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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~守り人就任編~
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ヴァニタスの現実

 エマの店でゆっくりしているうちに、時間が随分と経っていたらしい。

 元々、薄暗い路地に建っているだけに、時間の経過が分かりづらい。よく見ると、来た時よりも少しだけだが、外にかかる影が濃くなったように感じる。

 アルバはそろそろ店から出ようと思い、ミリンダに目配せする。

 ミリンダもそれを汲み取ると、椅子から立ち上がった。


「私たちそろそろ……」

「はいよ」


 アルバもミリンダに続いて立ち上がる。

 先にミリンダが会計を済ませている。


「エマ、今日はありがと。久しぶりに話せて楽しかった」

「私もだよ」


 ミリンダとエマは友達独特の、にこやかな表情を見せる。


「サンドウィッチうまかった」

 アルバも短くエマにお礼を言う。

「それはよかったよ」

 エマもアルバに対してはにかんだ。

 最初こそ、エマに対して気だるげな印象をアルバは受けたが、話してみるとそうでもなかった。

 気づけば店にいる間、エマのおかげで退屈することはなかったように思う。もちろん、友人であるミリンダが来た事で気分が良かったのもあるが、しっかりとアルバに事も気にかけていることに感心した。

 流石は毎日客相手に仕事しているだけある。


 ミリンダが扉を開けて待っていた。

 アルバは外に出ようと歩き始める。

 すると、後ろのエマから声がかかる。


「また来な。うちはヴァニタス歓迎だから」


 アルバに対してそう言ったのだ。

「そうするよ」

 アルバも振り向くことはしなかったが、返事の声は明るい。

 ミリンダからとても嬉しそうな顔を向けられた。



 エマの店を出てから、薄暗い石畳の道を、アルバとミリンダは肩を並べて歩いていた。

 日が傾き始めたためか、行きに通った時よりも少々気温が下がっている。肌寒いほどではないものの、少しだけ、二人の間の距離は狭くなっていた


「いい店だな」


 アルバの口からポツリと言葉が漏れた。


「はい!とっても」


 ミリンダが友人に店を褒められて、恥ずかしいような嬉しいような表情を浮かべている。

 実際、喫茶コリンズはいい店だとは思う。王都でなお、ヴァニタス相手に商売している心意気も、店の雰囲気共々、いいところである。

 

「でも、エマが明日の決闘を見に来るとは」

「私も驚きました。それに、エマが王宮関係者になっていたなんて」


 ミリンダはまだ驚いているようだ。

 今日一日で一気に二つの事実が分かっただけに、古くから友人としては仕方ないだろう。

 アルバも驚きはしたが、エマとは初対面だったためにそこまでの驚きはなかった。


「決闘のこと、そんな簡単に知られていいのか……」


 王宮のことなのに、知り合いにも普通に誘うことができるなんて大丈夫なのだろうか。

 アルバにとっては、多くの人に見てもらうのは、のちの自分の立場を楽なものにさせる可能性があるだけに、ありがたい。

 だが、王宮はそれでいいのだろうかという心配はある。


「まぁ、そこは大丈夫ですよ。王宮内部は常に警戒されていますし、関係者の方しか入れません。もし、変なことをする人がいれば即座に騎士に取り押さえられます」


 ミリンダは当たり前のように言う。

 情報制限が軽いのも警備が厳重の裏返しかもしれない。


「本来決闘というのは見世物の側面もあります。特に情報制限は軽いのだと思いますよ。それに、エマに関していえば、元王宮騎士ともあってかそこら辺の意識は軽くなってしまうんですよ」


 ミリンダは簡単にだがアルバに説明してくれる。

 いくら情報制限が軽いとはいえ、騎士たちも流石に軽々しく話したりはしない。その反面、元々騎士だったエマはそこはちゃんとしているはずだという気持ちが口を軽くする。

 だからこそ、知り合いの騎士もエマを誘ったのだろう。


「でも、レオナルドの対戦相手は伏せてあるんだな」

「流石に、ダリアン様主催の決闘に、ヴァニタスが出ると知られていたら、決闘自体無くなる可能性が高いですから」


 ミリンダは苦笑いを浮かべる。

 確かに、王都でも有名なレオナルドの相手がヴァニタスだなんて前情報があったら、レオナルドに対して失礼じゃないかと言った声が上がりかねない。

 それをダリアン王は見越しての判断だろう。


 アルバがミリンダとそんな会話をしていると


「……?」


 アルバは視線を感じて民家の間に目を向ける。

 今しがたアルバには誰かの視線を感じた。鋭く刺すような、メイン通りで感じた視線とはまた違った視線に感じられる。

 他の人よりも明らかな敵意があった。

 だが、どこにも人の姿は見えない。


「アルバ様?」


 突然止まったアルバを見て、先に行きそうになっていたミリンダが止まる。

 アルバはそれでも、視線の感じた方を見て動かない。

 するとアルバが唐突にその方向へと歩いて行った。

 民家と民家の狭い間を、身体を横にして進んでいく。


「アルバ様!」


 ミリンダは慌てた様子でアルバの後に続いていく。


「待ってくださいアルバ様!止まってください!」


 ミリンダの声が切羽詰まったものになっていく。

 しかし、アルバは止まらない。どんどんと前に進んでいく。

 身体を壁にこすりつけながら進むと、道の先がどこかに出ていることが分かった。

 アルバはそこに向けて歩を進める。

 視線の主はこの先にいる。アルバの直感がそう告げていた。


「お待ちください!!アルバ様!そこだけは……」


 ミリンダの言葉を背に、アルバはとうとう狭い民家の間を抜けた。

 そこは通路のようになっていた。奥に来ただけに、さっきの道よりもさらに薄暗くなっている。

 しかし、一番アルバを驚かせたのはその道の異様さだった。

 これまではしっかりと舗装された道が続いていたが、ここは、忘れ去られたかのように、寂れていた。

 石畳の道は所々かけており、奥の民家らしき建物は、壁が剥がれていたりとひどい有様だった。

 ここが王都とは考えられないほどに、その状況は酷かった。

 そして、アルバはその道の周りを見渡すと……


「これは……」


 アルバの身体が目の前の惨状を見て動けなくなる。

 その道には、所々に人がいた。皆、ボロボロの服を着ていて、民家に背をやり、道に座り込んでいた。

 誰もが顔から希望が見いだせないほどに、ひどい表情をしていた。あまり食にもありつけていないのか、げっそりと痩せてしまっている。


「見てしまったのですね……」


 後ろから息を切らせたミリンダが、動けないでいるアルバに追いつく。

 その表情は暗い。


「ミリンダ、これは」


 アルバは目を背けれないまま、ミリンダに問いかけた。


「……」


 しかし、ミリンダからは返答がない。

 迷っているというよりも、アルバの事を気にかけているようだ。


「頼む」


 そんなミリンダの様子が分かっていたものの、アルバは端的にお願いした。

 見てしまった以上知らないでいることはできない。

 ミリンダも覚悟をして口を開いた。


「この方々は……王都のヴァニタスです」


 ミリンダが俯きながらそう言った。

 ミリンダの言葉を受けアルバは息をのんだ。

 言葉にならないように、見ていることしか出来ない。

 アルバにとってはそれだけ衝撃的な光景だった。

 自分と同じ人たちがここまで荒んだ生活を送っているとは想像もしていなかった。


「これが王都の現実か……」


 アルバからそれ以上の言葉が出ない。


「そうですね……正確に言うとこれが全てではありません。ここは特にひどいところではありますが」


 ミリンダが詳しく説明する。

 今説明する必要はないかもしれないが、ミリンダにはその責任があった。

 アルバからの返答を待たずして続けた。


「ヴァニタスの方にもしっかりと生活をしている方はいます。ですが、街中に出て働こうとして、不当な扱いを受けるうちに、心まで病んでしまう方も少なくありません。そんな方々は、人生、王都に絶望してこのような場所に来てしまうのです」


「こんな場所があることを王宮は知っているのか」


「はい。知っていて、放置しています。それが、魔法主義国家の王都です」


 魔法が使えないヴァニタスがどこで死のうと関係ないとしている。

 非常な世界といえばそうかもしれないが、これは現実である。


「エマのお店はこういう方々も対象なのですが、心を病んでしまっているためか、ここから動くこともなく命を落としてしまいます。ああいう店があることを知れば、少しは変わるかもしれないのに……難しいのが現状です」


 ミリンダも思うところがあるのか、悲しい声を出す。

 ミリンダが必死にアルバを止めていたのはこのためだった。

 王都にいればいずれは知ることになるだろう。しかし、アルバは王都に来てまだ一日だ。事実を知るのに、ここは刺激が強すぎると思ったのだ。

 しかし、こうなってしまえば仕方がない。

 ミリンダは包み隠さずアルバに伝えた。


「そうか」


 座り込んでいる人は、しかし、会話している二人を気にした様子を見せない。

 何もかもに絶望しているのか、死を待つのみのように感じる。


「……!」


 呆然としていたアルバは、唐突に振り返った。

 さっき感じたのと同じ視線を今は、後ろから感じた。

 そして、振り向いたアルバが目にしたのは……


 こちらを睨むように見つめる一人の少年だった。

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