決闘を見に行くらしい
喫茶店とエマの関係が分かったところで、店内を見渡してみると、少しだが温かみを感じられる。
ここが家だと思うと、本当にエマの家族が店を大切にしていることが分かる。どこを見ても清潔にされていて、落ち着いた空間というものを成形させる努力が垣間見えるようだ。
エマも実家の喫茶店が自慢なのだろう。あまり変わらない表情だが、「私の家だ」と言ったエマの表情は、少しだけ柔らかくなったように見えた。
すると、もうこの話は終わりというように、エマは違う話をし始める。
「ミリンダ。私、聞いたことなんだけどさ。明日王宮内で決闘があるんだってね」
エマの口から何気なく出た話だったが、ミリンダとアルバは意外な目でエマを見る。
一気に注目を集めたことで、エマは少したじろいだ。
「エマ、何で知ってるの?」
ミリンダが大きな目をさらに大きくして、エマに聞く。
アルバも同じことを思っていたので、何も言わずにエマの答えを待つ。
「いや、知り合いの王宮騎士から見に行かないかって誘われてるんだよ。何でもあのレオナルドが出るっていうからちょっと興味あってね。行ってもいいかなって思ってるんだけど」
エマは簡単に言ってのける。
しかし、エマに言ったことはいいのだろうか。エマが知っているということは、情報が洩れているといえる。決闘のことは王宮や学園関係者には伝わっているのは分かるが、元騎士とはいえ、一般国民に言っていいこととは思えない。大丈夫なのか……アルバは少し心配になる。
それに、エマは誘われて行くような感じに言っているが、まず王宮に入れるのだろうか。
「ダリアン王が提案した決闘らしいし、レオナルドの相手が誰なのか見てみたい気持ちもある」
エマの口ぶりからして、対戦相手が誰なのかまでは伝わっていないらしい。
ミリンダとアルバが、エマにばれない程度に目を見合わせる。
流石に、ここでその相手がアルバだとは言えそうもない。
アルバは初めて聞く体を装って、聞いた。
「レオナルドってのは強いのか」
「強い……というより、凶暴なんだよ。戦闘を楽しんでいるかのように、ずっと笑顔で戦い続けているの。私は実際にそれを見たことあるから、正直戦いたくはないね」
「あははは……」
ミリンダも見たことがあるのか、渇いた笑い出す。
アルバも想像はできた。アルバを見たときのレオナルドからは殺気をひしひしと感じた。戦っている最中に、あれほど殺気を放っている相手が笑っていたら、何とも言えない恐怖が襲い掛かってくるかもしれない。
「でもエマ、行くっていっても王宮に入れないんじゃ」
「そこは問題ない……ていうか、ミリンダ知らないの?」
「え?」
「この店がライラさんの物になってから、一応私たち家族は王宮関係者ってことになっているのよ」
ミリンダは本当に知らなかったようで「知らなかった……」と小さく呟いていた。
考えてみれば当然かもしれないとアルバは思った。
たとえ、元々家族がやっていた店でも、名目上今はライラの店ということになっている。そこで働いている人を、一般国民にしておくわけにはいかない。
そこで、ライラは面倒だからと、自分の権限を利用して、エマの家族を丸ごと、関係者にしたのだろう。
ライラならしそうなことだ。
「まぁ、なったところで一度も王宮に入ったことないけどね」
エマは興味なさそうに、両手を横に広げながら首を振る。
王宮関係者になれば普通の人なら手を上げて喜んだことだろう。
興味なかったのも理由だろうし、ヴァニタス相手の商売ということもあって、王宮関係者だと知られることに多少のリスクは伴う。王都のヴァニタスはどうしても王宮、王族に対していい感情を持っていない。
客が来なくなってしまっては意味がないのも同然だ。
「今回に関してはそれを利用させてもらうことにするよ」
得意げに言って、エマは口角を上げた。
見に来たエマが驚いた顔が想像できる。まさか、今目の前にいるアルバが、レオナルドの対戦相手だとは思わないだろう。
しかし、そうなってくると、アルバも気が引き締まる思いだ。
顔見知りの前で、情けないところを見せるわけにもいかない。
もとより、負けるつもりはないんだが。
「ミリンダは見に行くのか?」
「うん、一応……」
ミリンダは歯切れの悪い返答でエマに返した。
ミリンダの立場上、見に行かないという選択肢はない。
当事者のメイドなのだから。
「アルバは」
エマはアルバの方を向く。
エマにとってはアルバは、ライラがグリードから連れてきたお客という認識になっている。興味があるようには思っていないのかもしれない。
「俺も一応な。ちょうど王宮にいるわけだし……」
ミリンダと同じようにアルバもエマの返答に言葉を濁した。




