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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~王女編~
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街での評判

 自分の発言に項垂れるドミニクの様子に、かけていい言葉が見つからないアルバとミリンダ。

 互いに顔を見合わせて少し困った表情を浮かべている。

 しかし、ドミニクはそれからすぐに、下がった頭をあげ、困り顔のアルバ達を見た。


「いや、すまねぇ。やっぱ歳には適わねぇや!」


 そう言ってドミニクは沈んだ気分を払拭するかのように、大きな口を開けて豪快に笑った。


「あんた、まだ十分に若いと思うぞ」

「私もそう思います」


 アルバとミリンダが、そんなドミニクの姿を見ながら率直な感想を言う。

 大口を開けながら、豪快に歳の事を笑い飛ばすドミニクの姿は、アルバ達から見てもまだまだ若くエネルギッシュに映った。

 セイブルと昔からの友人ということで、セイブルと歳も近いはずであるが、そんなこと感じさせないぐらいの熱気みたいなものが、身体から満ち溢れている。

 セイブルが優しい老紳士であるならば、ドミニクのそれは対照的で、若者にも負けない情熱を持っているおじさんみたいだ。

 いい意味でセイブルとバランスが取れていると思える。


「嬉しいこと言ってくれる」

「いえいえ。私達は正直なことを言っただけですよ」

「おお!お嬢ちゃんは優しいなぁ!いいよ、今ならうちの武器安くしてやるぜぇ」


 ドミニクはミリンダの言葉に、気分をよくしたように、自分の店の商品を勧めて来る。

 今の姿は、職人というよりも商売人のようであった。


「それは大丈夫です」


 しかし、そんなドミニクに対して、ミリンダはばっさりと切り捨てた。


「そうか……」

「ごめんなさい」

 

 ミリンダが勢いのそがれたドミニクに頭を下げる。

 しかし、すぐに二人のどちらともなくクスッと笑いをこぼした。

 店内の空気がさらに軽くなる。


「いやぁ、顧客を増やすいい機会だと思ったのになぁ!」


 ドミニクがあっけらかんとしたように、本音を言い放った。

 ミリンダもそんなドミニクに、もう一度「ごめんなさい」と笑いながら言う。


「まぁ、仕方ねぇ。今日、一人増えただけでもいいことだ」


 そう言ってドミニクはアルバを見て呟く。


「ヴァニタスだけどいいのか?」

「そんなもん関係ねぇ。オレのところに頼みに来る奴は、誰だろうと客だ。そこに身分もくそもあるかよ」

「ありがたいことだ」


 ドミニクのような職人の存在は、アルバにとってはとても心強い。

 いざという時に、頼れる場所がある分、戦いになっても思いっきり武器を振るうことが出来る。


「つっても、兄ちゃんの武器じゃあほとんどオレのところにはこねぇだろうがな」

「かもな」

「まぁ、そん時は高く請求してやるから、何も心配いらねぇよ」

「おい……」


 アルバにとっては聞き捨てならないことをドミニクは口にしたまま、本人は楽しそうにしている。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


「兄ちゃん、学園の関係者ってこたぁ、今日は見回りか何かで街に来てんのか?」


 ドミニクが何の前触れもなく唐突にそんなことを言い出した。

 

「そんなとこだ」


 アルバがそれに歯切れの悪い言葉で返す。

 見回りといっても、それは名目上であって、本当は休暇ということになっている。

 だからこそ、ドミニクの店にそれなりに長い時間いれるのだ。見回りの目的であれば、ドミニクとは店頭で会った時にすぐに別れている。


「兄ちゃんも断ればいいのによ。いくら学園関係者だろうと、ヴァニタスがこのメイン通りを歩くのはしんどいだろ」

「確かにな。だけど、ミリンダがいれば変に絡まれたりはしないし、視線は気にしなければいいだけだ」

「まぁな」


 アルバとドミニクは、二人してアルバの隣に立つミリンダに視線を向ける。

 二人の視線を受け、ミリンダが恥ずかしそうに微笑んだ。


「私は、何もしていませんよ。アルバ様に付いて歩いているだけですから」

「いや、嬢ちゃんの周りに与える影響は結構なもんだぜ。王宮メイドを連れてなかったら、いくらこのアルバの兄ちゃんでも、二度とここを歩きたいとは思わなかっただろうからな」

「あははは……そうですかね」


 ミリンダはドミニクの言葉に照れながらも、アルバを見つめる。

 アルバもミリンダに対して向き合うと、声に出さずに口パクで「ありがとう」と伝えた。すると、ミリンダの表情がパッと華やいだ。

 ドミニクがそんな二人を黙って見つめていた。


「なんにしても大変だな、兄ちゃんも」

「なにがだ?」

「メイン通りを歩くのにもしんどいっていうのに、街のどこにいるかもしれない生徒を見守んなきゃいけないなんてな」

「そうでもないさ」


 ドミニクの言ったことにアルバは簡単に返した。

 そんなアルバに疑問を問うように、ドミニクは肩眉をあげて、続きを促してくる。


「ほとんどは王宮騎士がやってくれるからな」

「ふん。確かに、それもそうだ」


 アルバの説明に納得したようにドミニクは息をはいた。

 今日は学園が休みもあって、街の王宮騎士の数も増えており、いつにもまして厳戒態勢で街の様子を見ている。そんな日に、何か問題を起こす輩がいるとは思えない。

 もしいたとしても、生徒にたどり着く前に、王宮騎士に止められておしまいだ。

 ある意味、今日が一番安全な日といってもいいだろう。

 ドミニクもそれが分かっているからか、カウンターに肘をつくと、自分の店の扉を見つめて、違う話題を口にし出した。


「それにしても、客来ねぇな……」


 頬杖を突きながら、ドミニクの口からため息が漏れる。


「せっかく、珍しく店頭に商品並べたっつーのにな」


 ドミニクの視線を追うようにアルバも店頭の方に目をやる。

 どうやら、生徒が街に来るこの機会に、集客を狙って店の前に武具の数点を置いているらしい。しかし、その効果のかいなく、ほとんどの人が並べられた商品など目もくれず通り過ぎていく。


「なんでだ?兄ちゃんがいけねぇのか?」


 すると、ドミニクはアルバを一目見てそんなことを言い出した。


「おい。俺のせいにするな」

「だけどなぁ、いつもだったら今日みたいな日には、数人の客が来てもおかしくないんだよ。それこそ、学園の生徒とかな」


 ドミニクは思案顔で、独り言のようになんでだと繰り返し呟いていた。

 どう考えても、薄暗い店の雰囲気が客足を遠のかせている気がするが、自分のせいにされたアルバは、わざとそのことを黙っておくことにした。

 ちょっとした仕返しである。


「さぁな」


 アルバは店の外を見つめながら、ドミニクの独り言に対して適当な返答をする。

 すると、急に外の様子が騒がしくなった。

 街の人達が数人、店の前の道を急いだようにかけていく姿が、店内からでも見える。

 アルバが何事かと驚いていると、ドミニクが不意に立ち上がった。


「おお。ついに来たか」


 そう言って、店の外に出ていくドミニクに、アルバとミリンダもついて行く。

 ドミニクが開けたままにしていた扉から外に出ると、少し前で王宮のある方向を見たまま立っている、ドミニクの隣に並ぶ。

 そして、ドミニクにならうようにアルバも王宮の方向を向く。


「あれは」


 アルバの口から言葉が漏れる。

 街の人の視線の先には、王宮騎士を数名連れて、メイン通りを歩くアリスの姿があった。

 アリスは学園の制服に身を包んでいた。

 向けられる歓声に、手を振りながら丁寧に答えている。


「今日のメインイベントみたいなもんだな」


 そんなメイン通りの様子を慣れたように見つめるドミニクが呟く。


「メインイベント?」

「おうよ。王女さんのご登場ってやつだ」

「そんなに嬉しいことなのか」


 アルバにとってみれば、アリスは学園にいればいつものように見ている。

 何がそこまで盛り上がるのか、アルバにはピンと来ていなかった。


「王族をあれだけ近くで見れるんだ。兄ちゃんは学園で呆れるほど見ているから分からねぇかもしれないが、オレ達みたいな普通の国民にとっては、結構大イベントなんだぜ」

「いつもこうなのか?」

「そうだ。学園が休みの日には、毎回のようにメイン通りまで足を運んでくるんだ。ああやってな」


 そんなドミニクの説明の最中でも、アリスは自分の周りに集まっている国民に対して、握手するなどして応えている。まるでお祭り騒ぎだった。

 子供や大人まで、様々な人が握手を求めてアリスの周りに集っている。

 しかし、そんなアリスの様子を気にしていない人も少なからずいた。それが、ドミニクの様な、メイン通りに店を構える人達だ。

 皆、慣れたように何事もなく仕事をしている。

 さらには、学園の生徒もアリスが来る前と変わらず、メイン通りを自由に散策していた。その近くには相変わらず騎士の姿が見える。


「アリスは何をしに来ているんだ」

「そりゃあ、他の生徒と同じ目的だろうさ」


 日頃、学園から出ることのない生徒達は、この機会にいろいろと買っていくのだという。アクセサリーや武器の類はもちろんのこと、自炊する生徒であれば、次の休みの日まで食材を買いだめしておくとも聞いたことがある。

 アリスとて年頃の女の子なのは変わらない。ずっと学園や王宮に籠っているわけではないのだろう。

 それにアリスの事だ。この機会に自分の国の様子を見ておきたいという思いもあるかもしれない。


「つってもすげぇよな」


 すると、ドミニクは人の中心にいるアリスを見ながら感心したような声を出した。


「王族なのに、学園じゃあ他の生徒と同様、自分の事全てやってんだもんな。ましてや自炊までするってゆうじゃねぇか」

「だが、それは学園の生徒だったら別に特別じゃない。アリス以外にだって、数人はいる」

「そうかもしれねぇ。けどよ、どこに行くにしたってああやって人に囲まれちまう。騎士を必ず連れて歩かなきゃいけねぇってのは、オレ達には想像もできないぐらい大変なんじゃないか。少なくともオレには無理だ」


 確かに、ドミニクの言っていることは理解できる。

 アリスはこの王都という大きな国の王女という、とてもじゃないが想像もできない立場にいる。どこに行っても何をしても、必ず誰かに見られているというのは、相当な重荷に感じることだろう。

 さらには、アリスはそれに加え、学園まで通っている。

 そんな真面目なアリスは、国民の誇りともいえるのだろう。

 貴族や学園に対して口悪く言っていたドミニクでさえ、アリスに関しては称賛の言葉を並べている。


「やっぱり、アリスは国民にも人気なんだな」

「なんだ?不満そうじゃねぇか」

「別にそうじゃないが……」


 咄嗟に自分の言葉を否定しようとしたアルバだったが、ヴァニタスに対するアリスの態度を知っているアルバはいまいちはっきりと否定しきれなかった。

 そんなアルバにドミニクが怒るかとも思ったが、ドミニクは豪快に笑うだけだ。

 気分を害した様子はない。


「まぁ、仕方ねぇか。王女さんのヴァニタス嫌いは有名だもんな」

「知っていたのか」

「当たり前だ。というか、国民なら誰もが知っている」

「そうなのか」

「とはいっても、ほとんどの国民がそんなこと気にしちゃいねぇがな」


 ドミニクの言葉にアルバは心の中だけで頷いた。

 それもそうだろう。王都国民にとって、ヴァニタスを嫌っていたところで、それは当たり前の事なのだ。国民誰もが持つ感情と何も変わりはない。

 アルバは自分がヴァニタスであることで、そのことをつい忘れてしまいそうになる。

 しかし、王都で生活していく以上忘れてはいけない。ミリンダやライラ、ドミニクのように、ヴァニタスにも変わりなく接してくれる人の方が、この王都では珍しいのだ。


「アリスがヴァニタス嫌いになった原因って、知っていたりしないか」


 アルバは僅かな希望を持ってドミニクに尋ねた。


「さぁな。オレには分からねぇ。むしろ、理由なんて考えたこともねぇな」

「考えたこともない?疑問には思わなかったのか」

「そりゃあそうだろ。ヴァニタスを嫌うなんてのは、ここじゃあ常識みてぇなもんだ。王女さんだろうと、そうなっても自然ってもんだろ」

「そうか……まぁ、そう思って当然か」


 ヴァニタスを嫌うことに理由なんかない。当たり前のこと過ぎて誰も疑問に思わないのだろう。

 しかしそれでも―――アリスのヴァニタス嫌いには確実に何か理由があるはずなのだ。

 でなければ、あそこまでアルバの質問に対して、頑なに口を開かない態度を取り続けるわけがない。

 その理由を知らなければ、アリスはアルバの存在を認めてはくれないだろう。

 街にいる間に何か情報があればいいのだが……

 もう少し、誰かに話を聞いておく必要がある

 アルバはそう思うと、ある場所に向かうために、ドミニクから離れていく。

 ミリンダもしっかりとアルバについてくる。


「もう行くのか」


 離れていくアルバとミリンダに気づいたドミニクが声をかけてくる。


「ああ。そこにいると、アリスと鉢合わせになるからな」


 今の間でも、アリスは着実にメイン通りを進んでいる。

 流石に、街の中で会うのは避けたいところだ。

 それに今は休暇中である。嫌な思いはしたくない。


「それにこれ以上いると、あんたにも迷惑をかけそうだしな」


 いくらドミニクとはいえ、ヴァニタスと長い時間一緒にいるのを見られるのはまずいだろう。

 メイン通りに店を出しているなら尚更だ。


「へっ。そんなことオレが気にすると思うか?刀のことで困ったらいつでも来い。そん時は直してやるから」

「ああ。助かるよ」

「ありがとうございました」


 ドミニクにアルバとミリンダがそれぞれの感謝を示すと、そのままメイン通りに背を向け離れていく。

 二人が今度向かっているのは、街外れのあるあの喫茶店だ。

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