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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~守り人就任編~
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喫茶コリンズ

 ミリンダはアルバを連れて、メイン通りから外れた、路地裏ともいえるところに入っていた。

 路地裏といっても、メイン通りの近くともあってか、人通りはそれほど変わらない。

 商店や馬車が通れない道幅になっただけで、グリードのように真っ暗な印象も受けない。

 立ち話をしている人もちらほらと見え、子供たちも走り回っている。

 むしろ、こちらの方がメイン通りに比べて生活感が出ている。

 すると、ミリンダが右に曲がった。


「ここは階段になっているので気をつけてくださいね」


 そう言って先に行く。

 アルバもそれに続くようにする。確かに曲がってすぐ、下り階段になっていた。

 建物や道が統一されているだけあって、これは落とし穴になりやすい。アルバも、ミリンダに言われなければ、ここに階段があるとは思わず、普通に転んだだろう。

 階段を降り切り、すぐにミリンダは右に曲がる。

 さっきに比べて、人通りはまばらになった。

 アルバとしても、奇異の視線が減るだけにありがたい。

 ミリンダはどこまで行くのか分からない。メイン通りから外れてしばらく歩いていた。

 今ではまばらにあった人通りも、完全になくなっていた。

 建物が隣接した間を通っているからか、薄暗く感じる。

 ここが今どのあたりに位置しているのか、土地勘がないアルバには見当もつかなかった。一人で取り残されたらたまったもんじゃない。


「結構遠いんだな」

「はい……その店は中心地から外れたところにありますから」


 二人の会話が通りに響く。

 王都といってもメイン通りの中心地を外れてしまえば、こんなものである。

 どこもかしこも賑わっているわけではない。王都にももちろん、人が寄り付かないところがある。ここもその一つなのだろう。

 果たして、そんなところにある喫茶店とはどういったところなのか……

 少し心配にはなってくる。

 しかしミリンダの様子を見る限りでは、良い店ではあるのかもしれない。

 ミリンダの足取りは、メイン通りにいたときよりも快調だった。

 しばらく歩いたところで、道の先に看板が見えてきた。

 木でつくられた看板は、スタンド式になっていて、店の横に立てられていた。


『喫茶 コリンズ』


 看板には、黒い文字でそう書いてあるだけだ。

 近くに来ないと分からないほどに、看板はシンプルで、何も知らないと見過ごしてしまうところだった。

 ミリンダの目指していた店はこれの事だろうか。

 そう思い、ミリンダを見つめると、ミリンダは微笑む。


「着きました。ここです」


 そう言って店の前で立ち止まる。

 外から中を見る限り、今お客はいないみたいだ。

 なんだったら、店員すら見えない。

 やっているのかさえ疑いたくなる。

 しかし、扉にかかった札には『営業中』としっかり書いてあった。

 ミリンダは慣れた様子で扉を開ける。

 これまでのように一度扉に触れるのかと思っていたが、ミリンダはそのまま扉を押した。

 カランっと軽い音を鳴らして扉が開く。

 どうやら、ここに喫茶店は魔道具を使っていないようだ。


「どうぞ、アルバ様」


 ミリンダに促され、アルバは喫茶コリンズの中に入っていく。

 中は落ち着いた雰囲気に包まれていた。建物は木造でつくられていて、暗い茶色で統一されていて、静かな時を感じられる。さらに、微かに店内には音楽も流れていた。

 木造ともあってか、ここなら落ち着いて何時間もいれるんじゃないかと思わせる造りだ。

 アルバたちが入ってすぐに、

「はいはーい」

 店の奥から女性の声が聞こえてきた。

 外から見えなかったのは、店員が中に入っていたからだ。

 女性は暖簾をくぐり姿を現した。


「いらっしゃーい」


 けだるい声で女性はアルバの前に立つ。

 動きやすいネルシャツのパンツスタイルで、前には地味な黒のエプロンをつけている。アルバよりも少し身長の高い女性だった。赤い髪を伸ばしっぱなしにしていて、けだるい雰囲気のあるお姉さんという感じだった。


「見ない顔だね」


 アルバを一目見て女性はそう言った。

 ここには常連しかこないのか、女性は客の顔を覚えているみたいな口ぶりだ。


「……」

「私が連れてきたんです」


 アルバが何か言おうとしたら、ミリンダがアルバの前に出て、女性に挨拶する。

 女性はアルバで見えなかったのか、ミリンダの存在に今気づいた様子を見せる。


「ミリンダじゃん」

「お久しぶりです。エマさん」


 ミリンダは下げた頭を上げ、ニコッと笑った。

 女性…もといエマの方も驚いた様子をしていたが、ミリンダの笑顔を見て少し笑った顔になる。

 どうやら二人は知り合いのようだ。


「エマさん。こちらアルバ様でして…」

「ふーん……」


 エマはアルバの全身をじっくり見ていた。

 足先から、頭の先まで見ると、満足したようにニヤッと笑った。


「ミリンダの恋人か……」

「違……」

「違いますよ!」


 アルバが否定しようとしたら、ミリンダが慌ててエマの言葉を否定した。

 そこまで速攻に否定されると、アルバ自身、ミリンダにそういう感情はなかったが、少しショックを受ける。

 アルバの肩が心なしか落ちた。


「あーあ。彼ショック受けちゃったよー」


 エマがミリンダを茶化すように、アルバの様子を伝える。


「ええっ!!違いますアルバ様!その…そういう意味じゃなくって…その…」


 ミリンダは完全にパニックになってしまっていた。

 身体の前で両手を振りながら、あわあわしていて落ち着かない。

 エマはそれを見て面白そうにしている。いつもミリンダに対してこんな感じなのだろうか。

 流石に、ずっと焦った様子見せているミリンダに、アルバは申し訳なくなってきた。


「冗談だ。安心しろ」

「その!……へ?冗談だったんですか…よかった……」


 やっと落ち着くミリンダ。ほっと胸をなでおろす。

 ミリンダはエマの方を振り向き

「もう……からかわないでよ」

 と、頬を膨らせる。


「ごめんごめん」


 エマも軽く謝ると、アルバたちを席に案内してくれた。


 窓際の席に腰を下ろすと、ミリンダも向かいに座る。

 エマは、持っていたメニュー表を机の真ん中に置く。

 見開き1ページのメニュー表には、飲み物のほかに、軽食の欄があった。

 どうやらここでは、軽食にはサンドウィッチしかないようだ。

 メニューを見て想像してしまい、薄れてきていた空腹感がまたぶり返してきた。

 音がならないようにお腹に手をあてる。


「とりあえず何か食べるものを……」

「そうですね……エマさん、サンドウィッチを2つ下さい」

「はいよ。なにがいい?」

「何でもいい。おすすめで」


 とにかくお腹を満たしたいアルバは、メニューにいくらかあるサンドウィッチの種類を見ることなくエマに全て委ねた。

 ミリンダもそれでいいらしく頷いている。


「飲み物は?」

「うーん…今はいいかな」

「私も大丈夫ですね」


 二人して断る。喫茶店は軽食よりも飲み物の方がメインなのにもかかわらず、断った二人を見ても、エマの表情は変わらない。

 エマは二人の注文を受けると、メニューを持って暖簾の奥に消えていった。


:::::::::::::::::::::::::::::::::::::


 しばらくすると、エマは暖簾の奥から姿を現す。

 アルバたちの席まで歩いてきた。


「いいのか?」


 アルバが尋ねるとエマは何てことないように答える。


「大丈夫。調理は私の専門じゃないから」

「そうなのか」


 考えてみれば、喫茶店を一人で切り盛りできるわけでもない。

 他の人が中にいるのだろう。

 アルバは暖簾の奥に視線をやるが、そこから人の気配は感じてこない。

 店の雰囲気を維持するためか、完全に店と調理場は別になっているようだ。


「それにしてもミリンダがここに来るなんていつぶりだ?」


 ミリンダの方を見てエマは首を少し傾ける。


「確か…エマさんがここで働くようになった時に来た以来ですかね」


 ミリンダも思い出すように、目線を上に上げながら答えた。


「そんな前なのか……ていうか、『エマさん』ってのやめてくれない?敬語も。変な感じがする」


 エマは違和感を感じて身体を震わせる。


「なんか癖になちゃって。それに……」


 ミリンダがアルバの方を見て固まった。

 アルバの前で、敬語を取るのはメイドとして気が引けたのであろう。

 アルバにもミリンダの視線で伝わってくる。


「俺は気にしないぞ」


 そう言って、アルバは二人を見る。

 どちらも落ち着かない様子だ。


「ミリンダの好きなようにすればいい」


 アルバのその言葉を聞き、二人の表情が柔らかくなった。


「はい!ありがとうございます」

「別にお礼を言われる程じゃ……」


 ミリンダの態度にアルバは少し恥ずかしくなり、ミリンダから視線を逸らす。

 それに、ミリンダの好きなようにしていいとは朝言ったばかりである。

 でも、嬉しかったのかミリンダは微笑んだままである。


「案外優しいじゃん」


 エマから感心した声が聞こえてくる。


「そうなんですよ!アルバ様はとてもお優しい方なんです!」


 ミリンダが嬉しそうにエマに向かって言う。

 褒められるのはどうも慣れない様子で、アルバはさらに恥ずかしくなり、二人の方を見れなくなった。

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