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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~王女編~
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フードの下

 フード男の放った光弾が私に向かって迷いなく突き進んできます。

 私はそれに対して、剣を前に向けることにより、周りに纏った炎を光弾、そしてその先にいる男に狙いを澄まして放出しました。

 いくら魔法の扱いにたけていようとも、光弾は初期中の初期の攻撃魔法。魔力をあまり消費しなくても撃てることや、速さや威力も込める魔力量によって操作可能ではありますが、限界というのは存在します。

 そして、光弾の最大の欠点というのが、その存在の希薄さ。

 光弾に込められる魔力量をいくら増やそうとも、他の攻撃魔法とぶつかれば、すぐに消滅してしまいます。

 光弾はすぐに発動できることから、その利便性を生かし、先制攻撃に用いるのが基本であり、このような一対一の場面で放つ魔法ではありません。

 私の思い通り、私の炎が光弾を難なく飲み込み、そのままの勢いで男まで飲み込みます。

 炎の直撃を受けて、普通ならただでは済まされません。魔力で生み出した炎は通常の炎と違って、発動者の意思により燃やすものを決めることが可能です。敵だけをその炎によって消し去りたいのなら、炎は周りの他のものを燃やすことはありません。

 そして私は、男の身体を燃やそうという、意思を炎に込めて放ちました。

 今頃、炎の奔流の中でその熱さのあまりのたうち回っているはずです―――普通なら。

 ですが、私の目はしっかりと炎の先を見つめたまま警戒を解くことはできませんでした。

 先ほど、フードの男達は、私や他二人の魔法を避けることなく、ただ立ったままやり過ごしているのです。唯一のヴァニタスではないこの男が、魔法の直撃の直前、何かしたようには見えませんでした。男が魔法で私達の攻撃を防いだのであれば、その魔力の動きが見えたはずです。しかし、その時私達以外の魔力反応は一切感じられませんでした。

 つまりは、何もしていないのに魔法の影響を受けなかったということになります。

 そうならば、今回も。

 男の周りにある炎に一点が、揺らぎ始めました。


「やはり、効きませんか」


 私がそう言うと同時に、その部分の炎が掻き消えて、男がこちらに向かって走ってきています。

 私はすぐに、自身の剣を地面に刺すと、炎の壁を男と私の間に張りました。


(直接攻撃がだめならば、これでどうですか)


 攻撃魔法を防御に使う方法。

 これならば男に攻撃したことにはなりません。男がどういった方法で魔法を防いでいるかは分かりませんが、自分に攻撃してこない魔法であるならもしかしたら効果があるかもしれません。

 攻撃しないけれど、壁となっている炎は攻撃に使用した時と何も性質は変わりません。

 触れればその対象を躊躇なく燃やし尽くしてしまいます。

 しかし、私のこの考えは男の言葉によって打ち砕かられることとなりました。


「学習能力は乏しいようだな。王女様!」


 男はそう高々と言うと、勢いそのままに炎の壁へと突っ込みました。

 そうして、男は難なく炎の壁を突破し、手に持った短剣を私めがけて振ってきます。

 私もそれに対して、地面に刺した剣を引き抜くと、男の攻撃を防ぐために、向かってくる短剣の軌道上に剣を据えます。


 カン―――!


 金属と金属のぶつかり合う甲高い音が辺りに響きわたります。

 男は攻撃の手をやめようとはしません。短剣を続けざまに振り、確実に私を殺しに来ていました。

 私はそれを見失わないように必死に身体と剣を動かし対処していきます。

 しかし、思うように身体に身体が動いてはくれません。

 今まで決闘という形で、何度も自分に向かってくる剣を捌いたことはあります。男の攻撃は単調です。私がこれまで戦った中でも、難なく勝てる部類であるでしょう。男の攻撃だけを見たら私に負ける要素など一つもないことは想像にかたくありません。

 ですが、何故だか私の身体は、今は鈍く重いのです。下手をしたら男の単調な攻撃でさえ見失ってしまいそうになるほどに。

 どうしてか、その原因は男の纏っている空気にあるのでしょう。

 私を殺す。そういった強い殺意が男の行動すべてににじみ出ていました。

 私の身体がそれを如実に感じ取ってしまっているようです。

 足も上手く動かせません。

 次第に私の方が男におされ始めました。


「どうだ。はらはらするだろう?」

「な、なにがですか!」


 私とは対照的に男は不気味にフードの下に笑みを浮かべていました。


「殺し合いだよ。命と命のやり取りっていうのは、たまらないぐらい癖になっちまうよな」

「そんなこと、あるわけないでしょう!」


 私は剣を思いっきり振り、男の言葉を否定します。

 殺し合い。そんなものに快感を覚える下世話な趣味など、持ち合わせていません。

 男が私の攻撃をかわすため、後ろに大きく下がります。

 私と男の間に空間が出来ました。


「そうか?死に間際の恐怖に満たされた顔なんて、最高に気分が上がるんだけどな」

「……あなた、人を殺したことがあるのですね」

「ああ。もう数え切れないほどな」


 男は私の言葉に躊躇なく、何でもないような素振りで頷いてきます。


「俺だけじゃないぜ。ここにいる俺の仲間は全員、人を殺したことがある。それも、俺よりも多くな」


 その男の言葉に、他の仲間達が頷きました。口元に笑みをたたえながら。

 そんなやり取りに、人質になっている自警団のメンバーはこれまで以上に怯えた表情になってしまっています。


「最低な人ですね。あなた達は」

「あははは!そうかもな」

「人を殺すことに快楽を感じるなど、通常の人間ではありません」

「ああ。そんなこと言われなくても分かってるよ。だけど」


 そう口にした男の姿が掻き消えました。

 次に現れた時、男の身体は私のすぐ近くにありました。

 咄嗟のことに反応できない私に対して、男はしかし、攻撃をすることはありませんでした。

 目を見開いている私の耳の近くに、男はそのフードに包まれた顔を近づいて囁いてきます。


「……お前に言われたくないな。この人殺しが」


 私の中に、男の言葉が響き渡ります。

 人殺し……身に覚えのない言葉に私の身体は固まっていました。

 そして、そうなった私の身体に男が容赦なく攻撃を仕掛けてきます。私の横腹に、男の骨を折るかの勢いの蹴りがはいりました。

 私の身体には得も言われぬ衝撃が走ります。

 防ぐことのできなかった私は、男の蹴りにおされる形で、地面に叩きつけられながら転がっていきます。


「ビンゴ。弾けろ!」


 すると、私の身体が転がり終わるのを待って、男が指を鳴らしました。


 ドン!!


 男の指を合図にしたかのように、私の下の地面が爆発しました。

 私の咄嗟に両手で顔を守りましたが、爆発をもろに受けた私の身体は宙に浮きあがります。

 男の蹴りか、爆発の影響かは分かりませんが、どうやら口の中を切っているらしく、血の独特の味が口内に広がっています。

 私はそのまま、地面に落ちていきます。


「まだまだ終わらないぞ」


 男がそう言うと、地面に手をつけて魔力を地面に伝えます。

 すると、地面の土がまるで意思を思っているかのように動き、私の首めがけて飛んできました。

 そして、私は何も出来ることなく、地面からせり出てきた土によって、空中で首を絞められます。


「あっ―――」


 私の口からは鈍い声が漏れます。

 息が出来ません。このままでは、窒息してしまいます。

 そんな私の様子を、男は満足そうに下から見つめてきまます。

 私は何とか意識を保ちながら男の方へと視線を向けました。


「いい眺めだな。王女様」

「あなた……私が…人…殺し…」

「あんまり話さない方がいいぜ。話すことで消費する酸素の分、早く死んじまうからな」

「……」


 私は(かす)れる視界の中、男の言葉を頭の中で呟き続けていました。

 私が人殺し。そんな事実私には身に覚えがありません。

 こうした殺し合いなど今まで経験したことがないのですから。あまつさえ、私が人を殺すことなどは一切したことはありません。

 頭に酸素が回らなくなってきたのか、私の思考は上手く動いてくれませんでした。

 

 カラン


 手にも力が入らず、持っていた剣が地面に落ちました。

 魔法を使うだけの精神力も私には残されていません。

 視界が暗み、今のこの状況が遠くに感じられるようでした。

 このままでは―――死ぬ。

 私の回らなくなった頭でもそれだけは分かります。

 しかし、どうすることも出来ません。

 男が私の様子を見て、ニタニタと笑っています。

 自警団のメンバーは私の様子に、泣きそうい顔を沈めています。顔を背けている子も、いますね。

 私はそれを見たまま自分の死を覚悟します。

 しかし、そんな時予想だにしないことが起こりました。

 私の首を絞めていた土が、いきなり力を失ったかのように地面に落ちていったのです。

 それに合わせて私も地面に落ちました。


「ゴホッ……ゴホッ……」


 私は地面に倒れたまま、自分の首を抑えながら、激しくせき込みます。

 そして、荒い息を繰り返しました。

 徐々に意識が戻ってきます。頭にも酸素が戻ってきたのか、思考もクリアにはいかないまでも、状況を判断することぐらいはできるようになってきました。

 男がその光景に、ニタニタ顔を崩し、私を見つめています。


「チッ。時間切れってか」


 そう言う男の身体からは、何故か魔力が感じられませんでした。

 まるでヴァニタスかのように、魔力が男の周りから消え失せてしまっています。


「命拾いしたな王女様」

「……あなた…いったい何者です……」


 掠れた声で私は男に問いかけます。

 すると男はおもむろにフードに手をかけました。

 そして勢いよくフードを外し、その顔を外に晒します。


「数日ぶりですね王女様。あの時は助けてくれなくて、俺悲しかったですよ。あんなにお願いしたっていうのに」


 そう言う男の顔を見て、私は驚きのあまり目を見開いてしまいました。

 男は、数日前、夜のこの森で私とあの男に助けを求めに来た、ヴァニタスの男性だったのです。

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