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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~王女編~
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店主

 セイブルと店の前で話していると、セイブルの後ろにある店の扉が開かれた。

 そこから、黒く汚れた洋服とエプロンを身に着けた、がっしりとした身体の男が顔だけ出して、三人を順番に見ている。この店の店主だ。

 そしてアルバを見たところで、店主は不意にニヤッと笑った。


「おう兄ちゃん。確かアルバだったか」


 低いしわがれた声でそう言う。


「俺のこと覚えていたんだな」

「職人として客になりそうなやつを覚えておくのは当然だろ?」

「確かにな」


 アルバと店主は互いに視線をかわし合っている。

 その多くは語らないやり取りにミリンダは少しついていけていなかった。黙ったまま状況を見守っている。

 

「おや。お二人も面識があったのですね」


 すると、セイブルが意外そうな声を出す。


「少し前にこの兄ちゃんが店に来たんだ」


 それに友人だという店主が間髪入れずに答えた。

 店主の言葉にアルバも頷く。


「まぁ、そんなことはなんだっていい」


 店主がそう言うと、自分の店の扉に身体を預けて、アルバを見る。

 頭から足の先までじっくりと目線を動かすと、それから隣に立つミリンダを一度見てから口を開いた。


「初め来た時から思っていたことだが、兄ちゃん何者だ?ただのヴァニタスじゃないだろ」

「ただのヴァニタスだぞ。グリードから来たな」

「嘘つけ。ただのヴァニタスだったら、この国が王宮メイドをつけるわけねぇだろうが。それに、セイブルとも知り合いみたいだからな」


 店主はアルバに向けた視線を動かさずにそう言ってのけた。

 アルバは別に意図的に隠していたわけではないので、簡単に自分の事を口にした。


「学園関係者だ」

「なるほど。そういうことか」


 アルバの言葉に店主は、メイン通りの至る所にいるフトゥールム学園の生徒を見て呟く。


「それでセイブルとも知り合いだったわけか」


 フトゥールム学園の理事長がライラだということは店主も知っているらしい。もちろん友人だというセイブルが、誰に仕えているのかも承知しているはずなので、店主はアルバの短い返答でも簡単に納得していれる。


「大変だろ?」

「まぁな」

「がははは。だろうな。あそこは貴族のボンボンどもがたくさんいる。ヴァニタスだと聞いたら顔をしかめたはずだ」


 店主はどこか楽しそうに豪快に笑いながら話す。


「よく頭の固い貴族どもを納得させたな」

「完全に納得しているわけじゃないさ」


 現に今、アリスによって学園から追放させられそうになっているのだから。


「それでも兄ちゃんが学園関係者なんだろ?どういった方法をしたんだ」

「まぁ、ちょっとな」


 アルバは一瞬視線を、自分の腰にある刀に目をやって答える。

 その視線を店主はどのように受け取ったのか分からないが、アルバをじっと見てニヤッと少しだけ笑った後、何も聞いて来なかった。


「では、私はそろそろ」

 

 すると、二人に会話をいつものにこやかな顔のまま見守っていたセイブルが、一言言って頭を下げた。


「おうよ」


 それに、店主が視線を動かすことなく、片手をあげて応じた。

 アルバも同じように片手をあげて応じる。


「セイブルさん。お気をつけて」

 

 隣のミリンダは深く頭を下げていた。

 そのままセイブルは武具店から離れてメイン通りを歩いて行くと思われたが、少し行ったところでこちらを振り返る。


「ドミニク」

「なんだ。まだ行ってなかったのか?」


 セイブルの言葉に、店主がセイブルの方を向く。

 どうやらこの店主は『ドミニク』というらしい。


「学園の事は私の前では少し抑えてくださいね。あまりにもひどいことを言うようであれば、友人であろうと、黙ってはおれませんから」

「……」


 セイブルの視線をまっすぐに店主のドミニクが受け止める。

 それは、セイブルの友人に対しての忠告だった。フトゥールム学園はセイブルの仕えるライラが理事を務めるところだ。セイブルにとっては学園の生徒も、ライラと同じように守らなければならない対象である。

 守り人のアルバと同じようで、しかし、二人の守り方はそれぞれ異なっていた。

 アルバは学園の生徒とライラを、外部被害から守ること。

 そして、セイブルは生徒とライラを内部被害から守ることを指名にしていた。

 それが分かっているのだろう。

 ドミニクは頭を掻きながらも、バツの悪そうな顔をしている。


「分かってるよ。悪かったな、口が悪いのは性格なんだ」

「ええ、知っています」


 ドミニクに対して親しみのこもった笑いを見せたところで、セイブルは今度こそアルバ達から離れていった。


「……ったく、世話焼きなところ、昔っから変わっちゃいねぇ」


 ドミニクはそんなセイブルの背中を見て、小さく呟いた。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


「とにかく、店に入れ。ここじゃあ目立つ」


 ドミニクにそう言われ、アルバとミリンダはドミニクについて店の中に入った。

 店内は相変わらず、薄暗く、たくさんの武器や防具が、棚につまれている。

 ドミニクはそんな店内をまっすぐに抜けていき、カウンターの奥の椅子に腰を下ろすと、アルバに手を差し出してきた。


「なぁ、良ければ兄ちゃんの刀、オレに見せてくれねぇか」

「これか?別に構わないが、どうするつもりだ」


 アルバは腰に着けている刀を鞘ごと引く抜くと、カウンターの上に置いた。

 ガシャンっと無機質な音がなる。

 この場に居る三人の視線がアルバの刀に集中する。


「こりゃまた、綺麗な鞘してやがる」


 ドミニクはそう言って、ゆっくりとアルバの刀に触れ、持ち上げた。


「思った通り、結構な重さだ」

「そうか?」


 アルバはもう何年も、この刀以外握ったためしがないのでよく分からない様子で首をかしげる。


「ああ。オレも刀はそれなりに触ってきたが、ここまで重いやつは初めてだ」

「気にしたことないな」

「そりゃあ、兄ちゃんにとってはこの重さが当たり前になっているかなら」


 ドミニクの言葉に、アルバは少しだけ昔のことを思い出していた。 

 確かに、初めてこの刀を手にしたとき、普通の武器よりも重いなと思ったような気がする。だが、黒い刀身が気に入っていたため手放さなかった。それから、毎日のように刀を振っていたこともあり、重量感など気にしなくなっていたようだ。

 アルバが自身の記憶を探っている間に、ドミニクは刀を鞘から抜いていた。

 その独特の黒い刀身が鞘から出てくる。


「しかもこの黒い刀身ときたもんだ」

「やっぱり珍しいんですか?」


 ドミニクの呟きに、今度はミリンダが反応した。

 カウンターに一歩近づき、ドミニク同様その刀身を見つめている。


「珍しいっているよりも、オレは見たこともねぇな……」


 ミリンダの言葉に、ドミニクは刀をまじまじと見ながら呟いた。

 刀を店の照明にあてたり、近くで見つめたりしながら、刀の材料を探っているようだ。

 そして、ドミニクは刀身を自分の前に持ってくると、人差し指で刀身の背を弾き、刀の強度を確かめる。


「強度も十分すぎるぐらいにあるな」

「そうですね……何か分かります?」


 アルバの刀なのに、ミリンダが一番気になっている様子だ。


「特別な鉱石を使っているってことだけは分かるんだがな……」


 カウンター越しのミリンダの言葉にドミニクは歯切れ悪そうにしている。

 すると、ドミニクは刀を鞘に収めると、アルバに返す。


「兄ちゃん。この刀どこで見つけた?」

「グリードの店だが」

「何か言ってなかったか?材料についてとか」

「いや、特別に採れたもので作ってあると言っていただけで、俺も詳しくは知らない」

「そうか……そうなると……」


 そこで店主は何かを考える素振りを見せるが、すぐに諦めたように椅子の背もたれに身体を預けた。


「分からん。言えることといえば、王都じゃあその刀は作れなってことだけだな」

「そうですか……」


 ドミニクの諦めた言葉に、ミリンダが少しだけ残念そうに肩を落とした。


「そんなに気になるのか?」


 そんな二人の様子に、アルバは不思議そうに聞く。

 

「ああ?まぁ、オレは職人魂に火がついただけさ。知らない武器を見るとつい詳しく知りたくなるっているな」


 ドミニクはアルバに対して肩をすくめたように言ってみせる。


「ミリンダもそんなにこいつの事が気になっていたのか?」

「私はその……」


 アルバの問いかけに、ミリンダは一瞬だけ口を閉じると、


「初めてアルバ様の刀を持たせていただいたときに、想像以上に重かったので、何で出来ているのかなって思いまして」

 

 そう言ってミリンダは恥ずかしそうに笑った。

 そういえば、アルバがレオナルドとの決闘の後倒れた時に、目を覚ましたアルバにミリンダが刀を手渡してくれた。

 どうやらその時から気になっていたようだ。


「まぁ、分からないならそれでいい」

「悪いな。期待にそえなくて」

「別に。それに、鉱石が分からなくても、付いた傷を治すことはできる。どうだ?もし何かあった場合、その手直しをオレに頼まないか?」


 ドミニクはカウンターに身体を起こし、アルバに提案してくる。

 ドミニクの流暢な話題転換に、初めからこれを言うために、アルバを店の中に入れたことが分かった。


「いいぞ」


 アルバは深く考えることなく、ドミニクの提案に賛同した。

 刀の手入れに関していえばアルバ一人でも出来ることだが、傷を治すことはできない。

 それに、ドミニクはセイブルの友人でもある。変なことはしないだろうにし、職人だったら、そんなこと頼まれてもやらないだろう。

 それに、ドミニクの態度はどこかグリードを思い出させることも、アルバがドミニクの言葉に頷いた一つの理由でもあった。


「とはいっても、それだけの強度をほこる刀に傷なんて簡単に付きそうもないけどな」


 ドミニクはカウンターに出していた身体を、また椅子の背もたれに預けながら、そんなことを言っていた。

 そして、視線がアルバからミリンダに移る。


「嬢ちゃんも何かあった時は、オレの店に来な。メイドといっても武器の一つは持ってるだろ」

「……すみません。ドミニクさんのご厚意はとてもうれしいのですが」

「なんだ?信用できねぇってか?安心しろこれでも結構腕の立つ職人なんだぜ」


 ドミニクは自慢するように、筋肉質の腕を組んだ。

 しかし、ミリンダは「いえ、そういうわけではなくてですね」と言って否定した後、


「私、武器は持ってないんです。ごめんなさい」


 そう言って腕を組んだままのドミニクに頭を下げる。

 ドミニクは黙ったまま、ミリンダを見ていた。

 すると、顔を天井に向け、天を仰ぐような格好になり、目元を手で覆う。


「かー!そういうことか」


 そう言い、顔を前に向け直すと、


「オレの見る目は歳と一緒に衰えちまったようだな」


 そう小さく独り言を口にした。

 アルバとミリンダは、そんなドミニクに何となく申し訳ない気持ちになる。

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