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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~守り人就任編~
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二度目の契約

 ライラは叫ぶと同時に、アルバの身体に魔法をかけるために立ち上がっていた。

 闘技場の真ん中では、途中で動きを止められたアルバと、首筋に刀が当たりそうになっているレオナルドが立ったままである。

 すると、レオナルドが口を開く。


「お前、止める気なかっただろ」

「当たり前だ」


 お互いに睨みあいながらも、切りかかろうとはしていない。

 それを見て、ライラがアルバの身体にかけた魔法を解く。

 魔法が解かれたことにより、アルバの身体は思うように動くようになった。それを確認すると、レオナルドの首筋近くにあった刀を下ろし、鞘に納める。

 レオナルドも仰け反っていた身体を戻すと、アルバによって弾き飛ばされ、地面に突き刺さっている大剣を抜く。


「俺の負けだ。ヴァニタスだからって油断しちまったな」

「途中までは俺の方がやばかったさ」

「どうだっていい。最終的に戦場に立ってたやつが勝ちだ。本当の殺し合いなら、今頃俺の頭は地面に転がっていただろうからな」


 レオナルドとアルバは二人して、相手の強さを認め合った。

 これは実際に剣を交わったものでしかわからない感覚だろう。


「勝者、ヴァニタス『アルバ・ルーイン』」


 ライラの一言で決闘の勝敗が観客に伝わる。

 アルバの勝利を喜ぶ歓声が―――上がるわけがなかった。

 観客は動揺を隠しきれないようで、信じられないようにアルバとレオナルドを見ている。

 ほとんどの人が途中から、高速で戦う二人を見失っていただけに、いきなり戦闘が止まったと思ったら勝敗が決まっていたことに、まだ頭が追い付いていないようだ。

 

「レオナルドが負けるなんておかしいだろ!!何か不正があったはずだ!じゃなきゃ、ヴァニタスが王宮騎士に勝てるわけない!!」


 流石は王宮騎士だけある。

 未だに、ポカンとして見ているだけの生徒や貴族たちに比べ、正気に戻った一人の王宮騎士の青年が、アルバを指さしてきた。

 その青年の言葉に我に返ったかのように、会場内からは続々と不満の声が上がってくる。

 ミリンダがそんな観客の様子に、憤りを隠せないかのように両手を強く握った。

 確かに二人の戦闘は高速で、下手をしたら見失いかねないものだったのかもしれない。

 実際、戦闘経験がない学園の生徒や貴族たちには、見えていなかっただろう。そんな中からアルバに対して不満が出るのはまだ分かる。

 しかし、王宮騎士ともあろうものからそんな言葉が出ることは、容易に流せるものではない。ミリンダだって、なんとかしてアルバたちの戦闘を見ていて、二人が本当に真剣に戦っていたことが見て取れた。

 ミリンダが分かったのである。現役の王宮騎士である彼が、分からなかったわけではあるまい。

 つまりは、ヴァニタスに王宮騎士が負けたのを認めたくないだけだ。

 そこには国民の憧れである騎士の姿はどこにもない。ただ、ヴァニタスに負けたことを認めないという自分勝手な思いぐらいだ。

 それが伝わってくるからこそ、ミリンダは怒っている。

 しかし、ミリンダ以上にこの状況を気に食わない人物がそこにはいた。

 負けた本人であるレオナルドだ。

 苛立ったように持っている大剣を地面に叩きつけて、無理矢理にでも会場を静まり返らせた。


「うるせえな。俺にも勝てねぇ奴がどうこう言ってんなよ……!」


 レオナルドは不満を漏らした青年を睨みつけると、威圧するように低い声で言った。

 レオナルドの圧を真正面に受け、青年は黙ったままその場に座る。その後、誰かが何か言うことはなく、誰もが押し黙ったままだ。

 そんな状況にした張本人は、もう気にした素振りを見せずにアルバに向き直った。


「アルバだったな」

「ああ」

「次は負けねえ」


 そう言って目線をぶつけてくると、大剣を肩に担ぎ大股で闘技場から出ていく。

 その背中を見つめながらアルバは、


(次って……またやるつもりかよ……)


 二度目が当たり前にあるような口ぶりのレオナルドに対して、心の中でため息を漏らした。



 レオナルドが闘技場を去ってすぐ、静まり返った闘技場によく通る声が響いた。


「少々何やらありましたが、問題なく終わったことに、一国の王として嬉しく思います。では、私主催のこの決闘はアルバ・ルーイン君の勝利で幕を閉じます。そして」


 ダリアン王はそこで言葉を切り、ライラが前に出る。


「アルバ・ルーインを本日この時間を持って、正式に王宮直属フトゥールム学園の守り人となることを認める」


 ライラは高々とそう宣言した。


「文句のあるやつはいるか?」


 そして、観客にいる学園の生徒や関係者に視線を向ける。

 観客の中から文句が上がることはなかった。というのも、皆納得という表情ではなかったものの、レオナルドに勝ったと言う事実を目の当たりにして、否定することが出来なかったというのが正しいだろう。

 『ヴァニタス』というのはもう否定材料にならない。

 ライラにはそれで満足だった。

 

「何もないようだな。これにより決闘は終わりだ。各々帰って構わないぞ」


 そう言ってこの決闘に完全に幕を閉じた。

 ライラの言葉を受けダリアン王がこの場から離れる。それを見て、観客である王宮騎士や学園の生徒も、立ち上がり闘技場から去っていく。

 

ライラとミリンダも、移動魔法でアルバの前に現れる。

 ライラは満足そうにアルバを見つめ、ミリンダに至っては何故か泣きそうになっていた。


「アルバ。よくやった」


 ライラにしては珍しくアルバに素直な賛辞を投げかける。


「まぁ、随分と苦戦してはいたがな」

「仕方ないだろ。移動魔法使ってくるなんて思わなかったんだから」

「だが、勝ったのは事実だ。これで君との契約は完全に成立だ。これからはしっかり働いてもらうぞ」


 ライラがそう言って手を差し出してくる。


「分かったよ」


 アルバもそれに応えるように手を差し出すと、王都行きが決定したときのようにがっちりと握手を交わした。

 ミリンダもそれを穏やかな表情で見つめている。

 二人が手を離した時、今度はミリンダアルバの前に出た。

 なんとか涙は抑えていたが、今にも泣きだしてしまいそうだ。


「アルバ様!お疲れ様です!」


 涙声のミリンダはにっこりとした笑顔をアルバに向ける。


「すぐに治癒魔法をかけますね。安心してください。いざという時に控えていた王宮騎士並みに、治癒魔法には自信ありますから」

 

 アルバを安心させるために、ミリンダはわざと説明を付け足すとアルバの手を握った。

 手から魔法が発動され、アルバの身体が暖かい光に包まれる。

 身体から痛みや疲れが取れていく。


「本当に勝ったんですね……」


 いつもより長く魔法を使うミリンダは、アルバの手を見つめて小さな声でそう呟いた。


「はい。これで終わりました。どこか異常はありませんか?」

「ああ。だいじょう―――」


 アルバがミリンダに返事しようとしたが、その瞬間、緊張の糸が切れたのか、アルバの身体がよろめき、地面に向かって倒れこんでいく。

 そんなアルバを、慌てた様子で支えに入るミリンダの姿が、薄れゆく意識の中でアルバには見えていた。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


 エマは決闘が終わると、騎士の友人と一緒に闘技場を後にした。

 移動中、騎士たちの表情は複雑な色を見せていた。目の前で、あの誰にも負けない強さを誇っていたレオナルドが負けたのだ。無理もないだろう。しかも、その相手がヴァニタスだったことも、皆の表情に大きく関わっていることは考えるまでもない。

 エマの友人でさえ、いまいち決闘については語らなかった。

 そんな友人と王宮の入り口で別れると、エマは一人、家に帰るため夜の街に歩を進める。


 今日は本当に驚くことばかりだった。

 レオナルドの相手が、昨日喫茶店に来たアルバだったことや、そんなアルバが決闘に勝ってしまったことが特にエマの心には衝撃を与えた。

 あの二人の戦いはなんとか目で追うことが出来たも、アルバがあの状況から勝つなど正直予想も出来なかった。エマ自身、アルバは負けたのだと思ったのだ。

 しかし、そんなエマの気持ちをアルバは覆し、勝ってしまった。

 エマからはつい笑みが零れる。

 友人には悪いが、アルバが勝ったことに内心喜んでいた。

 王宮騎士が周りにいたこともあって、なんとか表情を殺していたのがここで溢れ出る。


「見に行ってよかったな」


 帰り道の途中、エマからそんな言葉が自然と漏れた。

 気づけば、すぐ先には『喫茶コリンズ』の看板が見えてきていた。

 エマはドアを開け、明かりの点いた喫茶店内に入る。


「あ!おかえりエマ姉ちゃん!」


 エマを迎えたのは、元気な少年である。昨日の夜に、突然家族を連れこの店に来たのだ。

 エルと名乗った少年は家族の状況をエマに話し始めた。

 それを聞き、エマはエルの真剣な想いに賛同し、こうしてエル家族に店を貸している。


「ただいま。エル」


 元気そうにこちらに笑みを見せるエルに、エマもそう返した。


「おかえりなさい。エマさん」


 次にエルの母親に微笑んだ顔で迎えられる。


「ただいま。どうですか。旦那さんの様子は」


 エマはそう言って、喫茶店の椅子に座り、出された料理を感情のない目で見つめる男性に目を向ける。


「ダメですね……」

「そうですか……」


 男性はエルの父親であり、その父親を助けるために、店の厨房を貸して母親の料理を振る舞っていたのだ。


「大丈夫だよ母ちゃん!俺がついてるもん」


 頼もしいことを言うエル。家族を想う気持ちが本当に強い子である。母親を励ますようにニッと笑う。


「それよりもさ。エマの姉ちゃん。今日の決闘はどうだったの?」


 エマが店を出るとき、エルには決闘を見に行くと言ってあった。王宮に行くと言ったとき、何か言われるかとも思ったが、エルは何も言わず見送ってくれた。


「すごかったよ~」


 エマはそう言うと、今日あったことをエルに話したのだった。

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