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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~王女編~
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実践訓練Ⅲ

 それから、生徒が一人ずつロイボアの相手をしていった。

 魔法を主体に戦う生徒、持っている武器を駆使して戦う生徒、そして、魔法と武器の両方を巧みに扱って戦っている生徒など、皆が自分の戦いやすいスタイルで、ロイボアの相手をしている。

 初めこそロイボアの突進スピードに驚いてる様子だった生徒も、他の生徒の戦いを見ているうちに慣れてきたのか、後半に戦いを挑む生徒はロイボアの突進を難なく避けることが出来ていた。

 しかし、誰一人としてロイボアに致命傷になるほどの傷を与えられてはいない。

 何人もの生徒を相手にして、未だにロイボアの体力は有り余っているようで、生徒を睨みつけるように見つめている。

 結局、今のところロイボアに一番傷を与えられていたのは、二番目に戦ったあの女生徒のみだ。

 やはり、筋肉で厚いロイボアの身体に傷をつけるのに、皆苦戦しているようだった。


 そして、あと残りの生徒は二人となっている。

 一人は、ここまで来るのにアルバと言葉を交わした、アリスの自警団のメンバーの女生徒。

 もう一人は、アルバの姿を見てカインに質問を飛ばした男子生徒の二人だ。

 女生徒の方はどうも、引っ込み思案な性格なのか自分からロイボアと戦うとは言っていなく、ここまで残っていた。男子生徒の方は女生徒とは違い、どうやら他の生徒の戦いを多く見て、ロイボアを観察している様子だ。順番を他の生徒に譲っていたからこそ最後まで残っていた。

 男子生徒が残っている女生徒を見るも、女生徒の方は首を横に振り、男子生徒から視線をはずす。

 それを見て、男子生徒の方が前に踏み出した。


「僕の番ですね」


 すると、男子生徒はポケットから眼鏡を取り出し、顔にかけるとロイボアの前に立つ。

 手には小さな武器が握られていた。

 剣で言う柄の部分が握れるようになっていて、そこを握りながら、人差し指は何やらレバーのようなもののところに触れている。

 その武器を持ったまま手を伸ばすと、丸く細い筒状の先端が目の前に向くように作られていた。

 見たことない武器にアルバも少し興味が出てくる。どのように戦うのか楽しみだ。

 武器の具合を確かめるように、何度か武器をロイボアに向けると、カインの方を向く。


「もう大丈夫ですよ先生」


 男子生徒の言葉にカインは頷くと、ロイボアに掛かった魔法を解く。

 

 ロイボアは何度目にかなる声を上げると、他の生徒の時と同様、まっすぐに突進を繰り出す。

 男子生徒は落ち着いたようにロイボアに集中すると、突進してくるロイボアに狙いを定めるように武器を掲げた。

 男子生徒が目を細めると、レバーに触れた人差し指を引く。

 

 バンッ!―――


 レバーが手前に引かれ、唐突に破裂音が響き渡った。

 すると筒状の先端から、鋭く尖った、小さな何かが高速でロイボアの頭に吸い込まれるように当たる。

 その衝撃により、ロイボアの突進のスピードが弱まる。

 それでも止まる様子はなく、そのまま突き進んでいく。

 しかし、弱まったスピードでは男子生徒に簡単に避けられている。

 ある程度ロイボアから離れた所で、ロイボアの様子を冷静に見ていた男子生徒から声が漏れた。


「なるほど。確かに丈夫ですね」


 冷静に状況を判断した男子生徒は、またもや武器を掲げ方向転換しているロイボアにその先端を向ける。


「では、これではどうですか」


 そう言って、また何かを撃ちだす。

 今度はアルバにも撃ちだされたものを目にすることが出来た。

 高速で向かうそれは小さく渦巻いたように回転し、一直線にロイボアに向かう。

 それは赤く光っていて、最初に撃ちだされたものとは違うように思える。

 そのままロイボアの額に当たると、音を立てて爆発した。

 ロイボアの視界を煙が覆う。


「……」


 男子生徒は黙ったまま、煙の先のロイボアを見つめている。

 油断しないと言うカインのアドバイスをしっかりと守っているようで、緊張の糸を緩めることはしない。

 すると、煙が一気に晴れ、額に少しの傷を負ったロイボアが突っ込んできた。

 先ほどの攻撃により、ロイボアはスイッチが入ったかのように、突進スピードが上がっている。

 男子生徒は、ギリギリのところで、ロイボアの横に避けると、無駄のない動きで武器を向け、ロイボアの横に数発撃ちこむ。

 横からの衝撃に、ロイボアの身体がよろめいた。

 明らかに今までの生徒よりもロイボアに善戦している。

 冷戦な状況判断能力が功を奏しているようだ。

 それから、男子生徒はロイボアの突進を巧みにさばき、武器から撃ちだされるものの種類を変えながらロイボアと戦っている。

 どちらも引く様子のない戦いに、生徒が見入っている。黙ったまま戦闘を見守る。

 しかし、アルバとカインはあまり良い表情をしていない。

 確かに男子生徒は巧みにロイボアの攻撃を避けながら、自分の攻撃をしている。だが、これという決め手が欠けている。最初に放った武器の攻撃よりも、見たところ威力は増しているのだろうが、ロイボアをよろけさせるだけで、倒すまでにはまだ足りない。

 このままでは、持久戦だ。そして、モンスターとの持久戦では、人間の方に分が悪いのは、初めに戦った大剣を持った男子生徒の戦いを見て分かっているはずだ。

 男子生徒は徐々に焦ったような表情を見せ始める。

 すると、男子生徒はロイボアの突進を避けるようにして身体を動かした。

 それを追ってロイボアは方向を変え突進を繰り出す。

 そして、その突進を上に飛んで避ける。

 空中で体制を変え、武器をロイボアの背中に向けようとしたところで―――男子生徒は目を見開く。


「しまった」


 男子生徒の口から焦った声が漏れる。

 それもそのはず。一つ前に突進を避けた先、身体を動かし止まったところは、他の生徒の前だったのだ。

 今まで冷静に状況を見ていた男子生徒だったなら、自分の後ろにクラスメイトがいたことも理解できただろう。

 しかし、決め手に欠け焦っていた男子生徒は気づくことが出来なかった。

 ロイボアの突進を避け、攻撃を加えようと身体を変えたことにより初めて、自分の後ろの状況が目に入ったのだ。

 だが、気づけても空中にいる男子生徒には何もできない。

 ここで攻撃を仕掛けても、もしその攻撃がそれた場合、ロイボアの先にいるクラスメイトに当たるかもしれない。それずに、ロイボアの身体に攻撃が当たったとしても、当たった時の衝撃は近くの生徒に影響してしまう。つまり、男子生徒はロイボアに手を出すことは感嘆にはできないのだ。

 男子生徒に避けられたロイボアは、勢いそのままに、生徒の集まっている場所に突っ込んでいく。


『―――――!』


 言葉にならない悲鳴が生徒から上がる。

 戦っていた男子生徒はそのまま空中で体制を立て直すことなく、地面に身体を打ち付けた。

 地面を転がり少ししたところで、慌てて立ち上がると、自身のクラスメイトの方を見る。

 ここが草原だったおかげで男子生徒に怪我はない。

 男子生徒と共にアルバも生徒たちの方に視線を向ける。


 突っ込んでいったように見えたロイボアは、しかし、障壁に阻まれ生徒の目の前で止まっていた。

 一番前の生徒は今にも泣きだしそうに後ろに倒れている。

 そんな様子を見た男子生徒は、無事を確認するとホッとした様子で胸をなでおろした。

 もちろん、ここで男子生徒の戦いはカインによって止められる。


「お疲れさま」

 

 そう言いつつ、カインはロイボアの身体を無理矢理魔法で生徒から離すと、焦って立ったままその場にとどまっていた男子生徒の方まで歩いてくる。


「よく観察していると思うよ。ロイボアの攻撃を完全に見切っていたことは非常にいいことだ」


 カインはニコッと笑って男子生徒を見る。


「ここまでで一番いい戦いだったんじゃないかな」

「はい。ありがとうございます」


 男子生徒の方は褒められているのにもかかわらず、その声は沈んでいる。

 それもそのはずだろう。

 確かに男子生徒は良く戦っていた。これで決め手があれば、ロイボアにも勝てていただろう。

 途中まで状況判断も出来ていて、大きな問題はなかった。

 しかし、冷静でいようと思っていても、決め手に欠け戦いが長期戦になると悟ったときに焦ってしまったのがいけなかったのだ。

 最悪にも、周りを見るのを怠り、クラスメイトつまりは仲間を自分で危険にさらしてしまったのは大きい。

 一人であるならばあの戦い方で問題なかったが、いずれ多くの仲間と一緒に戦うことになるはずの王宮騎士や魔道師を目指しているのなら、それではダメなのだ。

 敵を引きつけつつ、仲間の安全の確保も今のうちに学ばないといけないこともあって、カインはロイボアが男子生徒のせいで他の生徒に突っ込むという結果になった瞬間に、戦いを止めたのだろう。

 それが分かっているからこそ、男子生徒の表情は晴れない。

 カインもそれを察してか何も言わず、男子生徒を他の生徒のところに帰した。


 男子生徒は自分のクラスメイトのところに戻ると、深く頭を下げた。

 それを見て、他の生徒たちは首を横に振り男子生徒を迎える。


「次で最後だね」


 カインの言葉に生徒の皆の視線が、最後に残った女生徒に集まる。

 身体をビクつかせると、恐る恐る生徒の中から顔を出す。

 二つに結んだ髪を揺らしながら、女生徒は重い足取りでロイボアの前に出てくる。


 ブワァァ―――


 先ほどの戦闘で興奮した様子のロイボアが、女生徒に向かって声を上げた。


「ヒッ……」


 そんなロイボアに怖がった様子で身体を縮こませると、片手で持っていたステッキを身体の前に持ってきて両手で握る。

 その両手は少しだけだが震えているように見えた。

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