決闘へ
ライラに着いていき、控室から闘技場まで、アルバは歩いていく。
近づくたびに、どんどんと聞こえてくる声が大きくなる。どれだけの人数がいるのか分からないが、結構な音量でアルバたちのところまで聞こえてきていた。
ライラに連れられ、闘技場の入り口までやってくる。
ちらっと見える闘技場の上、観客席になっていた場所には、多くの人で埋め尽くされていた。
中には、王宮騎士であろう鎧をつけた人もちらほらと見えるが、多くが同じ服に身を包んだ若者である。
さらには、高そうな服を着ている大人たちもいたりした。
皆、思い思いの気持ちで決闘が始まるのを待っているようだ。
「結構人がいるな」
アルバは入り口から見えるだけだが、観客席の様子を見て呟いた。
「やっぱりレオナルドが出るからか」
「そうだと思いますよ」
ミリンダがアルバの意見を肯定した。
レオナルドは王都ではいろんな意味で有名人である。
レオナルド・バルフォルトが決闘をすると言われれば、少なくともある程度の人は興味をそそられて見に来るだろう。
態度はどうあれ、それほどにレオナルドの強さは、同じ王宮騎士達の中に憧れという形で存在する。
一目見たいと思うのは自然なことだ。
しかし今回は、そんな騎士達以上に若者の方が多い。
まだ幼さの残る顔立ちで、期待するように中央の決闘場や、所々にいる騎士に視線を送っている。
皆、黒を基調とした落ち着いた同じデザインの服に身を包んでいた。男女での違いは、ズボンかスカートかの違いぐらいで、あとはほとんど一緒だ。
あれが、きっとフトゥールム学園の生徒なのだろう。
決闘が始まるのを楽しみにしている様子が見て取れる。
「楽しそうだな」
生徒の様子を見ていたアルバの口からそうこぼれる。
決闘は見ていて楽しいものだとはアルバには思えない。言ってしまえば、一種の殺し合いと同じだ。
いくら、見世物だとしてもあんなに楽しく見るようなものでもないだろうにと思ってしまう。
「まぁ、楽しみに思っても仕方がない。生徒にとって決闘を見れるのは今日が初めてだからな」
「そうなのか」
「そうだ。基本決闘は生徒に公開されていない。今日は学園に関係あることで特別、生徒が呼ばれている。中には、将来王宮騎士になろうとしている奴もいるからな。レオナルドの戦いを見れるのはそれだけ貴重な体験ってことだ」
ライラの説明でアルバも納得する。
思ったよりも人がいることに少しやりにくさをアルバは覚えた。アルバにとって、戦いは見られるようなものじゃない。慣れないことだ。
とはいっても、ここまで来たらやるしかない。観客など気にしなければいいだけだ。決闘が始まれば、目の前の敵に立ち向かっていくだけ。
アルバはそう思うともう客席の様子など気にしないことにした。
「では、私たちは移動する。名前が呼ばれたら中央に出てこい。いいな?」
「ああ」
「頑張ってくださいね。応援しています」
最後にミリンダが笑顔を向けると、二人はライラの発動した移動魔法でその場から姿を消した。
二人が移動魔法で出た場所は、闘技場でも一番よく決闘が見られる、部屋のようになった場所だった。ライラは並んだ椅子の一番端の椅子に座り、ミリンダがその後ろにぴったりと立つ。
アルバからもそれは見えていた。
ライラが姿を現したことにより、会場内が少しだけ静まる。
タイミングを見計らったかのように、後ろからは護衛の騎士を二人つけたダリアン王が姿を現した。
ミリンダがダリアン王へ頭を下げる。
それに対して手で挨拶すると、ダリアン王は真ん中の一番大きな椅子に腰を下ろした。
王様が現れたことにより、会場内は一気に張り詰めた空気に包まれる。
ダリアン王は一回会場内をまんべんなく見渡すと、一瞬だがアルバを見てその視線を止まらせた。
「皆さん、今日は集まってくれて感謝します」
ダリアン王は一声上げて挨拶する。
決して声を張り上げていないが、ダリアン王の声は鮮明にアルバにも聞こえてきた。
ダリアン王の一言に、会場の視線が一気に王様に集まる。
そんな視線を気にした風もなくダリアン王は続けた。
「今回の決闘は少々今までとは違う目的がありましたので、学園の生徒も皆さんも呼ぶことになりました」
ダリアン王はそこで言葉を切ると、横を向き「ではライラ、任せましたよ」と言ってライラに場を譲った。
王の言葉を受け、ライラが椅子から立ち上がる。
「すでに、学園の生徒や関係者には伝えていることだが改めて説明する。今回、私は学園をさらに安全なものにするために、私の他に一人、学園を守ってくれる信頼できる奴を探していた」
ライラの言葉で、騎士たちからは少しだけざわめきが起こる。
それもそのはずである。学園を守るためなら、まず最初に王宮騎士に声がかかると誰もが思っていたからだ。
そんな騎士たちには気にも留めることなくライラは話をやめない。
「そこで、私はある国に頼み、一人の青年を連れてきた。入ってこい」
ライラはそのままアルバに視線を送ると、こちらに来るように促した。
アルバは一度息をはくと、中央へと足を踏みだ出す。
先ほどまでライラに集中していた視線が、一気にアルバに集まってくる。
アルバはその視線を気にする様子はなく、ライラを見ていた。
「アルバ・ルーインだ」
ライラにより名前が告げられ、さらに、観客はアルバを観察するように見ている。
すると、会場がざわめき始めた。各々何かを呟いているみたいだが、いろいろと混ざっていてアルバにははっきりと分からなかった。
しかし、その中にアルバに対してよくない感情を持った視線があることだけは感じる。
それはこの会場にいる全員に伝わっただろう。ライラの後ろに立っていたミリンダは、少しだけ顔をゆがめた。
「気づいたようだな。見ての通り、そこのアルバはグリードから来たヴァニタスだ」
ライラの言葉で会場は静まり返るも、視線だけはアルバに注がれている。
数名だが、学園の生徒からも騎士からも、がっかりとした雰囲気を出している人もいた。
「ふん!やっても無駄だ!私は帰らせてもらうぞ!」
観客の中から不満の声が上がる。
声を上げたのは学園の関係者らしき、中年の男性からだった。
男性はアルバを見ると嘲るように笑う。
「ヴァニタスごときが、レオナルドに勝てるわけがなかろう」
そのまま男性は席を立ちあがり、闘技場から出ていこうとする。
「ほう。では貴様はこの私の目が節穴だと言いたいのか?」
ライラの冷たい言葉が男性に降りかかる。
男性はビクッと肩を浮かせその場に止まった。
「貴族の分際でこの私に文句をつけると。いい度胸だな」
男性はそのまま動けなくなる。感情にまかせて言う相手を見ていなかったようだ。
しかし、ライラは軽く笑うと男性から視線を外した。
ライラの視線にはよほどの圧力が込められていたようで、男性はその場に力なく座り込むことしか出来ない。
ライラの態度にさっきまでアルバに畏怖の視線を向けていた者も少なくなる。
「まぁ、あいつのように思う気持ちは分からなくないわけじゃない。そこで、今回ここにいるお前たちにはアルバの実力を見てもらう。このアルバがレオナルドに勝ったら、誰も文句は言えないだろうからな」
会場からはもう誰一人としてライラに何か言おうとする人は現れなかった。
「特に学園の生徒はアルバをよく見ておくように。これから、命を預ける相手になるかもしれないからな」
ライラのその言葉で、生徒の視線はアルバに集中する。
バカにしたようにアルバを見る者、何かを期待した目で見る者、中にはなにも思わずにただ見るだけだったりと様々な感情が視線の中には込められていた。
とにかく、生徒はライラの言ったことを守るつもりではいるらしい。
「決闘のルールは簡単。どちらかが相手の致命傷になるような攻撃したり、戦闘続行不可能だと判断されたとき、そこで勝敗を決める。だが、公平を期すために治療系の魔法、または道具の使用は禁止だ。それ意外であれば何をしても構わない。たとえ骨が折れようと怪我をしようと、戦闘ができるようなら続ける。分かったな」
ライラが決闘の大まかなルール説明をする。
とにかく、実践と同じように戦えばいいってことだ。何も難しいことじゃない。
「決闘が終われば、王都でも治癒魔法を得意としている者が、決闘前の状態まで回復させてくれる。安心して戦ってくれ」
そこでライラは言葉を終わらせる。
しかし、レオナルドの姿が今になっても見えない。
どこにいるのかアルバや学園の生徒が闘技場内に視線を巡らせるが、どこにも見当たらない。
「レオナルド。分かりましたね」
ダリアン王が一言そういうと、アルバが入ってきた入り口付近に視線をやる。
アルバも振り向くと、入口に目を凝らす。
「おうよ。つまりはいつも通りってことでいいんだよな」
レオナルドは、特徴的な大剣を肩に担ぎながらゆっくりと歩いて来る。
誰もがレオナルドを見る。特に、同じ騎士からの視線が強いようだ。生徒の何人かからも、憧れの眼差しを向けられている。
アルバとは大違いの扱いだ。
レオナルドはある程度の場所で止まると、アルバをまっすぐに見つめる。
「よう。逃げなかったことは褒めてやるよ」
「どうも。そっちは随分と遅い登場じゃないか」
アルバとレオナルドの視線が正面からぶつかる。
「へっ。こんな結果の分かり切った決闘に早く来たって仕方ないだろ」
レオナルドはアルバをバカにしたように鼻で笑った。
心の底からくだらないと思っているようだ。
「その余裕の表情がどこまで続くか、俺も楽しみだよ」
アルバもレオナルドに向けて、挑発するように言った。
レオナルドがアルバの態度に面白そうに口角を上げる。
お互い軽口の押収なのに、会場は今までにない緊張感に包まれていた。
どちらもすぐに切りかかりそうで、油断ならないといった様子である。
誰かの唾を飲み込む音が、アルバのところにまで聞こえてくるほどに、静まり返っていた。
二人の様子を見ていたライラは満足言ったように笑うと、
「ではこれより、ヴァニタス『アルバ・ルーイン』と王宮騎士『レオナルド・バルフォルド』の決闘を始める。両者、準備はいいな?」
「ああ。問題ない」
「いつでもいいぜ」
ライラの合図でアルバは刀に手を添える。
レオナルドは変わらず、大剣を肩に背負ったままだ。
「始め!!!」
ライラの声が会場内に響き渡った。




