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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~王女編~
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部屋に残された三人

 アリスが他の生徒を連れ理事長室から出ていくと、部屋にはライラ、アルバ、ミリンダの三人が残っていた。

 三人の間には沈黙がおりている。

 そんな静まり返った中、ミリンダがおずおずと発言した。


「あ、あの……あんな約束して良かったんですか」


 ミリンダはライラとアルバの両方を見て、心配そうな声で言ってくる。

 それに答えたのはライラだった。

 面倒そうに身体を椅子に預けると、アリスが出ていった扉を見て口を開く。


「大丈夫だろう」


 ライラの声には真剣みがなく軽い調子で呟いた。

 そのせいかミリンダの表情は優れてはいない。


「でも、アリス様が連れていた生徒、強く魔力を発している生徒ばかりでしたよ……」


 ミリンダがそう言って、ライラと同じように閉まっている扉を見つめる。

 アルバがそんなミリンダの言葉に反応してミリンダの方に向く。


「そうなのか?」


 アルバには魔力なんて感じることが出来ないので、皆同じような生徒にしか見えなかった。


「はい。後ろに控えていた生徒数名は普通の魔力量でしたけど、アリス様の隣にいた生徒なんかは、特に魔力量が多かったですね。きっと、基礎魔力『5』か『4』の生徒ではないでしょうか」


 ミリンダがアルバに丁寧に説明してくれる。

 基礎魔力と言えば、生まれたときに測られるもので、確か『5』が最大だったように思う。

 つまりは、生まれた時から魔法の才能に恵まれた人がいたということだ。

 そんなことは知らなかったアルバは驚きの表情を見せる。


「さらには、アリス様自体、魔法の扱いには長けていますから……」

「王女様なのにか」

「はい。王女でもあり、学園の中でも一二を争う実力の持ち主ですよ。魔闘科の先生も、アリス様と一対一をしたら負けるときもあると聞きます」

「すごいな」


 王女様なのに魔法の才能もあるのか。

 高スペックすぎて想像しにくい。

 しかし、そうなってくると、本当にアルバが学園に必要なくなる可能性すら出てくる。

 そんなこと知らなかったわけでもないライラに、アルバは視線を向けた。

 アルバからの視線を感じ、ライラは身体を少し椅子から離し、アルバに向き直る。


「どうした?心配にでもなったか?」


 ライラがアルバをからかうように言う。


「心配っていうか、本当に大丈夫なんだよな」


 アルバ自身、最初から心配なんてしていないし、例え学園を追い出されたとしても、グリードに帰るだけなので問題はない。

 しかし、何故ライラがこんな余裕な表情をしているのか気になる。

 ミリンダの表情もこのままでは、元に戻らないという理由も少しあった。


「心配するな。アルバが追放されることにはならない」

「何故そう言い切れる。ミリンダ曰く、生徒は皆実力者なんだろ?」

「まぁな。顔ぶれを見る限り、アリスの集めた生徒はほとんどが魔闘科で実力を発揮している奴ばかりだった。よくもあれだけの人を集められたと感心したいほどだよ。流石は、生徒人気の高い王女様といったところか」

「でしたら、やはりアルバ様の立場が危ういのでは……」


 ライラがアリス自警団の実力を認めたことで、さらにミリンダの表情は沈んだものになってしまう。


「そんなことはない」


 それでもライラは、はっきりとミリンダの言葉を否定した。


「ライラが、自警団を認めないからか?」


 アルバがそんなことを言う。

 アリスが言った条件は、ライラに学園の守り人はいらない、自警団があるから大丈夫だと認めさせることだ。

 簡単な話、理事長のライラが首を縦に振らなければそれで終わりの話でもある。

 アリスの意見は一生叶わないだろう。

 ライラの性格を考えるとやりかねない。


「でも、それだとあまりにも……」


 優しいミリンダはアルバの言ったことに悲しい声をあげる。

 しかし、しっかりと否定しないところを見るに、アルバのメイドとして、そして、ライラのことをよく知っている身として、否定しきれないのかもしれない。最終的にはそれでもいいとまで思っているかも知れなかった。

 現に、ミリンダの表情は複雑なものへと変わっている。


「それも一つの手だが、今回はしなくてもいいだろう。それに、もしそんなことをすれば、生徒の信用もガタ落ちにだ。私としてもそれは困る。理事長室にアリスが来て、私たちの前で宣言された時点で、私は学園の代表として、公平に判断しなくてはならなくなった」

「じゃあどうするんだ」


 実力もあり、生徒からの信頼も厚いアリスが作った自警団。

 信用性から見たらアルバよりも格段に上だろう。


「確かに、アリスの作った自警団の実力は計り知れない。だからとて、あの人数をもってしても、アルバには勝てないものがある」

「勝てないもの……」


 ミリンダがライラの言葉を受け考え込む。


「そんなのあるか……?」


 アルバはろくに考えもしないで呟いた。

 自分のことなのにどこか他人事のようなアルバの態度に、誰も気にした様子は見られない。

 生徒からの信頼も厚く、実力も折り紙付き。さらには、王女様がリーダーであり、ほとんどの生徒には魔法の才能もある。

 どこをとってもアルバよりも優れている。

 ミリンダも思いつかなかったようで、何も言わずライラに視線を戻した。

 その表情は不安そうなままだ。


「戦闘経験だよ」


 二人の視線を受け、ライラがそう口を開いた。

 ミリンダは何か思い当たることがあるのか、ハッとしたような顔になる。


「どれだけ実力を持っていたとしても、どれだけ魔法を巧みに操れたとしても、戦闘経験がなければ、いざ本当に戦闘になったときに使い物にならなくなる」

「それは……そうですね」


 ミリンダはライラの言葉で納得したようだが、アルバだけがいまいちピンと来ていなかった。

 一人、首をかしげる。


「グリードでは、物心ついたときからモンスターと戦っている子もいるので、アルバ様には分かりにくいとは思いますが、実際に訓練と実践ではやはり全然違うのです」


 アルバの様子を見てミリンダがそう言ってくる。

 アルバ自身は一人でモンスターと戦うことばかりだったし、物心ついたときから刀を振っていた。

 訓練=実践だったグリードで育ったアルバにはその差は分からないのだろう。


「前に私が話した四年前の事件でも、それは顕著に出ていましたよ。結局、日頃から訓練を重ねている騎士だろうが、モンスターをあまり相手にしていないので、モンスターの放つ殺気を感じただけで腰を抜かしている人もいましたから。グリードの戦士の方が断然に心強かったです」

「なるほど」


 アルバも四年前のことを思い出していた。

 確かに魔法が使える王宮騎士の方が、圧倒的に有利なのにもかかわらず、早い段階で騎士たちの姿は見えなかったように思う。

 すると、ミリンダは今度は自嘲気味に笑う。


「私が死にかけたのもそれが原因ですから。日頃からモンスターとの戦闘に慣れていれば、自分の魔力量を見誤ることはありませんでしたので。あの場の雰囲気にのまれてしまったがためのミスです」

「確かにな」


 アルバもミリンダの言葉を否定はしなかった。

 事実なのだから、仕方がない。

 ミリンダもそう思っているからか、アルバの言葉でも表情に変化はなかった。

 苦笑いを浮かべるだけだ。


「つまりはそういうことだ」


 二人に会話を黙って聞いていたライラがそう口にした。


「いくら実力があろうと、所詮は学園の生徒だ。魔闘科には実践訓練の授業もあるが、それも先生が厳重に守っているからできることであり、本当に一人でモンスターと対峙して、授業の様に立ち回れるかは分からない。授業の成果全てが自分の実力だと思っているうちは、アルバにも、そこら辺の王宮騎士にも勝てはしないさ」


 ライラの言っていることは確かに的を得ていた。

 どれだけ実力があろうと、実践では生きるか死ぬかのどちらかしかない。逃げることも可能だが、タイミングを間違うと、さらに自分を危険にさらすことになりかねない。

 モンスターや実際に命のやり取りのさい、一番重要になってくるのは、剣の強さでもなければ、魔法の強さでもない。何事にも動じない、強い忍耐のみだ。敵の前で冷静さを失えば死ぬ。誰も守ってくれないのだから。

 アルバにも納得がいく。

 それを察してか、ライラはそこで乗り出していた身体を椅子に預け、余裕の表情になる。


「だから、何も心配するることはない。これからもいつも通りやってくれ。アリスにどんな考えがあるか分からないが、すぐになにか仕掛けてくることはないだろうしな」

「分かったよ」


 アルバは長椅子から立ち上がる。

 この時にはミリンダの表情も元に戻っていた。


「あー、あともう一つある」


 理事長室から出ていこうとするアルバとミリンダに、ライラが何やら声をかけてきた。


「なんだ?」

「アリスの件ですっかり忘れていたが、君にある人から伝言を預かっていてな」


 アルバは黙ってライラの言葉を待った。


「サマリーは知っているか?」

「サマリー……?」


 どこかで聞いたことある名前だったが、思い出せない。

 すると、ミリンダが答えた。


「アリス様のお母様であり、ダリアン様の奥様です」

「あー」


 そういえばミリンダにそんなこと言われたなと、うっすらと思い出していた。

 だが、面識にない女王様がアルバに何の用だろうか。


「そのサマリーから、昨日の夜に私に連絡があってな。『娘を頼みましたね』だそうだ」

「頼みましたって言われてもな」


 本人には嫌われているのに、どうしろというんだ。


「アリス本人も言っていたが、どうも、私のところに来る前に、一度アルバのことでダリアンに詰め寄っていたらしい。その時の様子が少し心配だと言っていてな。アリスは真面目すぎるから何をするか分からないとも」

「何となくそれは分かるが……」


 確かに、アリスの性格上、無理をしかねないところはある。だとしても簡単に言ってくれる。

 困り果てているアルバに、ライラはそっと言葉を繋げる。


「まぁ、あまり気にしなくてもいい。アリスが本当に危ないことをしていたのなら、私が止めるからな。君は君なりに、アリスを気に掛けるだけで構わないさ。そこは任せる」

「分かった。一応、頭の片隅に置いておく」

「それで十分だ。サマリーには私の方から伝えておく。戻って構わないぞ」

「はいよ」


 アルバはそう言うライラを残し、ミリンダと共に今度こそ理事長室から出ていく。




「はぁ~……」


 理事長室の扉が完全に閉まると、アルバの口からため息が漏れてしまった。


「やっぱり面倒なことになったか」


 廊下の一件以来、何かあるだろうと思ってはいたから驚きこそしなかったものの、ついため息は出てしまう。

 さらには、ライラに最後に言われたことも。

 アリスの母親、サマリーから伝言。

 アリスに敵視されているだけならよかったが、敵視されつつもアリスが危険を冒さないよう見張る必要も出てくるとは。

 難しいことこの上ない。


「あはは……そうですね」


 ミリンダからも苦笑いが漏れた。

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