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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~王女編~
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実践訓練Ⅱ

 今度は女生徒がロイボアの前に出てきた。

 手には武器の類は持っておらず、生身のままロイボアの前に立ちはだかる。

 髪は短く切られていて、その表情はどこか自信に満ちていた。勝気な性格なのが伺える表情だ。


「では、準備が出来たら言って」

「もういいですよ先生」


 カインの言葉遮るように、女生徒はそう言った。

 早く戦いたくて仕方がないようだ。

 その顔はワクワクしたように、口角が上がっている。

 ロイボアも獲物をまた見つけたことで、興奮していて、鼻息が荒い。


「分かった。じゃあ、魔法を解くね」


 カインは女生徒の言葉を受け、ロイボアを拘束している魔法を解く。

 男子生徒の時と同じように、魔法を解いた瞬間、ロイボアは女生徒の突進を仕掛けた。

 前の男子生徒との戦闘を見ていたこともあってか、女生徒はロイボアの突進を軽々と避ける。

 ロイボアは避けられたことを悟ると、すぐに止まり方向を変え、また女生徒に向かって足を動かす。

 女生徒はもちろん簡単に、身体を横にずらして避けた。


「あは。本当にまっすぐにしか進んでこないんだ」


 女生徒の口からはそんな言葉が漏れている。

 楽しそうにロイボアの攻撃を避けていると、段々とロイボアの方もストレスが溜まってきたのか突進の速度が速くなってきた。


「じゃあ、ちょっくらやりますか」


 女生徒はそう一言いうと、次はロイボアの突進を避ける様子はない。

 ロイボアの直線上に立ったまま、ロイボアに向けて手を伸ばしている。


「悪いけど、そこで止まってもらうよ!」


 女生徒は気合を入れると、前に突き出した右手に力を入れたように見える。

 すると、ロイボアの突進が急に止まった。

 足元には何やら光が漏れている。

 抵抗するように身体を激しく動かそうとするロイボアだが、しかし、女生徒の魔法によってその場から少しも動けていない。


「風よ集まれ」


 そう言うと、女生徒はあいている左手をロイボアの頭上を指すように掲げる。するとだんだんとロイボアの頭上に風が集まってくる。

 風は四本の棒状に形をとっていく。

 見る見るうちにロイボアに向いている先端部分が鋭利になる。

 常に凝縮された風が渦巻いていて、少しでも触れようなら貫かれてしまいそうだ。


「くし刺しにしろ!」


 女生徒は叫びながら左手を勢いよく下ろす。

 それに合わせたかのように、ロイボアにある頭上の風が、魔法によって動けなくなっているロイボアの身体めがけて落ちていく。


 フンギィィィ―――


 ロイボアの悲痛な叫び声があたりに響き渡る。

 ロイボアの身体には風が突き刺さり、そこから血が出ていた。

 生徒の誰もが女生徒の勝ちだと思っただろう。

 女生徒もそう思ったからこそ、油断してロイボアの拘束魔法の力を緩めてしまった。

 それをロイボアが見逃すわけはない。

 身体に傷をつけられたロイボアは怒っている。

 さっきよりも濃密な殺意を込めて女生徒の魔法を無理矢理突破しようとした。


「やばっ」


 ロイボアの気配を魔法を発動させていた右手から感じ取ったのか、女生徒が慌てたように魔法の効力を高めようと、左手で右手を支えるようにしてロイボアに伸ばす。

 だが、怒ったロイボアの力は何倍にも膨れ上がっていた。

 拘束魔法を振りほどくかのように身体を激しく振ると、ロイボアの足元にあった光が弾け飛ぶ。


「きゃ!」


 女生徒は短い声を上げると、魔法を弾け飛ばされた反動だろうか、女生徒の身体が後ろに倒れる。

 腕を後ろについて、何とか上半身まで倒れることはなかったが、しかし、そんな女生徒にロイボアの巨体が迫っていた。

 怒っているので、突進のスピードもいつもより速い。

 このままでは女生徒がロイボアの突進を正面から受けてしまう。

 アルバが刀に手をあてると、向かいにいるカインの方に目線をやった。

 だが、カインの表情に焦りの色は見えない。

 戦闘の様子を冷静に観察しているようだ。

 カインはアルバの視線に気づいたみたいで、一度アルバを見ると、笑ってみせた。


『心配いらない』


 そう言っているようで、アルバは飛び出しそうになっている身体を元に戻すと、女生徒とロイボアの両方に視線を戻した。

 ロイボアと女生徒との距離が近づく。

 女生徒の感じた衝撃は結構強かったようで、倒れた状態のまま動けていない。

 女生徒が諦めたように目を閉じた。

 そのまま女生徒にロイボアの突進が当たる―――そう思われたときだった。


 ドンッ―――


 ロイボアの身体が大きな音を立てて女生徒の数センチのところで止まった。


「……」


 女生徒が恐る恐る目を開ける。

 目の前で止まっているロイボアを見つめ、声が出ないのか口を開けているのみだ。


「そこまで」


 カインの声で女生徒は我に返ったように、ロイボアから少し距離を取り、立ち上がった。


「ありがとうございました……」


 女生徒は一度カインに頭を下げると、ロイボアに視線をやる。


 止められたロイボアは戦い足りないのか暴れ出しそうな様子だ。

 女生徒が付けた傷からは、未だに血が流れている。ロイボアの背中に付いた傷をよくみると、傷は思ったよりも浅いようだった。

 結構な威力をほこった風の魔法だとしても、ロイボアの筋肉に包まれた身体を貫くのには至らなかったというわけだ。

 先ほど戦った女生徒も、他の生徒と一緒にカインの魔法で動きを止められたロイボアを観察している。

 ロイボアにとって、この程度の傷は気にも留めないほどだろう。

 女生徒の魔法はロイボアの怒りを湧き起こしたに過ぎない。


「あれでまだダメなんだ。結構魔力を込めたつもりだったのに……」


 そんなロイボアの姿を見て、先ほどの女生徒が呟いた。

 カインがロイボアの前まで歩いて行くと、女生徒のつけた傷を見る。

 すると、カインはおもむろにロイボアの身体に魔法をかけた。ロイボアが光に包まれる。

 背中に付けられた傷が徐々に塞がっていく。

 どうやら治癒魔法をかけているようだ。


「確かに拘束魔法でロイボアの動きを止めたまではよかった」


 ロイボアに治癒魔法をかけながら、カインはそう言った。

 他の生徒にも聞こえるようにその声は大きい。


「だが、風魔法をロイボアに当てたことで満足して、ロイボアの傷の具合も確認せずに、拘束魔法への集中を弱めてしまったのが一番いけない」


 ロイボアの周りを歩き、ロイボアの調子を確かめながら女生徒のアドバイスを飛ばしている。


「モンスターとの戦闘において大切なのは、常に冷静であり、油断をしてはいけないこと。もし、これが実際の戦闘だとしたら、あの一撃で死んでいたよ」


 カインのその言葉につばを飲み込む女生徒。


「よし。元気になったな」


 ロイボアは元の状態まで戻っていた。

 戦う態勢のままカインや生徒、アルバに鋭い視線を送っている。


「カイン先生!助かりました」


 女生徒がカインに向かって頭を下げる。


「いいよ。君達はまだ生徒なんだ。そして、これは授業なんだからどんどんミスをして学んでいけばいい。君達の命は僕が」

 

 そこで言葉を切りアルバの方を一度見た。


「いや、今日は僕達二人が守るから」


 アルバも頭数に含めてカインが笑顔で生徒全員を見渡してそう言う。


「はい!ありがとうございました!」


 女生徒はそう言いもう一度頭を下げると、他の生徒のところまで歩いて戻っていった。

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