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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~守り人就任編~
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知らぬ間に出会っている

「そんなことがあったのか……」


 アルバはミリンダの独白に短い言葉しか言えなかった。

 何を言っていいのか分からなかったのもあるが、アルバにとってはそれ以上に、自分が何かを言える立場にないのだと思ったからだ。

 ミリンダの話を聞くかぎりでは、アルバとミリンダはあの戦場で会っているらしい。

 ミリンダの英雄に対する感情には何か特別なものがあるらしいのか、神妙な顔つきのまま、まだ何かを言おうとしている。


「いつか、英雄と呼ばれた少年に出会うことが出来たなら、私、彼にお礼を言いたいんです」


 もしたかたら来るかもしれないその時のことをミリンダは想像しているのか、表情は過去を語っていた時よりも幾分か明るい。


「私を助けてくれてありがとうって。そして、私に間違いに気づかせてくれてありがとうって」


 ミリンダは純粋な表情で笑った。本当に感謝の心でいっぱいなことは、アルバにもこれでもかというほどに伝わってくる。

 だからこそ、アルバは押し黙ることしか出来ない。

 ミリンダは本当に嬉しそうに語っている。

 しかし、そんなミリンダの感謝の対象であるルナプラーガの英雄。つまり本人であるアルバは、ミリンダと会ったことも、王宮騎士を助けたことも覚えてはいなかったのだ。

 ミリンダの話で、アルバは自分がそんなことをしていたのかと教えてもらったようなものである。

 それだけ、戦場の中は混沌としていた。

 


 毎日モンスターを倒してるグリードの戦士でも、油断したら殺されてしまうほどに、その時のモンスターの群れは異様な雰囲気を醸したしていたのを覚えている。

 一人一人、数が減っていく事実に、アルバも油断できないと思い、とにかく戦闘に集中することしたのだ。

 王都を助けるという名目で動いていたアルバたちグリード戦士は、モンスターの注意を王都ではなく自分たちに向けさせるようと戦い方をあえて派手な方法に変えていた。

 その途中で、アルバはどうやらミリンダを助けていたらしいのだ。

 しかし、アルバにとってはミリンダを助けたつもりはなかった。モンスターの注意を引くことに尽力していたアルバの進行方向に偶然、転んだミリンダがいただけにすぎない。きっと、ミリンダの前に立ったのだって、ミリンダを襲おうとしていたモンスターを倒すためだけだ。さらにはその周囲のモンスターの注意を引くために過ぎない。ミリンダの後ろには王都があったのだから。これより先に行かれては、アルバにとっても困るのだ。

 そして、最後にミリンダの方を向いたのだって、モンスターが自分に向かって来ているのか確かめただけだろう。

 アルバは記憶を何とか掘り起こし、自分の行動を思い出していた。

 アルバにとってみれば、後の戦闘の方がきつく壮絶なものだったため、いまいちその時の記憶はない。

 グリードの戦士たちはもう誰一人としてまともに戦えるものは残っていなかった。

 王都側の騎士も戦場内にはおらず、アルバはひたすらに刀を振るったのだ。

 とにかく死なないためにも必死だった。刀を振り、モンスターを一体一体着実に倒していき、気づいたころにはアルバは戦場に一人で立っていたのだ。

 アルバにとってはどれだけの時間が経っていたのか分からなくなるほど、それは苛烈な戦いだった。

 そのためか、一人で戦っていた時の記憶しか頭の中には残っていなかったのだ。

 

 自分がルナプラーガの英雄だとは言っていないアルバはミリンダにどう反応していいか分からず、言葉が上手く口から出てこない。

 ミリンダはアルバの様子を気にしている素振りは見せず、さらに言葉を続けた。


「四年前に少年のように思えた彼も、今ではきっと大人になっていることでしょう。会っても分からないかも知れませんね。だからでしょうか……」


 ミリンダはアルバに視線を向ける。

 全体を見るようにして、視線を下げていき、刀のところで視線が止まる。


「アルバ様に初めて会った時、刀を見てまさかって思っちゃいました」


 アルバの背中に冷や汗伝う。

 しかし、ミリンダは自分の言った言葉を否定するように首を振った。


「そんなことあるわけがないですよね」


 ミリンダが勘違いした自分の思いを消すように軽く笑った。

 アルバにはミリンダに対して少しだけ罪悪感みたいなものが生まれる。

 もう言ってしまっていいんじゃないか……そう思えてしまう。

 ミリンダに言ったとしても、何か問題があるようには思えない。

 しかし、これまで自分で正体を隠していたアルバにとってみれば、そう簡単に決めていいこととも思えなかった。

 ミリンダは信用できる。誰にも言うなとアルバが一言ミリンダに頼めば、ミリンダはそれを守ってくれるだろう。心配はない。

 だが……


 アルバが悩んでいるうちに、ミリンダは話題を変えてしまった。


「ごめんなさい。アルバ様。ずっと隠していて……」

「えっ。ああ。まぁ、気にするな」


 アルバは一人考え事をしていたため、ミリンダの返答に少し戸惑い気味な様子を見せる。

 ミリンダはそのまま沈んだ表情になったまま黙ってしまった。

 ここはアルバ何か言わなければいけないだろう。


「もう、ヴァニタスを軽視する考えはないんだな?」

「はい。ありません」

「本当か?」


 アルバはあえて、厳重に聞き返す。

 ミリンダ今までの行動を見れば、そんな考えが残っていないことは分かる。

 もし、ミリンダの中に少しでもヴァニタス軽視が残っていたのなら、エルたちに出会ったときに、何かしら感情が顔に出ていたはずだ。だが、ミリンダは優しくエルの父親の容体を見てくれたし、アルバがコリンズを紹介したとき、エルの自信がないような態度に、安心させるように優しく声をかけていた。

 感情が表に出やすいミリンダに、こんな完ぺきな演技ができるとは想像しにくい。

 

「本当です。私はヴァニタスだからといって、不当に扱うつもりはもうありません。魔法が絶対でないことも、身をもって思い知らされましたから」


 ミリンダはまっすぐアルバの目を見て言った。

 ミリンダの視線を正面から受け止めたアルバは、その視線に強さに満足そうに笑う。


「だったら、いいんじゃないか?俺にはミリンダの過去がどうであれ気にするつもりはない。今が大丈夫ならそれでいい。だろ?」


 アルバはミリンダに同意を求めるように聞き返した。

 ミリンダはアルバの言葉に嬉しそうに笑うと、


「はい!ありがとうございます」


 元気な声でそう言ったのだ。



 ミリンダの真実を知ったことで、お互いに少しだけ肩の力が降りたように楽になった二人は、その後、蝋燭の火を消すと、二階に上がっていった。

 ミリンダはアルバを部屋まで送ると言い、手前の部屋に入らず奥の部屋まで着いてきた。

 アルバはもう一度挨拶をし、扉を閉めた。

 その後、ミリンダの足音が遠ざかっていったのを聞くと、アルバはミリンダにばれないように静かに、部屋の扉を少しだけ開ける。

 ミリンダはアルバの願い通り、手前に部屋入っていくのが見えた。

 ほっと胸をなでおろすと、アルバはそっと開けた扉を閉める。



 自分がルナプラーガの英雄だと言い忘れてしまった。

 ミリンダが話題を変えたことで、タイミングを逃してしまったことが大きい。

 しかし……とアルバは思った。


「まさか、人生が変わった人がいるとはな」


 アルバはただ死なないために必死に刀を振るっていたにすぎない。それが、少なくともミリンダとエマ、二人の人生に影響していたとは。

 二人には自分の正体を明かす必要があるんじゃないか。そう思うも気が進まない。


「まぁ、いいか」


 積極的に言っていかなくても、いずれ言うタイミングが訪れるだろう。

 またその時でいいかと軽く考えて、アルバは眠りについた。

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