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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~王女編~
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実践訓練Ⅴ

 アルバが安堵のため息をついているうちに、カインの拘束魔法によってロイボアの動きが完全に止まる。

 ロイボアはアルバによって突進を止められたことにより、その反動で今では勢いを失ったかのように大人しくなっていた。

 そんなロイボアの身体が、アルバと女生徒から離れていく。

 どうやらカインのよって、安全を確保するためにロイボアの身体を動かしたらしい。

 ある程度まで離したところで、女生徒の身体からも少しだけだが力が抜けていた。


「怪我はないか?」


 アルバが未だに抱えられている女生徒に声をかける。


「は、はい」


 アルバの声に女生徒は戸惑ったようにそう返した。

 しかし、アルバは冷静そうな顔とは裏腹に、心の中では驚いていたのだ。

 ロイボアの決死の攻撃は確実に女生徒の意表をついていた。その証拠に、ロイボアのその攻撃にアルバもカインも咄嗟に反応できなかったのだ。

 攻撃は女生徒に直撃した。

 いくら魔法で攻撃を防いだとしても、その衝撃で女生徒の身体が宙に浮かんだのは、どれほどの衝撃だったか物語っている。

 そんな中でも、女生徒の身体に目立った怪我がないのだ。

 その魔法が強かったのかどうかはアルバには分からないが、奇跡だと言えるかもしれないとだけ思えた。

 ロイボアを怖がり、今まで魔法の一つも発動できていなかった女生徒が、その瞬間だけ魔法が使えたのだから。


「大丈夫かい!」


 カインが慌てたようにアルバと女生徒のところまで走ってくる。

 

「ああ。なんとかな」


 カインが近くに来たところでアルバが口を開いた。

 カインも一度女生徒の身体を見てると、安心したように胸をなでおろす。


「ごめんなさい。カイン先生」


 女生徒は申し訳なさそうにカインに謝った。

 目は伏せられ、自信なさげになる。


「いいんだ。それよりも、よくあの攻撃を防いだね」


 カインはそう言うと、不安がっている女生徒に優しく笑いかける。


「自分でもよく分からないんです……とにかく守らなきゃって思ってたら勝手に……」


 女生徒は片手にしっかりと握られているステッキを見つめそう呟いた。

 女生徒自身に、魔法を使った認識がなかったみたいだ。自分の命が危ないと思って脳が勝手に体を動かしたのだろう。

 

「私、何もできなかった……」


 女生徒はステッキを見つめたまま、誰に言うともなく小さく独り言を漏らした。

 近くにいたアルバやカインにも、女生徒の呟きが聞こえていたため、つい自信なさそうにしている女生徒に向かって勝手に反応してしまう。


「そんなことはいいんだ。あのロイボアの攻撃を魔法で防ぎ、今こうやって大きな怪我なく生きていることに意義があるんだ」

「ああ。それで十分だ。だから、上手くいかなかったなんて気にする必要はない」


 アルバとカインの言う通りだった。

 女生徒はロイボアのイレギュラーともとれる攻撃を防ぎ、ここにこうやって話すことが出来ている。

 それで十分だ。

 モンスターとの戦闘において、重要なのはうまく立ち回れたことだけじゃない。確かに、上手く立ち回れば少しの被害でモンスターを倒せる。だが、やはり一番重要なのは、生き延びたかどうかなのだ。

 女生徒はそれを成し遂げた。

 初めての戦いにしてはよくやった方だろう。


「は、はい!ありがとうございます!」


 二人の言葉で、女生徒にもそのことが伝わったようで、伏し目がちだった目を上げると、そう二人にお礼を言った。

 それを受け、カインが満足そうにうなずく。

 すると、すぐに女生徒を見ていた視線が、離れた場所にいるロイボアに向けられると、カインは少し前のことを思い出したように口を開いた。


「まさか、ロイボアに魔法を破られるとは……」


 カインは自分の手を見てそう言う。

 女生徒が打ち上げられた後、落ちてくる女生徒に突進を仕掛けようとしていたロイボアに対して、危険を察知したカインは、魔法で他の生徒の時と同様止めようとしていた。

 しかし、その魔法は興奮したロイボアのより簡単に破られてしまったのだ。

 もちろん、モンスターと何回も戦っていた経験があるカインに油断はなかった。拘束魔法の魔力は強めていたはずだったのにもかかわらず、止めることは叶わなかった。

 あまつさえ、カインは魔法が破られた反動ですぐに動くことも出来ずじまいだ。

 アルバがいなければ今頃、女生徒の命はなかったかもしれない。

 そう思うと、身体中に冷や汗がにじみ出てくる。


「ああ。ロイボアにここまで力があるとは俺も思わなかったよ」


 ロイボアはどちらかというと、初心者が戦うモンスターであるため、魔法を破るほどの力があるとは聞いたこともない。

 グリードでも、そんな情報は出回っていなかった。

 もしかしたら、魔法が使えないヴァニタス達には関係ないとして伝えられていないだけかもしれないが、カインの様子を見るにそれはないだろう。

 カインも驚いた顔を浮かべているのは確かだ。


「だが、モンスターとの戦闘っていうのはこういうもんだ。いつどう攻撃してくるか分からない。あいつらは敵と判断したモノはどうやってでも殺しに来る」

「うんそうだね」

「……」


 そんな二人の会話を女生徒は黙ったまま聞いていた。

 その表情からは、感情が読み取れない。

 何を思って聞いているのか分からないが、しかし、そんな女生徒の様子など二人には見えていないみたいだ。

 

「立てるかい?」


 すると、カインがロイボアから女生徒の方に向き直り聞いた。


「えっと……」


 カインの言葉で女生徒は確かめるように自分の身体を動かす。

 そして、手を動かしたとき、今までずっとアルバの服を握って、身体を預けっぱなしだったことに気づき、突然勢いよくアルバから離れた。


「ご、ごめんなさい!!」


 その勢いのまま、女生徒はアルバに頭を下げた。


「いや、気にするな」


 アルバは気にした風もなく首を横に振る。


「あ、あと、助けていただきありがとうございました!!」


 またもや女生徒はアルバに頭を下げた。


「い、いやだから……」


 もう一度『気にするな』といっても伝わらないと思い、アルバがたじたじになっていると、カインがその様子を見てにっこりと笑う。


「うん。その様子だと問題なさそうだね」


 カインは女生徒を見てそう言った。

 今の様子を見るに、自分で歩けているし問題なく身体を動かせている。

 問題ないのは確かだろう。


「一応、自分に治癒魔法をかけておくといいよ」

「はい。分かりました!」


 カインの言葉を受け、女生徒は自分に治癒魔法をかけた。

 女生徒の身体を治癒魔法の光が包み込む。

 少しの時間光に包まれていた女生徒の身体からは、汚れなどが消えていった。

 その間に、女生徒により鞘にしまうことが出来なかった刀を、アルバはそっと鞘に収めた。

 すると、いつも間にやら他の生徒達もカインのところまで来ていたらしく、自分の周りにいる生徒達をカインは見渡す。


「これで全員終わったね。これにて今日の実践訓練は終わりだ。何か質問はあるかな?」


 カインがそう言うと、しばらくして、一人が手を上げた。


「質問ではないのですが……」


 そう言って生徒の中から出てきたのは、最後の女生徒の前に戦った男子生徒だった。

 顔には戦っているときに着けていた眼鏡はもうない。


「なにかな?」


 カインの返答に、少しだけその男子生徒はアルバに視線をやる。


「その、アルバさんの戦いも見てみたいと思いまして」


 男子生徒がそんなことを言い出した。

 アルバはそんな展開になるなど思ってもみなかったが、しかし、生徒の大半が男子生徒の言葉に賛同するように頷いている。


「恥ずかしい話、僕達は結局ロイボアを倒せませんでした。先ほどの攻撃も反応できませんでしたので、一度見てみたいんです。アルバさんのモンスターとの戦いを」

「わ、私も見たい…です……」


 すると、男子生徒に続いて、助けた女生徒からもそんな声が聞こえてきた。

 アルバはこの状況をどうするのかカインに視線を送る。

 カインもまさかこのような展開になることを予想していなかったそうで一度考える素振りを見せるも、すぐに決断するように、生徒を見た。


「いい案だね。確かに、実際グリード出身のアルバ君のモンスターとの戦闘を見るのは、王都国民にとっては貴重なことだ。どうかなアルバ君?」


 カインはそう言ってアルバに問い返した。

 そう言われてはアルバに断る理由がない。


「いいぞ。だが、参考にならないかも知れないけどな」

「それでも構わない」


 アルバの言葉を受けるも、カインは問題ないように首を横に振り、生徒を連れアルバの戦いが見れる安全な場所まで移動した。

 それを見届けると、アルバは刀を鞘から引き抜く。

 黒い刀身をロイボアに向けると、わざと身体から思いっきり殺気を出した。

 その殺気を感じ取ったロイボアはアルバに気づいたように目を動かし、アルバを捉える。

 ロイボアもアルバと同じように殺気を漂わせて来る。

 ロイボアにも戦う気が戻ってきたのを確認すると、アルバはカインに言葉をかける。


「魔法を解いてくれ」


 アルバが短くそう言うと、カインは頷き、徐々にロイボアの身体に自由が戻ってくる。

 お互い睨みあい、相手から目を離さない。

 緊張感が辺りを包み込む。

 生徒やカインまでも息をのんでいた。


 ボアァァァ―――


 ロイボアが先に動いた。

 足で地面を蹴り、アルバに向かって突進を仕掛けてくる。

 興奮した時の余韻がまだ残っているのか、突進スピードは標準よりも早い。

 アルバはそんなロイボアの突進をじっと見ていた。

 すると、アルバは横に避けることもなく、ロイボアの突進に向かって、自分から地面を蹴り突っ込んでいった。

 生徒達からは驚いた様子を見せている。

 ロイボアの突進を避けることしか考えていなかった生徒達にとって、アルバのその行動は意外だったのだろう。じっとこの戦いを見ている。

 アルバとロイボアの距離が近づき―――そのままお互いの身体が交差する。

 少し離れた場所にお互い背を向けたまま立っている。

 黙ったまま静けさが辺りを包み込む中、アルバが刀を鞘に収めた


 ―――!!


 すると、突然ロイボアが言葉にならない悲鳴を上げて、その場に倒れこむ。

 額から背中にかけて、アルバの刀に切られた痕が走っていた。

 そしてそのままロイボアは動かなくなったのだ。

 完全にアルバの攻撃がロイボアに致命傷を与え、絶命していた。


『……』


 生徒は何も言えずに呆然とロイボアの亡骸を見ている。

 自分たちがあれだけ苦戦したロイボアをアルバが簡単に倒してしまったことに、言葉が出ないようだ。


「これでいいか」

「うん。ありがとう」


 アルバが生徒とカインの元まで戻る。


「すごい……」


 誰かの呟きが漏れ聞こえてきた。

 アルバに生徒達の視線が突き刺さる。だが、そこに嫌味な視線はなく、アルバもなにも思わず受け止める。


「まぁ、慣れればこんなもんだよ」


 生徒の視線に答えるようにアルバの口から声が漏れる。


「俺とは違って、君達には魔法があるだろ。俺よりももっと簡単に倒せるようになるはずだから、頑張ってくれ」


 アルバは生徒達にそう言ってその場を締めくくろうとする。


『はい!!!』


 生徒達から思いのほか大きな返事が返ってきたことに、少したじろぐアルバだった。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


 実践訓練が終わりをむかえ、王都に戻ろうとしたとき、カインがロイボアの亡骸に近寄る。


「何をする気だ?」


 そんなカインの行動が気になったアルバはカインに聞いてみることにした。


「ん?ああこれか。ちょっと学園に送ろうと思ってね」

「学園……?」


 アルバが首をかしげていると、カインはロイボアの亡骸に魔法をかけると、ロイボアの姿が消えた。

 そこには、アルバが付けた傷から漏れた血だけが残る。


「学園の食堂に送るんですよ。アルバ先生」


 近くにいた女生徒がからかうように言ってきた。

 どうも、この実践訓練でアルバの認識が生徒らの中で変わったらしく、距離を置くこともなく普通に話しかけられる。


「先生はやめてくれないか……」


 そんな女生徒は悪戯っぽく笑うと、そのまま友達のところに歩いて行ってしまった。


「ロイボアの肉は淡白で人気があるんだ。だから、食材として送っておいたんだよ」

「なるほど」

「きっと、今日の食堂のメニューはロイボアの料理だね」


 カインはそう言うと、生徒の前に立ち学園に戻るために歩き出す。


「ロイボアの肉、王都でも人気なんだな……」


 アルバは一番後ろで生徒達について行きながら、一人でそう呟いた。

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