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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~守り人就任編~
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少年の純真な叫び

 アルバに鋭い目線を送っていた少年は、アルバと目が合ってからもそらす素振りは一切見せなかった。

 少年はここにいる人たちと同じような、ボロボロの服に身を包み、身体も汚れていた。

 なんでこんなところに幼い少年がいるのか。ここは、ミリンダ曰く、ヴァニタスでも世の中に絶望した人たちが集まるところだそうだ。少年の歳で、絶望とまでの人生経験をしたとは到底思えない。

 それに、さっきからアルバに向けている視線には、他の者とは違い、しっかりとした生命力が感じられる。

 アルバが疑問に思っていると、その疑問はしかし、すぐに消えることになる。

 少年の後ろには、二人の男女がいたのだ。

 少年はその二人を守るように、二人の前から動くこともなくアルバたちを睨み続けている。


「こら、やめなさい」


 女性の方が、今にも消え入りそうな弱弱しい声で、少年を止めようと腕を引っ張る。

 しかし、少年はそれでもその場所から動こうともしない。

 女性の手を振りほどくと、またアルバたちを睨みつける。


「お前たち何のためにここに来た!また、母ちゃんたちをいじめに来たのか!」


 少年はまだ幼い高い声でアルバたちに向かって叫んだ。

 『母ちゃん』といった言葉から後ろの二人は少年の両親だということが分かる。

 少年は両手を大きく横に広げ、守るように立つ。しかし、その手は小刻みに揺れていた。少年にとってみれば、アルバたちは自分よりも二回りも大きく、もし正面から立ち向かっても勝ち目などないのは明白だ。

 それでも、少年は怖いと思う気持ちを押し殺し、アルバたちの前に立ちふさがっている。

後ろの両親を守るために。


「帰れ!!」


 少年はしゃがむと、近くに落ちていた石を手に取り、アルバに向かって投げつけた。

 ミリンダがアルバを守ろうと魔法を使おうとする。しかし、アルバはそれを手で制し止めた。

 少年の投げた石は緩やかな弧を描いてアルバの身体に当たる。少年の力ではそれほどの威力はでないようで、当たったところで痛くはない。

 アルバは少年の方に歩いて行った。少年も負けずと石を投げ続ける。

 母親の方は必死に少年を止めようとしているようだが、身体に力が入らないのかすぐに振りほどかれてしまう。父親らしき男の方は、止めることも出来ずただ茫然と、起こっている事態を眺めていた。その目には感情というものが感じられない。心が壊れてしまっているように焦点が合っていない。

 アルバとの距離が近づいていくごとに、少年の感情はヒートアップしていった。


「来るな!来るなよ!俺たちが何をしたっていうんだ!!」


 少年は溜まりに溜まった感情を石に込めてぶつける。

 近づくにつれ、少年は石を投げることよりも、叫ぶことの方が多くなってくる。


「魔法が使えないからってなんだって言うんだ!!ヴァニタスって呼んでみんなバカにしやがって!!!!」


 少年の叫び声は徐々に大きく、そして言葉には震えが混ざってくる。

 近づいてくるアルバに少年の中の恐怖心がどんどん強くなっているようだ。

 もう、石こそ投げれなくなってしまったが、アルバを睨みつけるのはやめない。身体は全身震えてしまっている。

 

「俺たちだって好きでヴァニタスになったわけじゃない!!!!!」


 そして、少年は最後の力を振り絞るように叫ぶ。これまでよりも比べ物にならないほどに大きな少年の叫びは、辺りに響き渡った。

 少年の悲痛な叫びは、アルバの心にも、ミリンダの心にも深く突き刺さる。

 少年の言ったことは事実だ。誰だって好きで魔法が使えないわけじゃない。なのに、世の中は魔法が使えないというだけで差別される。

 少年はそんな、大人が諦めてしまっていることに、純粋に立ち向かっていこうとしているのだ。

 自分の家族を守るために。


「なのに、なのに……」


 もう少年は泣き出してしまいそうに、肩を震わせる。

 そんな少年の様子を、後ろで見ていた母親は優しい眼差しで見つめると、少年を抱きしめた。

 後ろから深く深く抱きしめる。少年は泣きそうなのを何とか我慢して、抱きしめられながらも立ち続けている。


「ありがとう……」

 母親は少年の耳元で囁く。


「申し訳ございません。どうかこの子だけは許してください」

 すると、今度は母親が少年を守るように、少年を自分の方に引き寄せる。

 アルバは少年に手を伸ばす。

 何をされるのか分からない恐怖から、母親と少年は目を閉じる。

 父親だけが、この状況を感情のない目で見ていた。


 そして、そんな少年の頭を……アルバは優しくなでる。


 状況が理解できないようで、少年は目を開けるもアルバを見て固まっていた。

 母親も、事態が動かないことを不思議に思って目をゆっくりと開く。


「兄ちゃん……」

「少年。名前は?」

「……エル……」


 少年…….エルは呆気にとられるも、アルバの質問には返してくれる。

 母親はその様子を見て、そっとエルを抱いていた腕をほどいた。


「エル、両親は好きか」


 アルバはそんなことを聞く。

 エルもその言葉で調子を取り戻したように顔に感情が戻ってくる。


「好きだよ!母ちゃんの作る料理はすっごくおいしいし、父ちゃんは手先が器用で、俺のために何でも作ってくれるんだ!!」

「そうか」


 エルは子供らしく、とても楽しそうに話してくれた。

 その表情には先ほどまでの、睨みつける様子は見られない。これがエルの本当の表情だった。

自分の好きなものを語っている、年相応の幼くも優しい顔だ。


「だけど……」


 しかし、エルの楽しそうな表情はすぐに、悲しい表情に変わってしまった。

 エルは後ろのいる、両親を見つめる。母親の方は、ボロボロの服だがまだ身体には生気がある。だが、父親の方はもう、虚ろな目をしている。


「どうしてこんなことになったか教えてもらってもいいか……?」


 アルバはエルの後ろにいる母親の方に聞いた。

 エルが思い出すには酷だと思ったためだ。

 しかし、アルバの質問に答えたのは、意外にもエルの方だった。


「父ちゃんは前まである店で働いていたんだ……」


 エルはぽつぽつと語り始めた。悲しくならないようにか、エルの手を母親がぎゅっと握る。

 一人じゃないよと言っているように思えた。


「毎日辛い思いをしながらも父ちゃんは必死に働いてた。俺のわがままも聞いてくれて、いろんなものを作ってくれたんだ」

「本当に立派に私たち家族のために働いてくれました。でも……」


 壁にもたれかかるように座る父親に向かって、二人は懐かしい思いで見つめていた。


「ある日、帰ってきた主人の様子がいつもと違ったんです」


「あれだけ大好きだった母ちゃんの料理を、父ちゃんはその日、一口も食べなかったんだ」


「その時は疲れていただけだろうって思っていたんです。あまり食べない日も時々ですがありましたから……でも、次の日の朝、主人はいつもの時間に起きてこなかったんです」


「俺が、父ちゃんの様子を見に行ったんだ。そしたら……」


 エルはそこまで言うと、耐え切れなくなった様子で、母親の胸に顔をうずめてしまう。

 母親がエルの背中を優しくなでると、続きを話してくれた。


「主人は今のような虚ろな目で、部屋の天井をただただ見つめていました。私たちが何を言っても、反応してくれません。主人の心は……完全に壊れてしまっていたんです」


 そう言って、母親はアルバを見つめると複雑な表情を見せた。

 その表情には諦めと、辛い現実を受け止めないといけないという思いが込められていたようにアルバは思う。

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