、男の身体に当たる直前に全ての魔法が何事もなかったかのように消え去っている。光弾は弾けとび、炎は男を避けるかのように逸れ、魔力によって男を襲うように動いていた土や木の蔓は、男の近くに寄った途端に元のただの土や蔓へと戻ってしまっていた。
今のアリスに冷静さは一切感じられなかった。
このままでは良くないな。
アルバはそう思うも未だに姿を現すことが出来ないでいた。
リーダー格の男はアリスに集中して周りのことなど気にも留めていないが、自警団の傍にいる奴らはまだまだ警戒を怠っていない。
アルバは、アリスには男の気をひかせてもらいたかった。今の状況はアルバが想定したものと変わりない。冷静さを失ったアリスの様子を男は満足そうに見て、戦いに意識が向いている。
だが、アルバには少しだけ心配なことも出てきていた。
アリスの様子がアルバの思っている以上に良くないことだ。
理由は簡単。男が変わった騎士に由来しているのだろう。
こうなってしまえば、下手をすると自警団を助けるよりも前にアリスの方に限界が来てしまう可能性が高い。
そうなってしまえばアルバとて万全の準備なく突っ込む羽目になる。自警団とアリス、両方守るのはアルバにも至難の業だ。
アルバは焦る気持ちを抑えながらアリスの様子を逐一観察していた。
「あははは!!いいぜいいぜ!もっと怒れ!もっと恨め!」
「うるさい!黙りなさい!その姿でそんな下品なこと言うな!!!」
アルバのところにまで聞こえるほどの大声で、アリスと男が話している。
アリスの声にははっきりとした怒りがこもっていた。アルバに対してもしたことないような、鬼気迫る声に、アルバは固唾を飲んで見守っていた。
またしてもアリスは魔法を放つ。その端整な顔を怒りで歪ませて。
「効かないって何度言ったら分かるんだ?なぁ王女様」
男は血走った眼をアリスに向けて、そのまま勢いよくアリスに突っ込んでいく。
アリスの剣と男の短剣がまたしてもぶつかり合う。
しかし、怒りの感情にとらわれているアリスには、男の短剣の軌道がうまくとらえきれないのか、徐々にアリスがおされ始める。
「どうだ!お前の大好きだった男に詰め寄られる気分は!殺意を向けられる気分はよ!」
「うるさいですね!!あの人はそんなこと言いません!!そんな歪んだ顔をしません!!」
「そんなの分からねぇじゃねえか!!騎士とは言え人間だ!人を恨むし、裏の顔を持っていることだってある!!」
「そんなことありません!!あの人は―――あの人は私を常に守ってくれていました!人を恨んだりするような人ではないこと、私が一番知っています!!」
「本当にそうかぁ?!!」
男は短剣でアリスの剣を打ち上げると、防御を失ったアリスの首元に向かって迷いなく、短剣を持っていない反対側の手を伸ばした。
そして、アリスの首をがっちりと掴み上げると、アリスに向かって何かを囁く。
アリスはそれを受けて目を見開いて止まった。
男が何を言ったのか、残念ながらアルバの耳には小さすぎて聞こえてこない。
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男が私の首を片手で絞めあげます。
男はそのまま私の身体に顔を近づけると、あの人の顔でこう言ってきました。
「この男はどうして死んだ?」
「……」
私は男の言葉に動けなくなります。
そんな私に対して男はさらに顔を近づけて囁きました。
「なぁ。お前ははっきりと覚えているだろ。あの時をよ」
男は興奮したように私に向かって、歪んだ表情を向けてきます。
「さぞ痛かったことだろうなぁ!あははは!!!」
男は高笑いをし、私の首を絞める腕に力を込めました。
「やめなさい……」
私は首を絞められたまま、掠れた声で男に対して反論します。
あの人の顔で、あの人の声で、私の記憶に土足で踏み込んでくる男に私は怒りを隠しきれません。
剣を握る手に力を込めます。
そしてそのまま、私は私の首を絞める男の腕めがけて、剣を振り上げました。
「おっと、危ない危ない」
男は私の剣が当たるすんでのところで、私の首から手を離します。
私は苦しさから解放された余韻に触れることなく、すぐに地面を蹴ると、男の、私の攻撃を避けたために隙だらけになった首元に向かって剣を力いっぱい振り下ろしました。
あと少しで男の首を切り裂くと思われたとき、男が唐突に口を開きました。
「やめてくださいアリス様。私はもう死にたくありません」
それを聞いた瞬間、私の腕はぴたりと止まってしまいます。
男はさっきまで浮かべていた歪んだ表情を穏やかなものに戻すと、あの人を再現するかのような口調で私に命乞いをしてきたのです。
私の身体は無意識のうちに動きを止めてしまいました。
それが男の狙いであるにもかかわらず、私の中にいるあの人が目の前にいるように感じてしまったのです。
案の定、動きを止めた私を見て、すぐに穏やかだった表情に歪みが生じました。
そして、男は私のがら空きになった身体に向かって光弾を撃ちこみます。
私は防御することもままならず、光弾の衝撃によって後ろに飛ばされてしまいました。
「アヒャヒャヒャ!!無様だな王女様!さっきまでの余裕が嘘のようだぜ!!」
男が私を見て笑います。
狂気に顔を支配されているかのように、あの人の顔を歪ませて。
私にはそれが我慢なりません。
怒りにまかせて、ボロボロになった身体無理矢理にを立ち上がらせ、男に向かって剣を振り続けます。
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アリスと男はまたも武器による近距離戦を繰り広げていた。
さっき光弾をもろに身体に受けていたアリスは、身体の至る所が傷だらけになっている。
それでも、アリスは怒りにまかせて剣を男に向かって振り続けていた。
首を絞めあげられている時に何を話していたのか、アルバには聞こえていなかった。しかし、首を絞められた後から、アリスの雰囲気がまたさらに変わったように見える。
もう、他のことなどお構いなしというように、男に向かって一心不乱に剣を振っている。
だが、怒りにまかせて単調になった動きに、男の方は余裕の表情でアリスの攻撃を受けると、尚もまだ口を開く。
「思った通りだ!!」
「なにがです!」
「お前は俺と変わらねぇ!俺と同じ人間なんだよ」
「何を言っているんです!!私はあなたとは違う!あなたのように」
「同じだよ!!!」
男がそう叫ぶと、アリスの剣に対して短剣を力任せに振り抜いた。
その反動でアリスの身体が少しだけ仰け反る。
「お前はこの男を、ヴァニタスによって殺された男の死を、ヴァニタスを嫌うことで埋めているだけだよ!」
「それは――」
「俺と何が違うって言うんだ。俺もお前も、大切に思っていた人の死を受け入れられない者同士だろ?」
「……」
「そんなお前がよく俺にあんなこと言ってくれたもんだぜ」
今度はアリスではなく男の方が攻撃へと転じる。
「だったら、俺がお前をこの男のところまで送ってやるよ!」
「なにを!」
男はそう言うと、突然アリスに詰めていた身体を後ろに引くとアリスとの距離をあける。
「もう一度お前にはあの時を体験してもらうぜ。その時お前がどんな表情をするのか、今から見るのが楽しみだよ!」
男が身体に力を込めるように一度、身体の動きを完全に止めた。
アルバには分からないが、どうやら男が何かの魔法を撃とうとしているようで、この場に居るヴァニタス以外は、男の挙動に警戒の様子を見せている。
「ダークミスト」
男が厳かにそう呟くと、唐突にアリスと男の周りを黒い霧が包み込んでいく。
すぐに、アルバからはアリスと男の姿が見えなくなった。




