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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~王女編~
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アルバの思い

「ずいぶんと長い間お話しされていましたね」


 アルバがリーリンのベットから離れてミリンダとトーイのところまで歩いて来ると、ミリンダが唐突にそう言ってきた。


「まぁな」

「何かありましたか?」


 アルバがあまり良い表情を見せなかったことに、ミリンダが心配して顔を覗き込む。


「リーリンちゃんですか……何か言われたとか……」


 アルバの専属メイドのミリンダにとっては、学園の生徒よりもアルバが大事である。

 リーリンには悪いとは思いつつも、アルバの表情を見ると、リーリンに原因があるんじゃないかと思ってしまう。

 布に仕切られた向こう側を見るように、リーリンにミリンダは視線を向ける。


「リーリンは関係ない。問題なさそうで安心したぐらいだからな」

「そうですか。ごめんなさい」


 ミリンダは自分の態度を反省して、アルバに謝る。


「気にするな」


 アルバもミリンダの気持ちを分かっているからこそ、軽くミリンダの謝罪にそう答えるだけですませた。


「それよりも、リーリンから少し気がかりなことを聞いてな」

「それは」


 コーンコーン―――


 ミリンダが何かを言おうとしたところで、鐘がなる。

 今日の終わりを告げる鐘で、それを目安に生徒の皆は勉強や訓練を終わらせ、食堂や寮へと戻っていく。


「とにかく寮に戻ろう」

「そうですね」


 アルバはミリンダのそう言うと、二人して医務室から出ていこうとする。

 すると、アルバはくるっと振り返り、未だに椅子に座ったままのトーイに向かう。

 アルバの視線に気づくと、トーイはベットの方も向いて口を開く。


「僕はまだ残ります。リーリンが目を覚ますまではいないといけないので」


 トーイはそう言って微笑んだ。

 あの鐘が鳴ったところで、絶対に学園から出ていかなければならないわけじゃない。

 先生達だって、他の仕事があるのか、残って何やら作業している人達もいるのだ。鐘の音を目安にしているだけで、学園から寮までは繋がっている。もし扉が閉じられても、学園にいる人達の魔力の波長は全て、扉の魔道具に記録されているために、開け閉めの心配はいらない。

 残ると言ったトーイに一度手を上げてから、アルバはミリンダを連れて医務室を後にした。


 

「気になることっていうのは?」


 医務室から出て廊下を歩いていると、ミリンダが先ほどの会話の続きを聞いてきた。


「リーリンから自警団の現状を聞いてな」

「リーリンちゃん、メンバーだったんですね」

「ああ」

「自警団に何かあったのです?」

「いや、話を聞く限りでは自警団自体に問題はない。俺を学園から追い出すと言う目的のために、日々訓練に励んでいるそうだ。団結力っていうのか?それも問題ないようだ」

「あははは……」


 アルバの話し方が自分の事ではないように淡々としたものだったために、ミリンダは何を言っていいのか分からなくなる。

 

「自警団に問題はない。問題がありそうなのは、アリスの方みたいなんだ」

「アリス様?」

「ああ。リーリンが言うには、どこか焦っているように見えるらしい。モンスターに対しての実践訓練を、周りの反対を押し切り始めようとしているともリーリンは言っていた」

「あの真面目なアリス様に限って、そんなことするでしょうか……?」


 ミリンダはそう言って信じられないような顔をした。

 真面目で妥協を許さないアリスだが、それは自分に対してであり、周りにそれを強要するような性格ではない。

 ミリンダはそんなアリスの性格を知っているために、自警団を危険にさらすモンスターとの訓練を、強行してまでしようというアルバの発言を簡単に信じることができなかった。


「分からん。ただ、リーリンはアリスと他の先輩生徒の話を聞いてしまったみたいで、そこではアリスはモンスターとの戦闘は早過ぎると止める他の生徒に対して声を荒げていたという」

「……」


 アルバの発言にミリンダは押し黙ったまま、何か考えているようだ。

 アルバを初めて見た時に見せた、あの表情。アリスがあんな表情をするとは、ミリンダは思ってもみなかった。ヴァニタスが好きではないことは、どこかで聞いていたが、まさかあそこまで毛嫌いするなんてミリンダは驚いていたのだ。

 だけど、だからこそ、少しミリンダも心配になって来る。アルバを追い出すために、理事長室に来てまで宣言をしたことにアリスのアルバに対する嫌悪感というものが本物だということは、嫌でも分かっていた。


「ミリンダ」


 黙ったままのミリンダにアルバは唐突に口を開く。

 ミリンダは一度思考を止め、アルバを見ると、アルバは前を向いて歩くのをやめている。

 ミリンダもアルバにならい前を見ると、ちょうど屋内訓練場が見えていた。

 続々と、訓練場から生徒達が出てきている。

 皆、自警団のメンバーだというのはその顔をみれば、よく分かった。


「訓練、終わったみたいですね」

「だな」


 皆、疲れた表情の中にも、どこか楽しそうな顔をして、アルバ達が来た方とは反対の方に歩いて行った。

 しかし、アルバが気にかかったのは、その中にリーダーともいえるアリスの姿がなかったということだ。

 そして、屋内訓練場の中の光はまだ灯ったままである。

 アルバは生徒が歩いていなくなったのを確認してから、歩を進めた。

 足が向かう先は、屋内訓練場の方だ。

 ミリンダの扉を開けてもらう。

 すると、中から音が聞こえて来る。


「アリス様」


 ミリンダが中を見た途端、そう呟いた。

 中にいたのはアリス一人だけだったのだ。

 アリスは自分の武器だろうか、細い剣を突くように何度も振り、時々魔法も混ぜながら一心不乱に身体を動かし続けている。

 集中しているようで、アルバ達の存在に気づく様子はない。

 アリスからは必死さのようなものが見て取れる。


「やっぱり、焦っているんでしょうか」


 ミリンダもアルバと同じように、アリスの雰囲気を察したようにそう言う。


「かもしれないな」


 アルバはアリスを見る視線を鋭くしながらそう答える。

 他の生徒の訓練を指導した後に、自分を追い込むように一人で残って訓練をしているのは、簡単にできることでもない。

 単純に他の生徒よりも多い量の訓練をして、しかも、周りに気づかれないようにいつも通りに振る舞っている。

 真面目で妥協しないアリスの姿がそこにはあった。そんな姿を知っているからこそ、サマリーは娘を心配してアルバに頼んだのだろう。

 

 ビュウゥゥゥ


 すると、アリスの魔法か、屋内訓練場に風が巻き起こる。

 風は思っているよりも強く、ミリンダは髪を抑えるようにし、片目を閉じた。

 それでも、アリスは止まる様子もなく、動き続けている。

 アルバは、そっと屋内訓練場の扉を閉めた。


「これで、一つだけ決まったな」

「なんですか?」


 アルバは屋内訓練場から離れながら、ミリンダに向けて呟く。

 その表情は何かを決意したような顔だった。


「これからは毎日のように屋内訓練場を見に行く。あの様子のアリスを放っておくわけにもいかない」

「そうですね」

「アリスや自警団が何か行動を起こすなら、俺が行く。サマリーの頼み事、仕方ないがこれからは重点的に意識しようと思う」

「はい!」


 アルバの態度に、ミリンダはどこか嬉しそうにそう返事をした。

 アルバは自分の意思で、アリスと自警団に関わっていくこと決めたのだ。

 守り人として、アリス含め学園の生徒である自警団の行く先を見届けるために。

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