アルバ 王都で食にありつけず……
店主に突然にように店を追い出されたアルバたちは、また王都のメイン通りを歩き始めた。
「なんだったんでしょうか……あの店主のおじさん」
ミリンダは店主の態度の変化にまだ、理解できないようだ。
「親切に教えてくれてたのに、帰れって言うなんて……」
首をひねり不思議そうにしている。
「いい店だと思ったのに……」
最後に小さく囁くようにそう言うと、黙ってしまった。
ミリンダとは対照的に、アルバはあの店主の態度に思うことは何もなかった。
職人というのは変人が多い。自分の興味ないことには、本当に会話すらしなかったり、自分の商品に文句をいう奴は、店から追い出したりと様々だ。
グリードは、腕の立つ職人が多く、性格もきつい人間が多数いるためか、アルバにとってあの店主の態度の変化に驚くことはなかった。
むしろ、商品を買う様子がなかった俺たちに、あれだけ説明してくれただけ、まだ好印象だ。
普通なら会話すらしてくれないだろう。
頭ごなしに怒って追い出されるだけだ。
「まぁ、職人ていうのはあんなもんだ」
悩んでいるミリンダに対してアルバは短くそう言った。というか、他の表現方法は分からない。
「私にはよく分かりません……」
ミリンダの表情は変わらない。
しかし、これ以上考えても分からないと悟ったのか、ミリンダは気持ちを切り替えるように、前を向く。
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「予定がないのってのは、案外疲れるな」
ミリンダと共に王都の街を歩いていたアルバは、そんなことを漏らす。
さらには、歩くたびに降りかかる視線も伴って、精神疲労も蓄積されていた。
「そうですね……」
最初こそ王都の街は、アルバにとっては新鮮なものであり、景色を見るだけでも楽しめた。だが、ある程度見たところで、見慣れてしまった。人を避けながら歩くのに、面倒とも感じるようになった。
ミリンダが何故かあまり話さないのも、一つの要因でもある。
あの武具店の中や、借り部屋に時はよく話していたのにも関わらず、街に出ると黙ってしまう。
何を思っているのか想像もつかないアルバにはどうしようもない。
そうなると、今まで気にしていなかったことも、如実に感じてくる。
アルバは自分のお腹に手をあてる。
「腹減ったな……」
朝食を食べて、朝の日課もやったことや、冷たい視線のせいで、身体が食を欲しがっている。
商店には、食べ歩きのためか、屋台のように食べ物も売っているところもあるので、適当なところを見つけて、何か買うことにした。
お金に関してはミリンダが持っているというので問題ない。
すると、少し先にちょうどいいものが見えてきた。
肉を加工して、棒につけた、食べ歩く目的のために作られたようなやつを売っている店を発見した。
子供ずれの女の人が今、店の人と話している。
そこにアルバも入っていく。
「すまないが、一つくれないか」
アルバはなるべく邪魔にならないよう、会話が止まったところを見計らって店の人に声をかける。
「――――――」
「――――――」
だが、店の人と女の人は話をやめない。
聞こえていないのかと思ったアルバは、さっきよりも声を大きくして呼びかける。
「一つ、買いたい」
短く端的に伝わるように心がける。
やっとアルバに気づいたのか店の男がこちらも向く。
「ああん?……悪いがお前には売れないな」
男は、アルバの全身を見たと思ったら、バカにしたようにアルバに対して言い放った。
「なに?」
客商売とは思えない男の態度にアルバとしても、機嫌が悪くなる。
「ヴァニタスに売るものなんざ置いてねぇんだよ!とっととどっか行けや」
はっはっはと豪快に笑った男は、アルバに対し店の前からいなくなるように指示する。
女性も男と同じように、アルバに嘲笑を浮かべた。
「ヴァニタスがここにいていいと思ってるの?」
子供の純粋な目がアルバに突き刺さる。
「こらこら、思っていても言っちゃいけませんよ~」
母親であろう女のひとが子供を注意する。だが、女の顔は笑っていた。
「後ろのメイドさんは何か買っていかないかい?」
アルバに興味を失ったかのように、後ろに控えていたミリンダに声をかける男。
「王宮メイドさんだ。サービスしますよ」
男はアルバに時には発したことのないような、丁寧な口調で接客していた。
ミリンダは男の態度に、気分を悪くしたように、きつく睨む。
「いえ、結構です。行きましょうアルバ様」
聞いたこともないような硬い声を出すと、アルバの腕を引いて、足早に店を後にする。
腕も引くミリンダの力は強い。
きつく掴んで、放す気配が見られない。
「メイドさんも大変ね~」
「だな。仕事とはいえヴァニタスに仕えないといけないなんてな」
後ろのさっきの店のあたりから、ミリンダに同情する声が聞こえてくる。
ミリンダ本人には聞こえていない。
ずんずんとアルバを引き連れ、歩いて行ってしまう。
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ミリンダから解放されたのは、店が人で見えなくなるぐらい歩いたあとだった。
強い力で握られていたおかげで、アルバの腕には手の赤い跡が残っていた。
それを見たミリンダは慌てて
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
と、頭を下げた。
気にしなくてもいいとアルバが言う。むしろ、アルバの事で怒ってくれたことに感謝したいぐらいだ。
しかし、お腹のすきは収まることはない。
歩いたおかげで、さっきよりも空腹感が増している。
こうなったらと、アルバは手あたり次第に食事を提供してくれそうな店に入っていった。
結果……どこの店からも門前払いを受けた。
店の扉をミリンダに開けてもらい、アルバが店に足を踏み入れると
『ヴァニタスが入ってくるな。出ていけ』
と言われてしまったのだ。
アルバは肩を落とす。ミリンダの表情もどこか優れない。
王都の洗礼を受けた気分だ。
「まさか、一食食べるのもままならないとはな……」
おかげさまで空腹感は限界を迎えていた。
そりゃあ、街から出ていきたくもなるわな……
街に出れば、人々から冷たい視線を受け、店には魔道具によって入ることすらできない。店に入れないならと、商店で買おうとしたところで、さっきの男のようにバカにされたような扱いを受ける。
暮らしにくいにも程がある。
ライラの言った通り、街に出てみてアルバはそれを鮮明に感じた。
「すみませんアルバ様」
突然ミリンダは沈んだ声を出した。
「ミリンダのせいじゃないだろ」
王都にとってはそれが当たり前。何も悪いことじゃない。
しかし、ミリンダの顔は晴れていない。まだ何か気にしているようだ。
「アルバ様に私のおすすめのお店を紹介できればよかったんですけど……多分、どこもアルバ様にとっては変わらないと思いまして……言えなかったのです」
ミリンダはそう言って息を吐く。
道中ミリンダが黙っていたのはこれが理由だったのか。
メイドとして、主人のアルバの王都観光をサポートしたい。おすすめの店もないではないが、しかし、どこもアルバにはいい目を向けないことが想像できたために、言い出せなかったのだ。
その葛藤があり、黙ってしまった。
力に慣れなくて申し訳ないという思いから、ミリンダはアルバの顔を見れないでいる。
「しかし、どうしたものか」
こうなってくると、途方に暮れるしかない。
別に、食事のことを気にせずに見て回ればいいんだが、一度気になってしまうと留まることを知らない。
今でも気を抜けば、お腹から音がなってしまいそうだ。
それに、ここで空腹を気にして、借り部屋に戻るとしても、なんか負けた気がするのでしたくなかった。
「…………」
ミリンダも必死に考えていた。どこかないかと。
自分の知っている中で、ヴァニタスのアルバにも奇異の視線を向けないところであると同時に、食事が提供されているところ……。
「あっ」
ミリンダは不意に顔を上げる。
思い出したのだ。一軒だが、ミリンダの知っている中で、ヴァニタスでも安心していけるところが。
そこはミリンダも時々しか行くことが無かっただけに、今まで忘れていた。
「あります!一軒ですが、門前払いされないところが!」
ミリンダは嬉しそうに話しだす。
「本当か」
「はい!ただ……喫茶店なので軽食しかないんですけど」
「それでも構わない。案内してくれ」
「分かりました!」
ミリンダは意気揚々と歩き出す。
アルバもほっと胸をなでおろした。




