アルバ先生……?
生徒達と連れ立ってアルバは学園の前まで来ていた。
すると、カインが何かに触れるように手を身体の前に持ってくる。
何をしているか分からないアルバだったが、しばらくすると、カインの前に仄かな光が灯り、カインが歩き出した。
それに続くようにして生徒達も学園敷地内へと歩き始める。
最後にアルバが学園の敷地内に入ると、入ってきた場所の光が消え元の何もない状態に戻った。
「結界か……?」
アルバがその様子を見ていて一つだけ思い当たることがあったので呟いた。
ライラは学園を守るために学園に結界を張っていると言っていた。
となると、あの光は結界の魔法になにかして、中に入れるようにしたぐらいしか思い当たらない。
「は、はい」
女生徒がアルバの呟きに反応するように口を開いた。
その女生徒は後ろで髪を二つに結んでいる、皆より少し身長が低い、最後にロイボアと戦った女生徒だ。
行きと同じように、生徒の一番後ろを歩いていたので、すぐ後ろにいるアルバの呟きが聞こえていたらしい。
話しかけられたのかと思い、返事をしたようだ。
「出るときはあんなことしなかったよな」
ただ呟いただけだったアルバだったが、女生徒に反応をされては、話しかけたわけじゃないとは言えず、初めから話しかけた体で、そう会話を繋げる。
女生徒は、その性格上未だにアルバに対して緊張した感じだったが、行きよりは身体の力が抜けているように見えた。
「で、出るときは自由なんです。入るときだけ……」
女生徒は小さな声でも、アルバに説明しようとしてくれた。
これまでアルバは学園から出たことがなかったため知らないかった。唯一、学園に来た時に見ていれば分かったもんだが、その時は意識を失っていために、気づいたら学園の中にいた。
「そうなのか」
「はい」
「ありがとう」
アルバは女生徒の優しさに素直にお礼を言った。
女生徒は何も言わず、アルバの顔を見て固まっている。
「ど、どうした」
そんな女生徒の様子に、アルバは何かしてしまったのかと思い、女生徒に声をかける。
「い、いえ!なんでもないです……」
女生徒は、慌てた様子でそう言うと、顔をアルバから背け前を向いてしまう。
それから女生徒はアルバの方を向くことはなかった。
カインが学園に入ってから、屋外訓練場の中心までくると、足を止める。
そうしたら、生徒も当然の様にカインの目の前に、きっちりと並び出す。
アルバはどうしようかと思ったが、カインが自分の横に来るようにとアルバを手招きしていたために、それに従うことにした。
生徒達の視線が、前に立つ二人に集まるも、アルバが初めに来た時に感じた視線は無くなっている。
実践訓練中に生徒もアルバに慣れたのか分からないが、いい傾向だった。
カインの思った通りになっている。
「初めての実践訓練、モンスターとも戦闘はどうだったかな」
カインのその言葉に、生徒達の表情はあまり良いものではなくなった。
ここまで来る時は、訓練が終わった安心感からか楽しそうにしていたのに、やはり、ロイボアを倒せなかったことは気にしているようだ。
カインもそれは分かっているらしく、皆の顔色を見ると苦笑いを浮かべた。
「あはは。まぁ、そうなる気持ちも分からなくはない」
そう言って、カインはどう言葉をかけようか考えているように、一度間を取る。
「思い出すな~僕も同じだったからね」
「先生も……?」
生徒の一人がカインの言葉に反応した。
カインはそれに頷く。
「初めてモンスターと戦った時なんて、怖くてどうしていいか分からなかったもん」
カインは生徒の気持ちを汲み取って、わざと軽い口調でそう言った。
生徒がそんなカインを黙って見ている。
「アルバ君は違いそうだけどね。王都とグリードじゃ、比較にならないもんね」
カインがアルバに向かってそう言ってきた。
まさか話を振られるとは思わなかったアルバは、少し遅れて口を開く。
「確かにそうかもな」
「グリードってそんなに厳しい国なんですか?」
生徒の一人から純粋な疑問が湧きおこる。
「正直、グリードってあまり知らないんですけど」
女生徒の一人がそんなことを言う。
王都に暮らしている以上、ヴァニタスの国とされているグリードのことはあまり知られていないようだ。
「知らないのも仕方がないかもね」
カインがそう言って苦笑した。
「ヴァニタスの国として、学園の授業でもグリードのことは教えられないんだ」
カインがアルバに向きながら、生徒達のフォローをする。
「ちょうどいいし、グリードのことを生徒達に教えてくれないかな」
「構わないが。いいのか?」
アルバは時間を気にするように学園を見ながら、カインに聞く。
「実践訓練はどんなことが起こるか分からないから、一日中、授業ということになっている。だから大丈夫だ」
「分かった」
そう言うとアルバは生徒達を見回す。
誰もが、アルバの言うことを待っているかのように黙ったままでいた。
「グリードはヴァニタスの国だ」
アルバはそう切り出し、自分のことを思い出すように話し始める。
「ヴァニタスにはギルドというものが設けられていて、ほとんどの国民がそこに属している。もちろん、俺もギルドの一員として生活していた」
「ギルドとは?」
初めて聞く単語に生徒から質問が来る。
「ギルドってのは、国が定めたモンスター討伐集団のことだ。分かりやすく例えるなら、グリードの王宮騎士だと思ってくれて問題ない」
王宮騎士という身近な単語が出てきたことで、理解がしやすくなったようで、生徒達の中には頷きながら聞くものもいた。
「これは俺が昔グリード王に聞いたことだが、グリード以外の国では、モンスターの襲撃に合わないように、国を丸々結界で覆って、モンスターを近づけないようにしているらしい」
生徒もそのことをしっているのだろう。黙ったまま頷く。
「モンスターの嗅覚は人間の数倍ある。普通に生活していたらモンスターは人間の出す美味しそうな香りにつられて、国に入ってきてしまう。グリードは結界がないために、国を大きな壁が覆っているが、モンスターの攻撃を受け続ければいずれ崩壊する可能性が出てくる。そこで、ギルドをつくって、日々周りにいるモンスターを倒す必要があるわけだ」
生徒は何も言わない。
数名はその状況を想像して、息をのんでいる。
「グリードの国民は、皆、生きるためにモンスターと戦っている。そんな国だからこそ、国民のほとんどがギルドに入る。物心つく前からモンスターと戦っている子がいたとしても珍しいことではない。俺もその一人だしな」
アルバはそう言って肩をすくめ、何でもないような顔をする。
「もちろん、何人もの子供がモンスターとの初めての戦闘で命を落としている。俺も、目の前で何人もが死んでいくのを見ていた。それでも、モンスターと戦い続けるのは、自分たちの生活を守るためだ。魔法を使えない俺達は、自分と自分の武器を信じて、戦っていくしかない。誰も自分の身を守るので必死で、守ってくれないから。強くなるしかなかったんだ。生きるために」
そう強調して、アルバは一度真剣な目で見渡すと、表情を気持ち和らげる。
「だけど、ここは王都でグリードじゃない。初めてのモンスターとの戦闘も安全が守られた状態で、戦える。だから安心して戦えばいい。自分の実力、魔法を信じれば大丈夫だ。それが出来ないなら、もっと訓練を積めばいいだけだ」
そこで言葉を切ると、最後に一言付け加える。
「モンスターとの戦闘で一番いけないのは、モンスターの恐怖心を持つこと。モンスターはそれを敏感に感じて、隙を狙って襲ってくる。いいな」
『はい!!!』
これまでで一番大きな声で、生徒達がアルバに返事を返した。
その姿はまるで先生のようだ。
「じゃあ、そろそろ終わろうか。この後、今日一日は自由にしていいから、皆思い思いに過ごしてくれ。では、解散」
カインのその言葉を皮切りに、集まっていた生徒達が散っていく。
「あーっと。リーリン!」
カインがそう叫ぶと、女生徒の一人がカインの元までやってくる。
リーリンと呼ばれた女生徒は、あの最後に戦った女生徒だった。
「な、なんでしょうか」
カインの呼ばれ少し緊張した面持ちで聞いた。
「一応、医務室によって、トーイ先生に診てもらって。いつ行くかはリーリンにまかせるから」
「分かりました」
そう言った後、リーリンは学園の中に向かって歩いて行く。
「今日はありがとう」
「いや、俺の方こそ」
カインはリーリンが去ったあと、アルバに向かってお礼を口にした。
「アルバ君がいなかったらどうなっていたことだか」
リーリンの背中を見てカインはそう呟いた。
ロイボアを止められなかったのを気にしているようだ。
「気にするな。俺の方こそ、おかげで生徒に認められたようで助かったよ」
アルバはそう言ってカインに手を差し出した。
カインはその手を握って、互いに握手を交わす。
「あの子達はまだ一年生だ。ヴァニタスへの差別意識も強くない子が多い。アルバ君があの子達にいい影響を与えることを期待しているよ」
そう言って微笑んだカインは、アルバとの手を離す。
「僕達も戻ろう」
カインにそう言われ、生徒達の後に、アルバとカインは共に学園の中へと入っていく。
すぐに、アルバとカインは別れ、アルバはミリンダを探すように歩き出した。




