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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~王女編~
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遭遇

 アルバがフトゥールム学園の守り人になり数日が経っていた。

 学園の雰囲気にも慣れてきていて、何となくだが最初に来た時に感じていた視線も、質が変わったように感じる。

 アルバはいつものように見回りも兼ねて、学園の廊下を歩いていた。

 ミリンダは相変わらずアルバの後ろについて歩いてる。

 ミリンダの立ち位置は変わらず、アルバの専属メイドとしていつもアルバの生活のサポートをしてくれていた。学園でもアルバの立場は、はっきり言って微妙なものではあるが、ミリンダの存在や、学園の先生だと言われる人たちの理解もあってか、守り人の仕事に支障はない。

 もちろん、レオナルドとの決闘で勝ったとはいえ、ヴァニタスのアルバを受け入れられない人もいる。

 時々だが生徒から受ける視線には鋭いものも混ざっていた。しかし、誰もアルバに対して直接何かしてくる様子が見られないことから、アルバもあまり気にしないようにすることにした。

 

 王都直属のフトゥールム学園は、王都でも少々中心地から離れた場所に建てられている。

 ほとんどは王都出身の生徒が多く在籍しているも、他国の貴族の子が入ってくることも珍しくはないという。一部の生徒を除いて、学園の生徒は、この学園の特異な立場上、学園の敷地内に造られた寮での生活が推奨されている。

 これは、生徒を守るためでもあるらしい。

 フトゥールム学園はさっきも言ったように多くの貴族の子供が通っている。それもあり、王宮に悪意を持った人に狙われる可能性は高い。特に、生徒が何をしているのか把握できない王都の街では、見守る人をどれだけ増やしても、安全は保障できない。

 そのため、ライラの魔法がかかった学園の敷地内で生活するようにし、いつでもその身を守っていけるような体制にしたようだ。

 しかし、それ自体強制というわけではない。

 学園の敷地外で生徒が何をしようと、学園側は責任を取らないという条件付きでだが、親が子供に家にいてほしいと希望すれば、容易にその意見は通るようになっている。

 貴族でも、自分の子供に今のうちに仕事を見せておきたい。慣れさせておきたいという親だっているだろう。そんな親側の配慮も兼ねて、強制にはしていないそうだ。

 それでも、ほとんどの生徒が、学園の寮に入っているのは、ひとえに安全が確保されているからである。

 学園にいればライラが守ってくれると言うのは、今後国を動かしていくことになるだろう大切な子供を預けるのにもってこいなのだ。

 そんな生徒たちの暮らす寮の一部屋が、アルバに与えられている。

 ヴァニタスのアルバ用に魔道具が一つもない特別仕様になっていて、この部屋で生活するうえで何も困ることがなかった。

 アルバの部屋には出入り口ともう一つドアがあり、その先がミリンダの部屋として使っている。

 というか、部屋に案内されたときにライラがそう言っていた。

 専属メイドは常に主人の傍に仕えていなければならないという理由で、わざわざ拡張したみたいだ。

 四六時中アルバと一緒だと嫌だろうとミリンダに一度聞いた事があるが、ミリンダが微笑んで「大丈夫ですよ。むしろ嬉しいです」と言われてしまった。

 こうなってはアルバに断る理由もないため、借り部屋の時と同じようなミリンダとの共同生活となっている。

 寮から学園の校舎までは歩いて数分ということもあって移動に関しても何も苦労はない。

 学園の中には食堂もあるし、部屋にもキッチンスペースはあるので、食事に困ることもなかった。


 アルバは今日も学園の見回りをしながら、生徒の授業風景を見守っていた。

 フトゥールム学園は貴族が多いことから、一般教養の他に、魔法基礎知識や経済系の授業が多いことが特徴である。

 魔法主義国家に出ていくにあたって、魔法の基礎は絶対に覚えておかなければならない。必須事項でもある。魔法の特性や種類など、王都国民が大人になるまでに覚える知識にさらに細かいところまで教えられる。

 それをライラにざっと説明されているときに、アルバに対して悪戯っぽく笑って、


「お前も授業を受けてみるか?」


 なんて言ってきたが、即答で断った。

 使えない魔法を学んでもどうするというのか。

 実際、魔法の授業を見ていても、魔力だとか魔力残滓など、アルバには感じることも出来ない単語ばかり飛び交っていて、全くわからなかった。

 知識を入れておくだけでも、何か役に立つかと思ったが、潔く諦めることにした。

 困ったことがあればミリンダに教えてももらおうということにしたのだ。


 さらに、廊下を歩いて行くと、今度は窓から、下に広がる訓練場の風景が見えてきた。

 ここは、広い面積を平らに整備されていて、運動や訓練と言った、身体を動かすための場所である。

 『訓練場』と言われているだけあって、ここでは、主に戦闘訓練が行われている。

 フトゥールム学園には、知識を学ぶ授業の他に、魔法戦闘の授業というのも存在していた。

 実際に貴族が戦場に姿を現すことはないのだが、立場上何者かに狙われる可能性も少なくない。いざっていう時のために、自分の身を守る術がなければならないということもあり、こちらも必須事項とされている。

 とはいっても、こちらは本当に基礎だけで激しい戦闘訓練は行われない。

 しかし、そんな中何故、訓練場というものがこんなにも大きく設けられているのかというのは、今現在行われている授業を見れば分かるだろう。

 先生らしき人物が、生徒と一対一をしている。

 だが、それは普通の授業とは違い実戦形式で、見たところどちらも手加減をしていない。大きな魔法を放ち派手に粉塵をあげて戦っている。

 学園の壁は特殊な魔法がかけられているため、アルバのところに音や衝撃は伝わってこないが、それでも見ているだけで戦闘の激しさは伝わっている。

 そして、煙が消えると、生徒の方が倒れ、先生は余裕な表情でその場に立っていた。

 生徒が立ち上がり、先生に向かって頭を下げると、アドバイスを聞きに先生に近づいて何やら話している。それを、違う生徒は周りで見学していた。

 これは魔法戦闘科、通称『魔闘科』と呼ばれ、その名の通り、主に魔法戦闘の授業に特化されていて、王宮騎士や魔道師などを目指す生徒が主に在籍している。

 魔闘科に入るのは個人の自由であり、希望者は誰でも特別な授業を受けることができる。

 クラスなどもそれの応じて分けられているらしく、スケジュール管理は完璧だという。

 アルバはどちらかというと、魔闘科の方が合っているのではないかと思わなくもない。


 コーンコーン―――


 アルバがそんなことを思っていると、学園に軽い鐘のような音が鳴り響く。


「もうそんな時間ですか」

「だな」


 鐘の音を合図にしたかのように、授業をしていた部屋からは先生方が出てくる。

 その後に生徒がまばらに出てくると、静まり返っていた廊下は話し声などで満たされた。

 さっきの鐘は授業の終わりの合図である。

 鐘が鳴り止むと、生徒は思い思いの時間を過ごしていた。

 ここが、アルバにとっては一番警戒しなければならない時間でもある。

 緊張感を失い、生徒も学園のいたるところに散らばるために、危険がないように意識を集中させないといけない。

 さらには、ある意味でも有名なアルバに生徒から多くの視線がくる。

 未だにアルバの存在が警戒されているのは分かるが、やはり慣れるまでには時間が必要であった。

 

 そんな廊下をアルバがミリンダを連れ歩いていると、いたるところから声が聞こえてくる。


「本当にヴァニタスなんだ」「あれがレオナルドさんに勝ったっていうのか」「未だに信じられないよな」「でも、ちょっとかっこいいかも」「確かに。思ったより若いしね」「実際、私レオナルドさんって苦手なのよね」


 様々な言葉が聞こえてくるが、すべてが悪い印象ではないことが救いだった。

 ミリンダにも聞こえているようで、何やら嬉しそうにしている。


 それから少し歩いて行くと、何やら目線の先に変な光景が広がっていた。

 そこには一人の女子生徒を先頭とした空間が出来ていて、他の生徒がその女生徒が通る道を開けている。

 颯爽と廊下の真ん中を歩く女性は、アルバと同じぐらいの身長で、長い金髪をなびかせ、優雅に歩いていた。身体にブレはなく、歩く姿からは気品を感じられるようで不思議だ。

 女性の後ろには、男女二人ずつ、合計四名の生徒が一緒になって歩いてた。

 周りの生徒の一人がその女生徒に声をかける。


「アリス様。帰って来られたのですね」


 その生徒は輝いた目でアリスと呼ばれた生徒を見ている。

 そんな様子にアリスも気を良くしたようにニコッと笑う。

 アルバは何となく、そんなアリスという生徒のその笑顔に見覚えがあるように思えた。


「ええ。私がいない間に何か困ったことはありませんでしたか?」


 ちょっとした動作でも清潔感が溢れ出てくる。


「はい。学園は変わらず平和です」

「それを聞いて安心しました」


 そう言って、話しかけた女生徒の頬に手をあてると、その女生徒は顔を真っ赤にして倒れてしまった。

 よく分からない光景にアルバは呆気に取られてその場から動けなくなる。

 すると、こちらに歩いてきたアリスは、道を開けずに留まったままのアルバに目を向けた。

 アルバの代わりにミリンダが前に出て、アリスに向かって頭を下げる。


「アリス様。ご無沙汰しております」

「……ミリンダ。久しぶりね」


 アルバの後ろか突然出てきたミリンダに、驚いた様子でアリスは少し反応が遅れるも、ミリンダの姿を認めると表情を戻した。


「王都にはいつお戻りに?」

「昨日の夜に帰ってきました」

「そうだったのですね。なのにもう学園に戻って来られるとは……お疲れではないのですか?」

「心配には及びません。王族としてこれぐらいのことは出来て当然です」


 毅然とした態度でミリンダの応じていたが、アリスはそんなミリンダよりもアルバに視線を向ける。


「そんなことよりも、さっきからミリンダの後ろにいる貴方。誰です?学園では見ない顔ですけど……」


 アルバの顔をじっくり見るようにしていると、アリスは何かに気づいたかのように、表情をきつく結ぶ。


「ていうか、貴方ヴァニタスですよね……何故……何故ヴァニタスがこの神聖なフトゥールム学園にいるのかしら!」


 アリスはアルバに指を突き付けて叫んでくる。

 女生徒やミリンダに対するときよりも、比べ物にならないぐらい口調からは丁寧さが欠けていた。

 

「私に分かるように説明してくれますわよね!」


 廊下にはアリスの怒鳴り声が響き渡る。

 周りのいる生徒は、皆お互いの顔を見合わせて何やらひそひそと話しているだけだ。

 ミリンダとアリスの後ろに控えていた四名の生徒だけが、この状況でも表情を変えていない。

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