グリード王
ライラがアルバ所を訪れる数時間前。
ライラは一人でグリード王宮へと向かっていた。
王都で王族と同じ権限を持っているライラには、グリード王と会うことなど、自分の判断で決めることができる。
今回、ライラはグリードに初めて来たということもあり、事前にグリードを訪れる理由を王様に伝えてある。グリード王がすでに王宮にいる全員にライラが来ることを伝えているためか、ライラが門をくぐるのを門番は止めることがなかった。
そのまま歩き、扉を開けると何の躊躇もなく中へと入った。
「お待ちしておりました。ライラ様」
扉を開けてすぐ、目の前には王に仕えている侍女らしき女性に迎えられる。
「王の部屋まで案内させていただきます」
侍女は流れるような動作で、ライラを案内する。
ライラは珍しいものを見るように、王宮の中を見渡した。
王都の王宮はこれでもかというほどに、豪勢な造りをしているのに対して、ここはどちらかというと落ち着いた造りをしていた。全てが木で作られていて、奥ゆかしい雰囲気がどこからともかく漂ってくるようだ。さらに、大きさは王都の王宮の半分にも満たないだろう。
王都が大きすぎる気もするが……。
なによりも、ライラ自身はこちらの方が好感が持てるのが事実だ。王都の方はどうにも肌に合わない。
「何か気になることでもありましたか?」
そんなライラの様子に気づいて、前を行く侍女が歩みを止めないまま聞いてくる。
「いや、王宮はどこも同じなのかと思ってたからな。少々驚いた」
「そうですか。確かに、他の国から来られた方は皆、びっくりした顔をされます」
「私はこっちの方が好きだな」
「ありがとうございます」
侍女が少し嬉しそうにしているのが、ライラは後ろ姿で分かった。
「この暮らしは王様の意思か?」
ライラは少し興味をそそられ侍女に聞いてみた。
王宮はいわゆる、国の顔となるところだ。王族の趣向はあれど、どの国の王宮も豪勢な造りになっているのが多い。金で装飾された物を多く飾ったりなど、様々な工夫をしていかに自分の国が栄えているかを来訪者に見せている。
そんな中、グリード王宮は他国とは違い、質素で建物自体大きくなく、国民に寄り添っているように感じる。これが王の意思なのならいいが、もし資金がなくこうするしかなかったのであればとライラは思った。
「はい。王族とはいえ国民と何も変わらないというのが、グリード王の考えなのです」
侍女はライラの心配をよそに、楽しそうに話していた。
「ここが王の部屋になります」
するとすぐに部屋の扉の前についた。
やはり、扉も普通の木造のものだった。
「ありがとう。ご苦労だったな」
ライラのお礼を聞いて、侍女は静かにその場を離れていった。
ライラはここが一国の王の部屋だというのに迷うことなく扉を開けた。
「待っていたよ。ライラさん」
そこには、椅子に深く座っている、グリード王がいた。隣には夫人の姿も見られる。
夫人はライラに手振ると、向かいに座るように促す。
「失礼する」
ライラはそう一言を言い、椅子に座った。
「今回は私の要件を快く受けていただいたこと感謝します」
まず、謝辞を述べてから、
「さっそくで申し訳ないが、私の求める人間はいるだろうか?」
そう切り出した。
「ええ。ライラさんの要望の強くて誠実な者。この国に一人だけですがいますわ」
ライラの言葉遣いを気にする様子もなく夫人が答える。
「ほう。それはどんな奴だ」
「アルバ・ルーインという男性ですわ」
「聞かない名だな」
「それもそうだろう。アルバはギルド所属の一人の国民でしかないからな」
国王の言葉にライラは眉根をあげる。
「なんだと?」
「誰とも変わらない一般国民の一人だよ。表向きはね……」
国王が含みある言葉を言った。
「何者だ?」
「アルバはグリードの誇りのような存在だよ。王都の王宮直属の学園とそこの理事を務めるライラさんの護衛を、こっちとしても下手な人間に任せたくはない。その点、アルバになら問題ない」
「相当信頼できる人間のようだな」
アルバというのが何者なのかは分からなかったが、ここまで王に言われる程の人物とはいったい。
「ええ。なんだかんだ言って任されたことには、誠実にやってくれるわ」
夫人はニコニコしながら、まるで自分の子供のように話す。
「ますます、アルバという人物が何者なのか気になるところだな」
「それはライラさん自身で確かめてくれ。私たちからアルバのことを話すのは、本人に禁止されているところだからね。ただ、強さに関していうなら心配しなくても大丈夫だ。アルバはこの国一の強さだ」
「ええ。そうね」
夫人が即答する。
「アルバの場所はメモに書いておいた」
すると、机の上に場所を示した地図が出された。
「あと、これも持って行ってくれ」
さらにもう一枚メモ用紙よりも一回り大きい紙を渡された。
「これは?」
「私直筆の紹介状だ」
そこには王のサインとライラの名前が書かれ、アルバに会わせることを手書きで書かれていた。
「これに効力があるとは思えないが」
ライラは素直に思ったことを言った。
今さっき書いたものであるために、強制力があるとは思えない。
「少なくともライラさんが正体不明の不審者ではなくなると思いますよ」
「……ふん。それもそうだな」
地図の書かれたメモと手書きの紹介状を懐にしまう。
「それでは私はこれで。何もかもすまないな、国王夫妻」
ライラは二人に頭を下げて、部屋から出ていこうとする。
「ライラさん」
夫人がそんなライラを止める。
「もし、あなたがアルバに不当なことをさせているのが確認された場合は、アルバを王権限によりグリードへ強制送還させてもらいます。それをお忘れなく」
ニコッと笑った夫人だが、その目は笑ってはいなかった。
「わかっている。では」
ライラもそれを理解したうえでそう返した。
「はい。アルバをよろしくお願いします」
これを最後に、ライラは王宮を後にし、メモを頼りにアルバのところに向かった。