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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~王女編~
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頼まれごと

「頼み事?」


 帰り際のアルバに話しかけてきた男性教師はそんなことを言った。

 ライラは冗談で『雑用も』と言っていたことが頭の中に蘇ってくる。

 荷物運びや掃除……果たして、目の前の教師は何をお願いしたいと言うのか。


「そうなんだ。アルバ君はグリード出身らしいじゃないか」

「ああ」

「じゃあ、モンスターの相手はお手の物だろう?」

「まぁ、ギルドに入っていたからな」

「そうか!だったら、なおのことお願いしたい」


 アルバがグリードのギルドに入っていたことを言うと、男性教師は顔を晴れやかにして、アルバに視線を送る。


「あの……それで、アルバ様に何を?」


 晴れやかな顔のまま続きを言わない男性に向かって、ミリンダがそう聞いた。


「ああ……悪い。つい安心してしまって」


 男性はそう言ってにこやかに笑った。

 笑うと、どこか幼く見える。それが、鍛えられた身体とのギャップを感じさせる。

 人が好さそうな印象を与える顔でもあった。


「実は、三日後に、僕の指導している魔闘科一年生の実践訓練が開かれるんだ」

「てことは……」

「そう。実際に国の外に出て、モンスターとの戦闘をしてもらう」


 魔闘科に所属している以上、実践訓練は避けては通れないことだ。

 王宮騎士や魔道師になるためにも、早いうちのモンスターとの戦闘に慣れさせないといけない。


「大丈夫なのか?」


 アルバは心配になってそう聞いた。

 いくら授業で訓練をしていたところで、実際モンスターを目の前にして、モンスターの放つ容赦ない殺気を感じれば、怖気づいてしまうかもしれない。

 そうなったら、モンスターは見逃してくれないだろう。

 本能のままに襲ってくることは目に見えている。

 下手するとちょっとした怪我では済まなくなってしまう可能性だってあるのだ。


「そこは大丈夫さ。僕がしっかりと生徒たちを守るし、モンスターといっても、実際の群れに向かって戦いを挑むわけじゃない」

「どうするんだ」


 モンスターは力の強いもの以外は、大体が群れで生息している。

 一匹いたら、周りにたくさんいることは明白。だからこそ、モンスター討伐は、たとえどれだけ弱いモンスターでも、慣れないうちは一人ではいかないようになっているのだ。

 本人の実力が桁違いであるなら、別だが。

 だからこそ、今男性が言った『群れに向かっていかない』という発言が、アルバにはよく分からなかった。


「魔法を使うんだよ。分かりやすく言うとモンスターを一体だけ、生徒たちの前に召喚するのさ」


 男性は簡単にそんなことを言う。

 モンスターを召喚できるとは、やはり魔法は何でもありだなと思ってしまうアルバだった。


「だが、それでいいのか?」

「というと?」

「召喚魔法がどうってのは俺には分からない。だけど、それでモンスターとの戦闘に慣れさせるなんていい方法とは思えない」


 モンスターは実際に会えば群れで行動している。

 だったら、初めから厳戒態勢で、群れに向かわせた方がいいようにアルバには思えてしまう。

 それが、モンスターとの戦闘に慣れる一番早い方法だとも。


「あはは。確かに、グリードから来たアルバ君に言わせれば、僕たちのやっていることは甘すぎるように映るかもしれないね」

「別にそう言ったわけじゃないが……」

「いいんだ。実際そうだと僕も思う。だけどね」


 男性はそこで言葉を区切ると、真剣な表情になる。


「ここは学園で、僕たちには生徒を守る必要がある。生徒の安全を確保しつつ、王宮騎士や魔道師になりたいと言う、魔闘科を希望した生徒の夢を叶えさせるために尽力しなければならない。そのための、段階を踏んだ処置だよ」


 そう言って指をピンっと立てたかと思うと、すぐに表情を崩す。


「それに、召喚するモンスターといっても、モンスター自体は近くの森に生息している個体をそのまま持ってくるから、モンスターが安全のために弱くなっているなんてことはない」

「なら、俺からはもう何も言わないよ」


 アルバはそう言われ納得するしかなかった。

 ここはグリードではない。ましてや、今は守り人となっているために、生徒を守らねばならない立場でもある。

 そのことに早く慣れなければならないとアルバは思った。

 男性はいい意味で教師という立場をしっかりと分かっているようだ。


「あの……で、結局アルバ様には……?」


 ミリンダが話している二人を見て、苦笑いする。

 ミリンダの言葉で、アルバもすっかり忘れていたことを思い出した。

 つい、男性との会話に熱くなってしまったみたいだ。


「ああっとすまない。話しているうちに忘れてしまっていた」


 男性の方も同じようでそう言って姿勢を正す。


「アルバ君。アルバ君には三日後に開かれる実践訓練に、僕と一緒に同行してもらえないだろうか」


 男性はアルバを見つめる。


「俺は別に問題ないが」

「よかった!」


 アルバの言葉にすぐに反応した男性に、アルバは慌てた様子で口を開いた。


「ちょっと待ってくれ!」

「……?」


 アルバの慌てた様子にポカンとした様子で見てくる。


「まず、俺は学園の守り人として学園の敷地内を出るには、雇い主でもあるライラに一度聞いてみないといけない」

「そうなのか。だったら僕がライラ理事長に聞こうか?」

「いや、それはいい。自分で聞ける」

「だったらなにかな?他に気になることでもあるのか?」

「ああそうだ。どうして俺を連れて行こうとする。あんたの説明を聞く限りじゃ、あんた一人でも大丈夫なように思えるんだが」


 説明通りなら、モンスターは一体のはずである。

 魔闘科の先生なら、一人いれば、もし生徒がモンスターに襲われそうになった所で対処できるはずだ。

 わざわざアルバを連れていく理由が見えない。

 魔法も使えないというのに。


「それは簡単なことだよ。初めに行ったようにアルバ君がグリード出身だから」

「理由になってないんじゃ」

「十分な理由だと思うけど。僕はアルバ君とレオナルドの決闘は見ていないから分からないが、ここにいるってことは相当実力を持っているんだろ。その強さとモンスターとの戦闘知識を生徒に教えてもらいたい」

「なるほど」


 生徒想いのいい先生であることはよくわかった。

 確かに、モンスターのことならグリード国民に聞いた方がいいと言われているのは知っている。

 ギルドのおかげで、どの国の騎士よりもモンスターとの戦闘が多い。

 モンスターの生態なら誰よりも詳しくなるのだ。

 それでも、あまりグリードに他国の騎士が来ないのは、ヴァニタスだから。王都ほどヴァニタスに対しての差別意識がないにしても、ほとんどの国の騎士がヴァニタスに教わるぐらいなら自分でっと思っているに違いない。

 そういうのを度外視して、今この人は生徒の授業のためにアルバにお願いしてきている。


「それに、もしかしたら授業の影響で、アルバ君も生徒に認められるかもしれないしね」


 そう言ってニコッと笑う。

 流石は、王宮直属の学園の先生だ。良く頭が働く。


「悪い提案じゃないだろ?」

「そうだな」


 アルバはそう言って、少し笑みを見せた。


 アルバはすぐにその場で、首からかけているネックレスの青い石に意識を集中させる。

 ライラに意識を送るように頭の中でイメージを強くするためだ。


『ライラ。聞こえるか?』


 ライラに向けてアルバはそう心の中で呟いた。

 すると、少し間をおいて、


『何かあったか』


 ライラの声がアルバの頭の中に響いてきた。

 

『ああ。少し頼まれごとをしてな』

『ほう。言ってみろ』

『どうも魔闘科の先生らしくて……名は』


 といったところでアルバは未だに目の前の男性の名前を知らないことを悟る。


「悪い。あんた名前は」


 アルバの唐突な質問に、男性は事もなげに答えてくれた。


「カイン。カイン・リグレット。主に魔闘科を担当している」


 男性―――カインは軽くアルバに挨拶をした。

 それを受け、アルバが目だけでお礼を伝えると、またライラに意識を集中させる。


『カインだ』

『そうか。となると、魔闘科の実践訓練に付き合ってくれとでも言われたか』

『よく分かったな』

『生徒の授業予定くらい把握している』

『それでいいか?学園から出ることになるが』

『構わん。その間はミリンダに学園を見回ってもらうことにする。ミリンダにはアルバから伝えてくれ』

『分かった』


 そこでライラから意識を離し、カインに向き直る。


「いいそうだ」

「そうか!なら、当日はよろしく!」


 カインはそう言うと、顔を綻ばせると、何やらこれからすぐに仕事があるようで、アルバ達から離れていった。

 それを見送ってからアルバはミリンダ話しかける。

 ミリンダはアルバとカインの会話の邪魔をしないように、話が先に進まないとき以外はずっと黙っていてくれたようだ。


「それと、ミリンダに一つライラから伝言なんだが」

「なんですか?」

「俺がカインと一緒に学園を離れている間、学園の見回りはミリンダにやってもらうとかで」

「はい。分かりました」


 アルバの申し訳ない気持ちとは裏腹に、ミリンダは何事もないように承諾してくれる。


「悪いな」

「お気になさらないでください」

 

 そう言ってミリンダがニコニコと笑う。

 笑顔のミリンダを連れ、アルバは寮の自室に向かって歩いて行った。

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