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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~守り人就任編~
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王都の夜景

 エルたちは、すぐにコリンズには向かわないと言った。

 まだ母親は泣きながら、父親の傍から離れていなかったため、母親が落ち着いてから連れて行くとエルはアルバたちに言ったのだ。

 その表情からはもう不安の色は無くなっていた。

 両親を守りたいという気持ちは、いい方向にいっているようだ。

 アルバたちはそんなエルの態度に満足すると、その場を後にした。

 来た時と同じ、民家の間を通って道にでる。

 やはりというか、エルたちのいた道に比べると、こっちの方が綺麗に道が舗装されていた。まるで別の国に来たように思わせる。

 しかし、ここも王都で、エルたちのいたところも王都なのだ。

 ダリアン王が問題視するのもよく分かる。アルバはさっきの場所しか知らないが、同じようなところが王都にはまだたくさんあるのだろう。

 アルバが見たのはまだ広い王都の一部でしかない。

 グリードの何倍もの国土がある王都に、はたしてどれだけのヴァニタスがいるのか分からないが、エルたちよりも酷い状況の人たちがいる可能性は考えるまでもない。

 それを何とか改善しようにも、本当の意味で改善するには時間が必要だ。長年、積み上げてきた『ヴァニタス軽視』の常識を覆さない限りは、何も変わらない。王都国民、ヴァニタスも含めた意識改革をする必要があるだろう。

 アルバにはダリアン王よりも、王都のヴァニタスを救おうという気持ちは薄いが、エルと関わったことにより、少しだけ考えを改めた。

 とはいえ、グリード王への恩返しの方がアルバにとっては大きいので、積極的に行動していこうとは思わない。エルのように目の前で見てしまったら、またああいうことをするかもしれないが、自分から解決していこうとはしないだろう。


「エル君、大丈夫でしょうか」


 王宮への帰り道にミリンダが不意に独りごとのようにつぶやいた。

 まだ、メイン通りに着いていないために、辺りには二人に足音しか聞こえない。

 ミリンダの言葉はアルバの耳にもはっきりと届く。


「大丈夫だ」


 心配そうなミリンダの言葉にアルバは、対照的な自信に満ちた声で返した。


「あいつは強い。心配いらない」

 

 アルバやミリンダに対して見せたあの態度は大したものだ。幼い少年には普通できない。

 家族を守りたいという強く純粋な心をこれからも持っていけば、エルはその想いを成就させることができるだろう。まずは、その初めに一歩にコリンズを紹介した。

 コリンズに家族を連れていくことなんて、アルバたちに立ちふさがったエルにとっては簡単なはずである。恐怖は伴わない。

 何よりもアルバが気にしているのは……


「エマは了承してくれるだろうか」


 勝手に今日初めて言ったコリンズを、エルに紹介してしまった。あの時はエマなら手を貸してくれると思ったが、今になって思うとどうだろうか。

 アルバはほんの少しだが気にかかる。


「それなら大丈夫だと思いますよ」


 そんなアルバの言葉を、今度はミリンダが自信に満ちた声で否定する。


「エマはあれで面倒見がいいんです。エル君の必死な訴えと、家族の様子を見たら状況を理解してくれます。私の友達を信用してください」


 そう言ってミリンダはアルバに対してニッコリと笑顔を向ける。

 ミリンダの笑顔を見れば、アルバの心配は杞憂だということが分かった。変な思いは捨てよう。

 後のことはエル次第だ。

 アルバは日が暮れた王都をミリンダと一緒に歩きながら王宮を目指した。



 メイン通りを抜け王宮の入り口に差し掛かる。

 夜なのにもかかわらず、メイン通りはまだ賑わっていた。昼とは違って、歩いているのは騎士や働き盛りの男性が多い。

 主婦や子供から、客層が変わったことで、店の装いも変わっていた。野菜や果物、魔道具などの日用品が並んでいた商店は片付けられていて、屋台風な店はそのまま残っていた。

 昼には見なかった店も多くあり、主にお酒を売っているようだ。

 誰もが一日の終わりに一杯っというように楽しそうに笑いあっている。騎士も王都の平和を守るために、人を増やし、見回りを行っているようだ。

 アルバはそれを、王宮から眺めていた。

 アルバに前を歩いていたミリンダが、立ち止まっているアルバに気づいて振り向く。


「アルバ様?」


 その動かない背中に声をかける。

 アルバはミリンダの声にすぐには反応しなかった。

 メイン通りから王都の夜景を首を動かし見渡す。民家の明かりがついているところ。そしてなにも明かりがついていない真っ暗なところ。

 ここから王都の全部が見えるわけではないが、アルバの視線は、メイン通りと、真っ暗なところを見比べるようにしている。


「こうやって見ると、王都国民は皆は賑やかで楽しそうに見えるな」


 ミリンダに応えるようにポツリとアルバは呟く。その声には、どこか憂うような感情が見え隠れしていた。

 ミリンダもそれを感じて、アルバの背中を見つめることしか出来ない。


「ガラじゃないのは分かってるんだ。だけど、自分と同じヴァニタスが、あんな状況になっているのを実際見ると、さすがにくるものがある」


 アルバは深いため息を吐いた。

 自分と同じヴァニタスが、王都では不当な扱いを受けすぎ、心を壊す者までいる。エルのように小さい子供が、路頭に迷っている現状は、グリードにいる頃は考えもしなかった。

 こうやって王都の実態を知ると、グリードに逃げてきた王都出身のヴァニタスは、まだましな方だということが分かる。ほとんどは、王都から出ることも出来ないまま、世の中に不満を持ち死んでいってしまうのだろう。

 エルに出会った道の状況を見れば、嫌でもそれが分かる。

 

「……」


 ミリンダはアルバの言葉にどう返していいか分からなくなる。

 アルバと違いミリンダはヴァニタスではないし、王都国民の一人だ。下手なことは言えるわけもなかった。

 それに、ミリンダの心には一つだけ、引っかかるものがあったのだ。エルたちと出会ってからそれは強くなっていった。なんとかアルバに気づかれることなく、ここまで帰っては来れたが。

 簡単にアルバの言葉に頷くわけにはいかない。頷く資格が自分にはない。

 ミリンダはそんな思いでアルバの背中を見つめていた。

 背中を向けているために、ミリンダの表情に気づくことのないアルバは、気持ちを切り替えるように、大きく息を吸う。


「こうなってくると俺は運がいいことになるな。ライラやダリアン王はヴァニタスに理解がある。それに……」


 アルバはそう言って振り返るとミリンダを見た。


「専属メイドであるミリンダもそれは変わらないしな」


 アルバはミリンダに対して、感謝を述べていた。

 言ってしまえば、ライラと出会っていなければアルバが王都に来ることもなかった。しかし、こうやって来てしまっている以上、そんなこと言ったって仕方がない。

 ミリンダで本当によかったとアルバは純粋に思っていた。

 ミリンダでなければエルの家族を救える可能性は、極めて下がっただろう。


「ありがとうございます……」


 アルバに対してミリンダはお礼の言葉を言う。

 しかし、ミリンダの表情はいまいち優れない。声も沈んでしまっている。

 この時、ミリンダの胸中はアルバに対しての罪悪感でいっぱいだった。自分はライラやダリアンと同じように褒められた人間ではない。

 しかし、このことをアルバに話すのは、ミリンダにはまだ勇気が出なかった。

 そんな思いを隠したまま、ミリンダはアルバと共に借り部屋へと向かったのだった。

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