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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~王女編~
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始まり前夜

 アルバが、ライラに休暇を与えられた日、街でアリスと鉢合わせになった後、学園に戻ったアルバは何事のなく、ミリンダと一緒に夜までゆっくりすることが出来た。

 久しぶりに街に出てみると、相変わらずのヴァニタス差別を目の当たりにはしたものの、エマやエル、さらにはドミニクと、いろいろな学園にいては会えない人達と話すことが出来たのは、少しだけ気分転換になった。

 それに、収穫がなかったわけでもない。

 エマから、有力とはいかないまでも、ちょっとした情報を手に入れれたことは大きい。

 アリスのヴァニタスからの評価も聞けたのも、よかったことだろう。

 結局その日、アルバはミリンダと共に、部屋の中でのんびりとした後、いつもの様に眠りについたのだった。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


 あれから数日。

 自警団やアリスに変わった動きはなく、毎日、決まった時間に屋内訓練場での訓練をして、アルバはそれをばれないところで見守っていた。

 あの時に反省したのか、アリスが黙ったまま学園の外に出ることは無くなり、今は屋内訓練場で一人残っての自主訓練にとどめている。

 しかし、そろそろアリスの中の焦りは、限界をむかえてくるはずだ。

 実際、リーリンが言っていたが、最近のアリスの様子は前よりも、イライラしたように見え、訓練中アドバイスを言う口調は強く厳しいものになっているらしい。

 だが、それでも自警団がついていくのは、アリスだけでなく他のメンバーの意気込みも上がっているからなのだろう。

 アルバとアリスの決闘を見てから、自警団の士気は上がったままだった。

 明日は、また学園休日の日。

 何かするなら、休日だろうと思いながら、この日、アルバは屋内訓練場で一人訓練しているアリスを見てから、ミリンダと共に、寮の部屋へと戻っていった。



「アリス様、大丈夫でしょうか……」


 アルバが夕食後、ミリンダの出してくれたお茶を飲みながら、椅子に座ってのんびりしていた時、ミリンダがアルバの向かいの椅子に腰を下ろし唐突に不安そうな声を上げた。


「今日の自主訓練の様子、なんだが必死な様子でしたから」


 屋内訓練場で見た光景を思い出しているのだろう。

 そう言うミリンダの眉は下がったままだ。


「まぁ、あれは今日だけじゃないけどな」

「はい。アルバ様に負けてから、ずっとあの様子ですからね……」


 アリスは、アルバとの決闘後、国外に出るという暴挙に出たもののあれは、あの一回で終わっている。

 その後は、自主訓練の時間の増やし、魔法の質も上げていくなどと、必死の形相で訓練していた。

 焦る気持ちも分からなくはない。

 アルバを追い出すといっても明確な案は、未だ思いついていないのだろう。

 学園は未だに平和のままで、アルバでさえ、毎日の学園の見回りだけで、それ以外やることがない。

 そうなっては、アルバを追い出すことも、自警団の実力をライラに認めさせることも難しい。

 しかし、理事長室で、あれだけの啖呵をきって、さらには自警団のメンバーまで増員したアリスにとって、どうしていいか分かりませんっと言ってやめることなど、出来るわけないはずだ。

 もう戻ることのできないところまで来てしまっている。

 今のアリスは、ヴァニタスを追い出したい気持ちと、うまい具合に成果が実らないことに、葛藤を覚えているはずだ。

 前にリーリンの言っていたことが思い出される。


 森での実践を想定した訓練


 アリスは焦ったように、自警団の主要メンバーに言っていたという。

 あれからそれなりに時間が経っている。メンバーの士気も上がった今のなら、もしかしたら実行するかもしれない。

 そんなことを思っていると、


 コンコン―――


 唐突に、部屋の扉がノックされた。

 珍しいことに、アルバとミリンダが顔を見合わせる。

 ライラかと一瞬思ったが、ライラであるなら、ネックレス越しに頭に直接話しかけてくるはずだ。

 わざわざ、ここまで来るとは思えない。

 ミリンダも心当たりがないらしく、首をかしげた後、椅子から立ち上がり、扉まで歩いていく。

 ゆっくりと扉を開ける。


「……リーリンさん」

「あ、あの、ミリンダさん。ここにアルバさんはいますか?」


 ミリンダは扉を開けると、そこに立っていたリーリンに優しく話しかけた。

 リーリンは何故か少し自信なさげは表情で、ミリンダの後ろ、部屋の中を覗き込むようにしている。


「はい。いらっしゃいますよ。どうぞ」


 ミリンダはそんなリーリンを快く部屋の中に招き入れる。

 リーリンが部屋の中に入ってきて、椅子に座るアルバを一目見ると、安堵したように肩の力を抜いた。


「座ってください。すぐにでも飲み物をお持ちしますね」

「は、はい……」


 リーリンはミリンダに促されるまま、アルバの向かい、ミリンダが座っていた椅子へと、腰を下ろした。

 リーリンはこの時間だというのに制服に身を包んで、髪も後ろで二つに結んでいる。学園が終われば、制服を着ている必要はない。ほとんどの生徒は、寮に戻ったあと、各々の私服や、訓練用の服という、比較的動きやすい服装に着替えているのだ。

 だからといって、制服じゃなければ、寮から学園内に入ることはできないし、休日も街に出ることはできないから、リーリンのように、一日中制服という生徒も少なくはない。

 リーリンが椅子に座る間に、ミリンダはキッチンに置かれているコップを手に持つと、アルバと同じ、街で買ってきたというお茶を入れ、リーリンの前に置く。自分のコップは、リーリンに席を勧めたときに、回収済みだ。


「あ、ありがとうございます」

「いいえ。お気になさらずに」


 リーリンのお礼に、ミリンダは軽く答えると、ミリンダはアルバの後ろに控えるように立った。

 メイドとしての定位置でもある。

 日頃は、アルバしかいないので、向かい合わせに座っているが、客人が来れば、ミリンダはアルバの後ろに立つようにしているのだ。

 それがメイドとしての本来の姿だと言っていた。


「あ、あの、ミリンダさんは座らないんですか」


 だが、リーリンはそんなこと知るわけもなく、アルバの後ろに立ったミリンダを見つめ、申し訳なさそうに呟いた。


「はい。お客様が来ているのに、メイドの私が椅子に座るなど出来ませんから」

「で、でも……」

「まぁ、とか言って、本当は部屋に椅子が二つしかないだけだけどな」

「はい……あははは」


 アルバの一言に、ミリンダが苦笑した。

 初めから、ここはアルバとミリンダが来ることになっていたためか、椅子とテーブルは最小限の数しか置かれてはいない。

 つまりは、誰かかここに来れば必然的にミリンダが立つということになるわけである。流石に、アルバが立つことをミリンダは許してくれないだろう。


「なので、リーリンさんは気にしないでください」

「は、はい。分かりました」


 ミリンダの言葉にリーリンは頷くと、少し気持ちを落ち着けるためか、お茶を一口飲む。

 それを待って、アルバはリーリンに話しかけた。


「どうしたんだ。わざわざ、リーリンが、男子寮にある俺の部屋まで来るなんて」


 学園の寮は、女子と男子で分けられており、各々の行き来は禁止となっている。

 どうしようもない理由で、異性の寮に行くときは、事前に寮担当の先生やライラに許可を取っておく必要があるのだ。

 アルバもミリンダを連れているとはいえ、男なので、ライラが用意した部屋は男子寮の部屋を改造したものだった。しかし、アルバの部屋にだけは男女共々、許可なく来ることが出来るようになっていて、アルバの用事があるなら、リーリンみたいにいつでも来ていいのだ。

 しかし、女子生徒がアルバの部屋に行くには、男子寮の入り口からではなく、アルバの部屋のすぐ近くに特別に作られた扉から入らなけらばならない。

 もちろん、アルバの部屋より男子寮側に行っては違反となる。

 だが、アルバに会いに来るような物好きは、今まで一人もおらず、違反の心配もなかった。

 そんな中、わざわざ女子寮から出て、アルバの部屋に来たリーリンには、何かアルバに言わなければならないことがあったのだろう。

 リーリンはアルバの問いかけに、少し間をあけた後、静かに口を開いた。


「あ、あの、アルバさんはもしかしたらもう知っているかも知れないけど、明日、自警団は王都近くの森に訓練に行くことになったんです」


 そう言ったリーリンの態度は、不安で満たされていた。

 アルバが思っていた通り、アリスがついに動き始めたのだ。


「そうだったのか」

「知らなかったんですか?」


 アルバの驚いた声に、リーリンは意外そうな声をあげる。


「ああ」

「そうですか……てっきり、ライラ様から聞かされていると思ってました」


 リーリンの考えはもっともだろう。

 自警団の国外訓練はライラの許可がないと出来ないことだ。決行できているということは、ライラの許可をアリスが取っているということになる。

 だから、リーリンはアルバにもライラから知らされてると思い、相談のためにここに来たのかもしれない。


「ミリンダは知ってたか」

「いえ、私も初耳です」


 やはり、ミリンダにも伝わっていない。

 リーリンには分かっていないだろうが、ライラが必ずしもアルバの味方であるとは言えない。というのも、アルバの存在がいらないと判断されたなら、ライラがアルバに何か話すことはないのだ。

 ライラはアルバの雇い主である前に、学園の理事長。優先順位で言うなら、リーリン達生徒の方が上だろう。

 今回もアリスがライラにどう言って許してもらったか分からないが、アリスの発言に問題がないと判断したからこそ、アルバには何も伝わっていない。


「何か心配なことでもあるのか?」

「心配なことっていうわけじゃないんですけど……」


 アルバの言葉にリーリンは眉を下げて、自信なさそうに呟く。


「モンスターと戦うって思ったら、ロイボアのこと思い出しちゃって」


 リーリンは自分の腕を抱くようにして、身体を少しだけ震わせていた。

 リーリンの中で、あのロイボアの攻撃を受けたことは、心に深く住み着いてしまっているようだ。

 モンスターに対する恐怖心をあげてしまっている。


「なんだか、怖くって……だから、アルバさんが同行してくれたらなって思ったんですけど……」


 リーリンは何か期待するような眼差しを、アルバに向けてくる。

 目は潤み、助けを求めてきているようだ。

 そんな目で見つめられては、アルバとしても助けてあげたいと思ってしまうが、しかし、アルバは首を縦に振ることはできなかった。


「悪い。ライラから何も聞かされていない以上、俺が学園から離れることは出来ないんだ」

「……そうですよね」


 リーリンは肩を落として落胆した様子を見せる。

 カインの時みたいに、ライラに直接聞いてみればいいと思うかもしれないが、今回に関しては、直接聞いたところでライラは許可しないだろう。

 カインの時は、カインの考えも分かったうえでライラはアルバに授業の付き添いを認めた。しかし、今回はリーリンの不安から来るものだ。リーリン個人の気持ちだけではライラが頷くとは思えない。

 さらにいえば、アリスはライラの許可を得ている。今の段階でアルバに何もないなら、いくらアルバが直接聞いても、何も変わらないだろう。明日、アルバはいつもの様に学園の見回りをしているはずだ。


「そうだろうなって、思ってました」


 リーリンもアルバが明日のことを聞かされていないことで、無理なことは承知していたようだ。

 すぐに、顔を上げると、無理して笑みをつくる。


「ごめんなさい。なんだか誰かに話さないと、私不安で……」

「謝らなくてもいい。リーリンの気持ちは誰だって思うことだ」


 慣れていなければ、モンスターとの戦闘に不安を感じない人はいないだろう。

 アルバは、昔のことすぎて忘れてしまったが、王都だろうとグリードだろうと、モンスターとの戦闘を前にしたら、落ち着きが無くなるのは変わらない。

 特に、リーリンに関していえば、初めてのロイボアとの戦闘で失敗してしまっている。

 それに、大人しい性格も相まって、他の生徒以上にモンスターに対して、戦闘に対しての不安は大きい。


「そうですよ。リーリンさんが落ち着くまで、ここにいていいですから。ゆっくりしてください」

「はい。ありがとうございます」


 ミリンダの優しい言葉に、リーリンはお茶を一口飲むと、一度ため息をはいた。


「俺がいなくても大丈夫さ」


 アルバはリーリンの不安が少しでも払拭されればという思いで、言葉を紡ぐ。


「前にアリスと一緒に森に行ったことがあるんだけどな」

「はい。あの時ですね……」


 アリスの無断外出はリーリンにも伝わっているようで、アルバの言葉にリーリンがすぐに呟いた。


「その時見たが、アリスの実力は申し分ない。そこらのモンスターになら負けないだろう」


 アリスお得意の炎魔法で、躊躇なくモンスターを焼き払っていた。

 苦戦した様子もなかったし、モンスター相手なら、アリス一人でも余裕なことは見ていてわかる。さらに、自警団にはアリスと同等の実力を誇るだろう生徒も何人もいるだろうから、授業の時よりも、比較的安全だといえるだろう。

 それに、学園の生徒とはいえ王女が国外に出るのだ。騎士の一人はつけるはずである。たとえアリスが騎士の同行を断ったとしても、ライラ、ダリアンがそれを許すとは到底思えない。王宮騎士じゃないにしても、それ同等に人が護衛としてついていくことになるはずだ。

 授業は、守ってくれるのが先生一人なこともあり、十分な安全を確保しても、まだ油断はできないところがある。

 しかし、今回は違う。厳重な安全確保が行われるはずである。

 リーリンも頭ではそう思っても、森に行くこと自体に不安を感じているようで、アルバの言葉を受けても、表情は変わらなかった。


「分かっているんですけど、やっぱり、不安で」


 仕方ないか。

 こればっかりは場数を踏んで、慣れていくしかない。

 これ以上明日の訓練のことを話すのは、リーリンの不安を増幅させるだけだろうとして、話題を変えることにした。

 ついて行くことが出来ないことへの罪滅ぼしとして、せめてリーリンの不安を少しでも和らげよう。アルバはミリンダに、リーリンには聞こえない小さな声で、自分の意思を伝えた。

 人の心を和らげることに関して、アルバよりもミリンダの方がむいていると思ったからだ。

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