医務室へ
コーンコーン―――
授業の終わりを告げる鐘が、学園内に響く。
外は夕焼けでオレンジに染まり、太陽が沈んでいっている。
今日の授業はこれで終了となった。
生徒が徐々に授業部屋から出てきて、どこかに向かって歩き出す。
アルバとミリンダも生徒の移動が落ち着くまでは守り人の仕事で学園内を見回っている。
しばらくして、生徒も寮に戻ったり、食堂に行ったりと学園内が静かになってきたので、アルバは守り人としての仕事の最後に、屋内訓練場に向かっていた。
アリスの自警団の様子を見るためだ。
毎日のように訓練しているわけなのかは分からないが、今のところアルバが見に行く日は必ずと言っていいほど、屋内訓練場には自警団がいた。
アルバはいつもの様に、屋内訓練場の扉をミリンダに開けてもらう。
すると、中には数名の生徒がいた。
もちろん皆アリスの自警団のメンバーだ。
何やら今は、魔法を撃っているわけではなく、メンバーの前に立ったアリスの話を聞いている。
アルバはアリスに一度目を向けると、すぐにその視線は他のメンバーへと移っていた。
屋内訓練場で訓練しているうちは、学園内だから何も問題はないだろう。完全に外と隔離しているため、中で何をしても外には一切漏れることはないが、真面目なアリスが変なことをするとは到底思えない。
そう思ったアルバはすぐに、他のことを確認するために視線をアリスから外した。
アルバが他のメンバーがいるところを見て、視線を動かしながら、誰かを探すようにしている。
というのも、リーリンのことが気になっていたのだ。
実践訓練でロイボアの攻撃を受けた後に、自警団の訓練に参加しているのか確認したかった。
もし、参加しているのであれば、少しだけ訓練の様子を見て行こうと思っていたのだ。
しかし、アルバがいくら目を凝らしてもリーリンの姿は見当たらなかった。
背が低いリーリンは他の生徒に隠れてしまっていると思ってよく見るも、やはりリーリンの姿はない。
アルバがそれを確認すると、ミリンダに一言いい、屋内訓練場から離れる。
「どこに行かれるのですか?」
いつもは、屋内訓練場を見に行った後、すぐに自分の部屋に戻るのだが、今日は違う方向に歩いて行こうとするアルバにミリンダが聞いて来る。
「医務室にちょっとな」
アルバはそう言ってミリンダの問いに返した。
リーリンが自警団の訓練にいなかったということは、医務室に行っているのかと思ったからだ。
自警団の訓練への参加が、どういうふうになっているかは分からないが、あの大人しそうなリーリンの性格からして、自分から参加しないとは言えない気がする。
だからこそ、何かあったのではと思って、医務室に向かっているというわけだ。
アルバは一階を歩き、フトゥールム学園に初めて来た時以来に、医務室の前に立った。
そのまま医務室の扉を開ける。
生徒の出入りが多い学園内の扉には魔道具があまり使われていない。
使われている主な場所といえば、屋内訓練場と学園の出入り口。あとは、所々の小さな扉ぐらいだ。
学園の出入り口は夜以外は常に解放されているため、扉の魔道具使われていると言えば、屋内訓練場の一つだけとなる。
アルバが躊躇なく医務室の扉を開けると、中にはトーイがいて、椅子に座ってこちらを見ていた。
「アルバ君」
アルバの登場に驚いたように声を上げる。
アルバはトーイに迎えられると、ミリンダと共に中に入り、扉を閉めた。
「怪我でもされましたか」
アルバと、そして、ミリンダの全身を見てそう言う。
しかし、怪我が見えないとトーイは首をかしげる。
「リーリンって生徒が来なかったか?魔闘科の一年生で、髪を後ろで二つに結んだ」
ギシ―――
アルバがトーイに話しかけていると、医務室のベットから音が聞こえてきた。
アルバとミリンダ、トーイの視線が音のした方へと向けられる。
どうやら、今誰かが医務室のベットで休んでいるらしい。
数あるベットの中でも奥のベットが布で仕切られている。
「すまない。誰かいたんだな」
アルバが声を少し落として、トーイに話しかける。
「いえ、大丈夫ですよ。今あそこで休んでいるのがリーリンですから」
トーイはそう言うと、ベットの方まで歩いて行き、布を捲ると中のリーリンと何やら話しているようだ。
少しの言葉を交わした後、トーイはアルバの元まで戻ってくる。
「念のため眠っていましたが、少し前に目を覚ましたようですね。アルバ君に自分の名前を呼ばれて驚いたみたいです」
トーイは笑顔でそう言った。
「大丈夫なのか」
「ええ。どこにも怪我はありませんでした」
「会っても?」
アルバは一度自分の目でリーリンす姿を確かめたいと思い、トーイに聞いた。
「はい。本人もいいと言っていましたから」
「そうか」
アルバはトーイに一言そう言うと、リーリンがいるベットまで歩いて行く。
「私はここで待っていますね」
ミリンダはアルバについてこようとはしなかった。
自分がリーリンと面識がないことを気遣ってのことのように思える。
「分かった」
アルバはミリンダにそう返すと、一人ベットの前まで来た。
「リーリン、開けるぞ」
「は、はい!」
中にいるリーリンはアルバの声に慌てたように、体勢と立て直す音が聞こえて来る。
リーリンが落ち着くのを待って、アルバは覆われている布を開けた。
「ア、アルバさん」
リーリンは座った状態でアルバを見ていた。
二つに結ばれていた髪は、眠っていたためにほどかれ、綺麗な黒髪が夕日に照らされて光っている。
髪を下ろしているリーリンは、少しだけ大人びた印象に見えた。
「大丈夫だったか?」
アルバは心配したようにリーリンに声をかける。
「はい。トーイ先生に診てもらって、大丈夫だそうです」
「そうか。よかったな」
リーリンは小さい声ながらアルバと話してくれている。
実践訓練の行きの時よりも肩の力が抜けているのが分かった。
「あ、あの……何でアルバさんがここに……?」
リーリンが不思議そうにアルバに聞いて来る。
「少し気になってな」
「それって、私のことが……ですか?」
リーリンが少し自信なさそうにそう言う。
「ああ。実践訓練の後、すぐに授業を受けている姿を見たからな。医務室に寄ってないんじゃないかと思って」
アルバはそう言うと、リーリンが少しだけ笑みを見せる。
「自警団のメンバーだと言っていたから、一度屋内訓練場に寄ったんだ。訓練している自警団の中に、リーリンの姿が見えなかったから、ここにいるんじゃないかと」
「それで医務室に……?」
「まぁ、それもある。でも今日は一度は必ず医務室に寄る予定だったんだ。そのついでだ」
アルバがおざなりにそう言うと、リーリンが驚いた様子を見せた。
「やっぱり、あの時、私を助けてくれた時に怪我を……」
アルバの身体をリーリンが見てそんなことを言った。
「違うぞ。俺の身体は何も問題はない」
「だったらなんで」
「リーリンがちゃんと来たか、トーイに聞きに行くつもりだった」
「……」
アルバの言葉を聞いた途端、リーリンはアルバを見て止まっている。
「大丈夫か?」
アルバが固まったままのリーリンの顔を覗き込む。
ハッとしたように我に返ったリーリンは、アルバの顔が思いのほか近くにあったのに驚いて少しだけ身体をのけぞらせる。
「は、はい!」
リーリンが返事をすると、アルバはすぐに顔を離した。
リーリンの顔が夕焼けに染まり少し赤いように見える。




