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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~王女編~
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メイドの心得

 王都のメイン通りはどこを歩いて行っても人でにぎわっていた。

 王都のほとんどの国民がここにいるんじゃないかと思えるほどに、人は絶えることなく行きかっている。

 子供やその親、若者から老人まで、年齢層が様々な人達が皆、自由にメイン通りを散策している姿が広がっている。

 そんな中にも、フトゥールム学園の黒い制服を着た生徒が何人もいた。

 一人で歩いている人もいれば、友達同士で何やら店の物を吟味しながら、楽しそうに笑いあっている生徒もいる。そして、そんな生徒達の近くには、必ずと言っていいほど王宮騎士の姿があった。

 少し離れた所を、まるで街の警備をしているかのように動き回っている。しかし、その視線はしっかりと学園の生徒をとらえている。

 学園にいると思いもしないが、フトゥールム学園の生徒だけあって皆相当高い身分の子供たちなのだ。

 じゃないと、ここまで王宮騎士が街に出てくることなんてない。

 パッと見るだけでも、今メイン通りにいる王宮騎士の数は、前に来た時よりも倍ぐらいには増えていた。

 中には、本当に街の警備に勤しむ騎士もいるが、ほとんどが今日のために街に出てきた騎士ばかりだろう。

 気づかれないようにうまく間合いを取りつつも、学園の生徒をしっかりと見張っている。

 こうして見ても、生徒達は王都にとって守るべき大切な子供たちなのだと分かる。

 入れ代わり立ち代わりで、違和感を持たれない程度に生徒の周りを巡回していた。

 生徒が動けば、騎士も動く。そんな光景が今のメイン通りには広がっている。


「結構いるな」

「王宮騎士ですか?」

「それもあるが、生徒の方だよ」


 アルバはメイン通りをざっと見て呟いた。

 確かに騎士の数も多いが、それに比べても生徒の方が圧倒的に多い。

 学園の制服は街ではよく目立つようで、注意して見なくても、黒の制服が目に入る。


「学園からここまで結構距離あったよな」

「はい。そうですね」

「よく来れるな……」


 ここまで歩いてくるのにそれなりに時間を使った。あれだけの時間を使ってでも、学園から離れてメイン通りまで来たいと思うのが、アルバにはよく分からなかった。


「それはですね」


 一人思案顔のアルバに対して、ミリンダは説明するようにアルバの前に立つ。


「こうやって……」


 ミリンダはそう言って自分に魔法を使った。

 すると、風がミリンダの身体に集まってきて、徐々にミリンダの身体が地面から離れる。

 そして、足が少し浮いたところでミリンダは空中にとどまった。


「魔法で移動するんですよ」


 ミリンダはそのまま身体を左右に動かすと、空中で滑るように移動した。


「こうすると疲れずに早く移動できるんです」


 そうして、ミリンダは魔法を解いたのか、地面に足を下ろした。

 風で若干乱れた髪を手ぐしで直している。


「多分ほとんどの子がこうしてここまで来ていると思いますよ」

「なるほど」

「ある程度の距離なら、歩くよりも疲れませんから」


 空中に浮いているだけなので身体を動かす必要がない。

 さらには、魔法の強弱で移動の速さを変えることができるみたいで、多くの人がちょっとした移動で多用しているようだ。


「とはいっても、魔力を使うので使いすぎたり、速くしすぎたりすると、歩くよりも疲れてしまいます。学園からメイン通りまでの距離ぐらいでしか扱えないのが難点ですかね。それよりも遠ければ馬車が。近ければ歩いた方が圧倒的に楽ですから」


 ミリンダはそう言って愛想笑いを浮かべる。

 やはりなとアルバは納得した。

 難点が無いなら、国民のほとんどがあの方法で移動しているはずである。だが、アルバは今までそんな移動をしている人を見たことがない。

 空中を滑るように移動している人を見れば、記憶に残っているはずである。


「移動系の魔法はいまいちなんだな」


 アルバは正直な感想を言う。

 前に移動魔法についてライラも言っていたことだが、人体を動かすことは相当魔力を使うらしい。


「じゃあ、俺がいなかったらミリンダもあの魔法で移動するのか?」


 アルバはふと思った疑問を口にした。

 しかし、ミリンダは横に首を振ると、アルバの言葉を否定する。


「いえ、使いませんよ。というか、使えないのです」

「どういうことだ?さっきは問題なく使っていたのに」

「王宮メイドは不用意な魔法の使用は禁止されていますから」

「そうなのか」

「はい。もちろん早急に何かを買って来ないといけないときなどは今みたいに魔法で移動しますが、それ以外の時はなるべく歩いていますね」

「疲れないか?」

「もう慣れました」


 ミリンダは事もなげにそう言った。


「王宮メイドはその立場上、王族と同じような気品に満ちていなければなりません。なので、不用意な魔法は控えているのです」


 アルバは感心した気持ちでミリンダを見つめていた。

 ひとえにメイドといっても、色々と守らなけらばならないことがあるみたいだ。魔法に頼って生活していれば、少しぐらい使ってもいいかと思うことだってあるだろう。しかし、それをミリンダや他のメイドは周りに出すことはなく、当たり前のようにこなしている。

 メイドとして毎日主人のことを第一に考えている証拠だろう。

 仕えている主人の品格を落とさないように、見ていないところでもメイドとしての意識を緩めないところに、素直にアルバはすごいなと思っていた。

 歩くのを楽しんでいるのかのように、ニコニコしたミリンダを連れてアルバはメイン通りを進んで行く。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


「ここは」


 アルバがある店の前で足を止めた。

 ミリンダもそれにならい、隣にぴったりと止まり、アルバの見ているお店を見る。

 店頭には、武器や防具の類が並べられており、一目で武具店なのだと分かるようになっていた。

 店内は薄暗く、店員らしき人も見えない。

 しかし、どこか見覚えのあるお店であった。

 ミリンダがそう思い自分の記憶を探っていると、答えはアルバの口から発せられた。


「前に来た武具店だな」


 アルバのその言葉にミリンダの記憶の中から一気にその時の情景が浮かんできた。

 そう、ここはアルバと初めてメイン通りに来たときに偶然寄った武具店だったのだ。

 店主であろう職人のおじさんに突然追い出されたことを思い出す。


「気になるんですか?」

「いや、まぁちょっとな」


 ミリンダは店主の態度の変わりようにあまり良い印象を受けなかったが、アルバは違ったらしく、店の前に止まってずっと店内の様子をうかがっている。

 すると、中から一人の男性が出てきた。

 黒い燕尾服に身を包んだ初老の男性だ。

 男性は、優雅な無駄のない動きで店先に出てきて、アルバとミリンダを見ると、ふいに微笑んだ。


「おや。お久しぶりですアルバ様」


 男性は優しい笑みをたたえた顔で、アルバに頭を下げた。

 アルバも驚いた様子は見られない。

 

「そうだなセイブル」

「名前を憶えてくださっているとは嬉しい限りです」


 武具店から出てきた男性は、ライラの専属執事のセイブルだったのだ。

 会った時と同じ燕尾服を着ていたのですぐに分かった。

 というか、アルバの知り合いでこんな服を来た人など、セイブルしか思い当たらない。


「セ、セイブルさん。お久しぶりです」


 ミリンダが少し緊張した面持ちで、前に出ると、セイブルにお辞儀をした。


「ミリンダですか。久しぶりです。どうですか?初めての専属メイドは」

「は、はい!とても優しく、えっとその……毎日楽しいです」

「そうですか。よかったですね」


 セイブルは硬くなっているミリンダに対して、対照的に柔らかな声で返した。

 セイブルと対面すると、ミリンダはいつもの様なメイドとして余裕がなくなってしまうらしい。

 まるで、先生を前にした生徒のようだとアルバは思っていた。

 しかし、アルバの思っていることはあながち間違っていない。ミリンダが王宮メイドのなり立ての時、同じライラに仕える者として、セイブルにメイドとしての立ち振る舞いを教わっていたのだ。

 そのせいで、ミリンダはセイブルを前にすると、つい緊張してしまうというわけである。


「セイブルさんが街にいるなんて珍しいですね」


 ミリンダは未だ緊張したままだが、セイブルにそんなことを聞いた。


「ライラ様のお食事のための食材を買っていたところですから。ついでに、私の友人がやっているお店に顔を出していたわけですよ」

「あの店主と知り合いなのか」

「はい。昔からの友人です」

「し、知りませんでした」


 ミリンダが緊張で固まった身体を何とか動かして、店内を見つめる。

 しかし、店内は薄暗いだけで何も見えない。


「え、えっと……」


 何かを話さなければとでも思っているのか、ミリンダが口を開閉しながら、言葉を探している。

 そんなミリンダにセイブルは一瞬だけその微笑みを消し、真剣な表情で見つめた。

 

「ミリンダ」

「は、はい!」


 セイブルは少し声のトーンを低めて、ミリンダを自分に向かせる。


「緊張してはいけません」

「で、でも……」

「メイドがそのような態度をとってしまえば、主人であるアルバ様がなめられてしまいますよ」

「―――」


 すると、ミリンダはハッとしたように目を見開いた。

 そしてゆっくりとアルバを見る。

 その瞳にどんな感情が込められているかは分からないが、アルバは何も言わずただじっとミリンダの目を見つめ返した。

 ミリンダの大きな黒目にはアルバの姿が逆反射していた。

 そんなミリンダの様子を見ると、セイブルはいつもの様な微笑みに戻し、柔らかい声でミリンダに語り掛ける。


「今、貴方が仕えているのはライラ様ではなくアルバ様なんです。アルバ様の専属メイドはミリンダしかいないのですよ。胸を張りなさい」

「……分かりました」


 ミリンダはセイブルの言葉を受け、緊張で縮こまった身体をしっかりと伸ばした。

 流石はセイブルである。

 一言で、ミリンダの緊張を解いてしまった。


「それでいいのです」


 セイブルが満足そうに微笑む。

 それは、先生というよりも自分の子供の成長を喜ぶ親のようでもあった。

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