アルバ vs アリス
「なぜあなたが」
アルバがアリスの前までやってくると、アリスはアルバに対して言葉を向けてきた。
今まで訓練に集中していたせいで、アルバの存在には気が付いていなかったようだ。
アルバに向ける顔には、驚きに表情が垣間見える。
「説明してくれますか?」
その声にはきつい圧が込められていた。
さっきまで、自警団のメンバーに投げかけていた時の優しさは一切ない。
アルバは冷静にアリスに返す。
「敵の偵察をするのは当たり前だろ?」
本当の理由など言えるわけもなく、アルバはそう言う。
目の端で他のメンバーの様子をみるが、皆が皆アルバに対していい感情は見せていない。しっかりとアルバを敵として認識しているのはとてもいいことだ。
そして、その中にいるリーリンは、顔を背けて、じっと地面を見ていた。
すぐに、アルバはアリスに向き直る。
見過ぎれば不信がられてしまいかねない。
「それもそうですね。負けを認めるなら早い方がいいですしね」
アリスはそう言うと、挑戦的な目をアルバに向ける。
「すぐに学園から出ていくと言えば、私達はこんなことしなくて済むのですから」
「悪いがそれはできないな」
「あら、なぜですか?聞きましたよ。あなた、ライラ理事長に無理矢理連れて来られたみたいじゃないですか。王都にいてもいいことはありません。すぐにグリードの帰って、今までの生活に戻ってはどうです」
アリスは沸々沸き起こる感情を抑えながら言ってくる。
どこで聞いてきたのか分からないが、アルバが連れて来られた経緯まで知ってた。
それを見越して、アリスはアルバに提案してくる。
「それは確かにな」
「でしょう」
「だが、悪いな。俺はグリードには帰らないし、学園から出るつもりもない」
アルバはすぐにアリスの言葉に否定を返した。
アルバにだって理由があるのだ。
はいそうですかと帰れていれば、今すぐにでも王都から出ていきたい。
「それに、負ける気もしないしな」
自警団の面々を見渡す。
そしてアルバは、アリスがしたのと同じように挑戦的な目でアリスを見た。
「ずいぶんと余裕そうですね。レオナルドに勝ったからといって、あまり調子に乗らないことです」
「王女様だって俺に負けるなんて思ってもいないくせに」
「当たり前です。ヴァニタスになど勝って当然ですから」
アリスは自分の言っていることを疑う様子もない。
そう思っているなら、なぜアリスは一人で残って訓練しているのか。
なぜ、焦ったようにしているのかが気にかかる。
アルバはここで、一つアリスに対してあることを投げかけてみることにした。
アリスと対峙する機会は少ないから、このチャンスを生かさなくてはいけないという思いで。
「だったら試してみるか」
そう言ってアルバは腰の刀を抜いて刀身をアリスに向ける。
この機会にアルバはアリスの実力がどの程度なのか確かめてみるつもりでいたのだ。守ろうにも、アルバはアリスの事を知らなすぎるからだ。
すぐに、アリス以外の四名の生徒が臨戦態勢になった。
そんな生徒の様子を見て、アルバは感心したように見ている。学園の生徒にしては戦闘準備が早い。よく訓練させている。
「……」
アリスはアルバを黙って見ている。
アルバの真意を探るためか、ジッと見ていたがやがてアリスはアルバの提案に応じるように腰に据えた剣を抜く。
周りの生徒はそれを見て、すぐに臨戦態勢を解いた。
「いいでしょう」
アリスはそう言い、四名の生徒に目配せすると、互いに頷き合う。
四名の生徒がアリスから離れると、見守っていた自警団に声をかけ、屋内訓練場の端に連れていく。
アルバもミリンダに視線をやり、ミリンダは後ろに下がる。
自警団の方を見ると、リーリンと目が合った。リーリンはすぐに視線を外す。その表情は複雑なものだった。
「後悔させてあげます」
アリスは自分の剣の切っ先をアルバに向ける。
「行きます!」
アリスの声で決闘の始まりが告げられる。
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「炎よ、剣に宿れ」
アリスは小さな声でそう言うと、周りの空気に熱がこもり、辺りが赤く色づき始める。
すると、どこからともなくアリスの剣に炎が集めってきた。
数秒後、アリスの剣は炎に包まれている。
「この炎はどんな鋼鉄だろうと溶かしつくしてしまいます。刀の扱いには気をつけることですね!」
アリスが一度剣を振り構えなおす。
剣の軌道に炎が遅れて着いて行く。
「そりゃあどうも。ずいぶんと親切な王女様だな」
アルバはそう言うと、アリスの忠告も無視するように刀をアリスに振るう。
「あなた、私の言葉聞いていなかったのですかっ」
アリスは自分に向かってくる刀を、炎をまとった剣で迎え撃つ。
カン―――
剣と刀のぶつかる音が響き渡る。
刀の刀身はしっかりと炎の向こうにある、アリスの剣を捉えていた。
アルバの刀には変化はない。
アルバは休む暇なく、刀をアリスに振るい続ける。
お互いその場から動くことなく、剣と刀がぶつかる甲高い音と小さな火花が飛び散る光景が、屋内訓練場には流れていた。
「炎の力が弱い―――」
アリスが何かを呟くと、剣に纏う炎がさらに濃くなったように思える。
剣から感じる炎の熱さが増したのを、アルバは肌で実感するも、刀を振るのをやめない。
アルバの刀を捌きながらも、アリスはさらに炎の威力を増していく。
「なぜです。なぜあなたの刀は無傷なのですか」
アリスはアルバに向かってそう言う。
いくらアリスの炎を纏った剣に触れようと、アルバの刀に変化はなかった。
「こっちはこれだけなんだ。魔法で溶ける柔い武器を使うと思うなよ」
アルバはアリスの言葉に答えるように言うと、今度は思いっきり刀を振り下ろす。
アリスは剣で受ける。だが、思っていたよりも力が強かったようで、その顔を若干しかめる。
「おかしなぐらいの力ですわね」
何とかアルバの一撃を止めたアリスが、額に汗をかきながらそう言った。
「よく受け止めたな」
「その言葉嬉しくないですね」
「褒めたのにか?」
アルバとアリスは体勢そのままに会話をしている。炎が二人の顔をオレンジ色に照らす。
一瞬静まり返ったところに、二人の声はクリアに響き渡っていた。
会話はミリンダや、他の生徒のところまで聞こえて来る。
「あなた、一瞬ですが力を緩めましたね」
「よく分かったな」
アルバはアリスを感心したように見た。
あの瞬間、アルバは一撃を加えようとする刀の力を、わざと緩めていたのだ。初めは思いっきり振ろうと考えたアルバだったが、アリスが受け止められないのかと思い、本気の力を刀には加えなかった。それがアリスにばれないように流れの途中で力を抜いたのだが、アリスはそれをよく見ていたようだ。
「私をなめないでいただけますか」
アリスはアルバの刀を弾き返すと、アルバとの距離を開けた。
「本気できなさい。それが、決闘の礼儀というものです」
アリスは真面目にそうアルバに言ってきた。
訓練とはいえ剣を交わすのであれば、本気で挑まなければならない。
それが、王都での常識であり守らなければならない騎士の誇りでもあった。
アリスは、王都国民として、そして王族としてそれを破ることは許せなかったのだ。
手加減したアルバにアリスは鋭い視線を向けて来る。
数日前のレオナルドとは違い、真面目に決闘に向かうアリスを見て、すぐにアルバは刀をアリスに向けて突き出した。
「分かった。もう手加減はしないと約束しよう」
「そう言っていただけて嬉しい限りです。ですので!」
アリスの目が大きく見開かれる。
すると、アリスの剣に纏っていた炎が徐々に、剣から溢れ出てきて、アリスの周りを取り囲むように広がっていく。
「私も容赦なくいかせていただきます!!」
アリスがそう言うと、アルバのもとに今までにないぐらいの熱風が吹いてくる。
気づけば、アリスの周りには剣から流れ出る炎によって赤くなっていた。
まるで炎が生き物の様に、アリスの身体近くをグルグルと回り、主人を守るかのようにしているみたいだ。




