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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~守り人就任編~
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魔力残滓と守り人の立場

 しばらくすると行き先に大きな門が見えてきた。

 グリードは国の周りを壁に覆われているために、この門を通らないと出入りが出来なくなっている。モンスターの襲撃を防ぐために建てられたこの壁は、グリード独自の物である。

 各国の魔道師が張っている結界の変わりになるものだ。

 門は煌びやかな装飾はなく、シンプルで頑丈な鋼鉄で造られている。寂れた印象を与えるグリードの街並みとある意味合っている。

 門番にライラが一声かけると、すぐ横にある建物に案内された。ここは馬車など、移動に使われたものを預けて置けるところである。

 今、この国に訪れているのはライラだけのようで、馬車が一つだけであった。

 そこに向かうと、アルバは驚いた。

 アルバが思っていたよりも、小さかったからだ。ライラのような身分の人間を乗せるには、いささか心もとないように思われる。


「お待ちしておりました」


 馬車の隣には、老紳士が立っていた。髪もひげも白くなっているが、見た目とは裏腹に、ピシッとした立ち姿をしている。目は常に微笑んでいるかのようになっていた。


「待たせたな、セイブル。出発だ」

「はい。かしこまりました」


 セイブルと呼ばれた老紳士はライラからの言葉を受け、荷台のシートを開ける。

 流れるような動作で搭乗の準備を終えると、こちらに手を差し出してきた。


「どうぞ」


 その手をライラが掴む。


「ありがとう」


 お礼を言い、中に入っていった。

 すると、今度はライラにしたときと同じようにアルバにも手を差し出す。

 アルバは戸惑いつつも、セイブルの手を取る。


「っ……」


 その手が見た目に反してがっしりとしている印象を受けた。


「どうかなさいましたか?」

「…ああ、いや、なんでもない」


 アルバはかぶりを振り、荷台に入った。荷台の中は何もなく、両端が出っ張っていて、座れるようななっている。

 アルバは迷うことなくライラとの向かいに座る。

 どうやらセイブルもライラと同じでただ者ではなさそうだ。

 ライラとアルバが荷台に座ったことを確認すると、セイブルは二頭の馬の手綱を持ち、専用の場所にに座った。

 軽快に走り出す。


:::::::::::::::::::::::::::::::::::::


 森を馬車がかけていく。

 グリードを出てすぐ、馬車は迷うことなく目の前に広がる森の中へ入っていった。森はアルバたちのように国を移動する人のために、それとなく道のようなものが作られている。

 この森は、アインフレドの森と言われていて、モンスターが多く生息している。グリードの国民はここで毎日のようにモンスターを狩っている。それだけに、ここのモンスターはどこよりも凶暴だと噂されている。

 グリードを目指す者はこの森を通るとき、誰しも警戒するか、森を迂回していくルートを通るようにしていた。

 そこをアルバたちを乗せた馬車は迷いなく突き進む。

 森のことをよく知っているアルバは、自分の刀に手を添えた。

 いつモンスターが襲ってきてもいいようにだ。

 そんなアルバを見て、ライラは感心したように声を上げる。


「ずいぶんと仕事熱心だな。私は嬉しいよ」

「この森を、何も準備せずに進むこの馬車がおかしいんだろうが」


 アルバは意識を集中させる。

 アルバとは対照的に、ライラは落ち着いていた。


「警戒しなくてもいいぞ。この馬車が襲われることはない」


 そう言って、今にも抜刀しそうになっているアルバの手を押さえる。


「馬車にはモンスターから気配を消す特別な魔法がかけられている。モンスターに触れることがない限り、馬車の存在に気づくことすらできないだろう」


 王都から出発するときに、ライラ自身が馬車にかけたものだ。いちいちモンスターに襲われていては時間がかかりすぎてしまう。それではいけないとして、特別な魔法をかけたのだ。しかし、常に魔力を放出し続けないといけないために、ライラのような魔法を熟知したものでないと使うのは難しい。


「……わかった」


 アルバはライラの言葉を聞いて、渋々と手を刀から離した。


「それよりも、何故私が王都に戻るのに魔法を使わないか、不思議がっていたな」


 ライラは馬車に向かう途中でアルバが言ったことを思い出した。


「ああ」


 アルバは向かいのライラを見た。


「魔力残滓……というのは知ってるか?」

「知らないな」


 アルバは首を振る。魔法の知識は全くと言っていいほどなかった。グリードで生まれたアルバにとって、魔法を学ぶ機会などあるわけがない。


「魔力残滓とは、単純に言って魔法の痕跡の事だ」


 ライラは淡々と説明し始める。


「魔法というのは、体内にある魔力を、自分の思い描いたようにコントロールすることにより初めて使うことができる。すると、使った後に魔力がその場に留まる現象が起こる。それを、魔力残滓と呼んでいる。これは、誰にも消すことができない」


 ライラの説明をアルバは黙って聞いていた。


「魔法を使うものは、感覚的に他人の魔力を感じることができる。実は魔力というのは、身体から少しだが漏れ出ているため、それを生まれてから浴びていることが影響で、感じる能力が備わったのではと考えられている」

「魔力ねぇ」


 アルバにはピンとこなかった。生まれてこの方、魔力を感じた事がない。

 もちろん、ライラの言ったように生まれてから周りはヴァニタスだらけのアルバに、魔力を感じる能力が備わっていないのは分かる。それでも、モンスターの中には魔法を使うものも少なからずいるため、少しは感じられてもいいと思うのだが、それらしき感覚になったことはない。


「アルバが分からないのも無理はない。ヴァニタスは個人才能に関係なく、全ての人が魔力自体感じることができない。だから、どれだけ努力したところでヴァニタスは魔法が一切使えないんだ」

「なるほど」


 魔法の大本となる、魔力の存在自体分からないのだから、無理もない。


「話を戻そう。例えば、私が移動魔法でグリードと王都を行き来したとする。すると、出発地点と到達地点に魔力が少しの間残ってしまう。これを感知されると、私が移動魔法を使って、どこかへ行ったことが分かってしまう」

「…だけど、別に移動する場所が決められないわけじゃないんだろ。ライラの部屋とかにすれば、いくら魔力残滓があったとしても、気づかれる可能性は低いんじゃないのか?」

「その通りだ。プライベートのところにしておけば何も心配はいらない。ここまで慎重になる必要はない」

「だったらなんで……」

「いつどうやって見張られているとも限らないからな。まぁ、十中八九問題ないと私も思うが、慎重に慎重を重ねることは悪いことではない」

「ずいぶん心配性だな。らしくない」


 今日初めて会ったライラに対して、らしくないと言えるだけアルバは彼女のことを知らない。だとしても、アルバに家を訪ねてきたときや、これまでに態度を見るに、心配性とはかけ離れた性格にしか思えない。

 ライラはかけている眼鏡をクイッとあげて、笑みを浮かべる。


「ふふっ。確かにな。私だけの問題であれば、何も気にしなかっただろう。だが、これは生徒に直接危険が及ぶ可能性がある。それは一番避けなければならない」


 理事長という立場として、生徒の安全に対して疎かにしてはいけない。何よりも、ライラが理事をしてるのは、貴族の子が多く在籍している王宮直属のフトゥールム学園である。生徒に何かあれば、大きな問題になりかねない。


「だから、あえてこの馬車での移動にした。まさかこんなおんぼろ馬車の荷台に、こんな性格の私が乗っているとは思わないだろうからな」


 そう言って、馬車を手の甲でトントンとたたいた。


「全て生徒のためか……」


 アルバはポツリと呟いた。

 まさかここまで注意しなければならないのか。


「そうだ。これは、これから学園の守り人となる君にも関係ない話ではない」


 アルバは改めて、自分が大変な立場にいることを思い知る。グリードのためとはいえ、ずいぶんと重い仕事を引き受けてしまったな。


「自分がどのような立場にいるか分かったか?」

「ああ。今すぐにでも帰りたくなってきた」

「私が簡単に返すとでも?」


 ライラは脅すように、自分の右の手をアルバに向ける。

 アルバが何かしようものなら、魔法を使うという意思表示だ。


「……冗談だよ」


 アルバは顔を逸らして受け流した。


「とにかく、まだ王都までは時間がかかる。少し寝て体力を回復させておけ。王都に着いたら何かと大変だからな」


 ライラは彼女には珍しく気遣いの言葉をかけた。

 これからどんなことがあるか分からないアルバは、ライラの言葉を素直に聞くことにした。

 座ったまま目を閉じると、そのまま眠りについた。

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