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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~守り人就任編~
25/266

王都観光~武具店~

 朝の日課を終え、ミリンダと立ち話をしていると、


「アルバ様、今後のご予定ってやっぱり……」


 さっきまでの嬉しそうな顔とは対照的に、ミリンダは沈んだ顔を見せる。


「ああ。変えるつもりはない」


 ミリンダの心配も分かっていたが、アルバはきっぱりとミリンダの目を見て言った。

 ミリンダもアルバの意思は固いと思ったのか諦めたように肩を落とした。


「王都観光ですよね……分かりました」

「嫌なら、俺一人でも……」


 はぁ……っと溜息をついたミリンダを見て、申し訳なくなったのか、アルバは自分が一人でもいいと言い出した。


「いえ!そういうわけには行きません!」


 ミリンダは、飛び上がるようにして身体を起こすと、勢いこんでアルバの提案を拒否した。


「…お、おう」


 ミリンダのあまりの勢いアルバは少し後ずさる。

 冗談のつもりで言っただけに、まさかここまでの反応が返ってくるとは思ってもみなかった。アルバとて、ミリンダに着いてきてもらわないと、王都の街に出てもここまで帰ってこれない可能性がある。ヴァニタスがどういう扱いを受けているのか知るには、一人の方がいいのだが、何せ王都は昨日初めて来たところだ。土地勘が致命的になさすぎる。


「私はアルバ様のメイドです」


 ミリンダは手を自分の手に当てる。


「たとえ何があろうと、私だけはアルバ様の味方であることはお忘れなく」


 昨日も言っていたことを、ミリンダは改めて口にする。

 その表情は穏やかで、相手を安心させる顔をしていた。

 ミリンダがそこまで言うことが起こる可能性があるということか……。

 念を押すように言われたミリンダの言葉に、アルバも身を引き締める。


「では、行きましょうか」


 ミリンダに微笑まれ、アルバは、王宮の門まで歩く。


:::::::::::::::::::::::::::::::::::::


 王都の街並みというのは、いざ街に出てみたところで、馬車から見た景色と何ら変わらなかった。

 メイン通りには、今日も多くの王都国民が行きかっている。

 商店も道の横に軒並み出店していて、果物や野菜、魔道具など様々なものが売られている。

 レンガ調で造られた建物が、街全体を明るく華やかに見せてくれる。木造ばかりで、寂れた印象のグリードとは対照的だ。

 アルバは、今まで見てきたグリードと正反対といえる、王都の街に少しだけだが圧倒される。

 その場で立ち止まり、辺りをまんべんなく見渡した。


「ここまで人がいるのは初めてだ……」


 アルバに口から言葉が漏れる。

 グリードを歩いていても、一人二人ぐらいしかすれ違うことがなかった。もしかすると、ここにいる人たちでグリード全国民よりも多いんじゃないかと思えるほどだ。


「これでも今日は少ない方ですよ」


 アルバの呟きが聞こえていたらしく、隣に立つミリンダは頬を緩ませながら言う。


「うそだろ……」


 グリードでは想像もできない規模だ。


「本当ですよ。混むときは今立っている歩道が人で埋め尽くされるんですから」

「……」


 アルバは言葉を失う。

 今でも、十分な人でにぎわっている。それこそ、道が通れないほどではないが、それでも歩くのに注意しなければならないぐらいなのだ。

 さらにここから増えるとなると……考えたくもないな。

 アルバはそこで思考を止めた。

 後で、ミリンダに混む日を教えてもらおうと心に決める。


「とりあえずどうしましょうか……」

「適当に歩くか」


 アルバの言葉で、二人は歩を進める。

 しばらく何もなく適当に歩いていると、一つ分かったことがある。

 それはアルバを見る、人々の視線だ。皆楽しそうに、知り合いと談笑したり、商店の人と世間話をしている人などとしているが、アルバが近くを通るたびに、その表情は歪む。

 あからさまに睨んでくる者もいれば、アルバが通った後、ひそひそと内緒話をする者もいる。

 誰も隠そうとしていない。

 皆の顔が語っている


『なぜここに、ヴァニタスがいるのか』と……。


 アルバ自身、人からの視線を気にする性格でもない。

 だがそんなアルバでも、ライラやダリアン王、さらにはミリンダに言われていなければ、視線の強さに耐え切れず、王宮の中に帰っていたところだ。

 数の暴力とでもいえば正しいか。それほどまでに、視線は濃くて鋭く、冷たい。

 立っているだけで、鋭利な刃物で身体の内側を抉られているような感覚にとらわれる。

 これを毎日のように受けていたら、王都を出ていこうと思うのも納得がいく。

 そんな視線の中をアルバは平然と歩いて行く。

 ミリンダも視線には気づいているが、気にしたそぶりは見せない。

 すると、ある一軒の店の前でアルバはふと足を止めた。

 店の名前は分からないが、扉越しに中が見える。

 中には、剣や杖、さらには鉄でできているのか、銀のプレートや篭手(こて)が売られている。

 グリードでもよくみる、武具店だ。


「入ってみるか」


 興味本位でアルバは店の中に入ろうとする。


「はい。分かりました」


 ミリンダがアルバよりも先に店の扉に手をあてる。


「どうぞ」


 扉を開けて、横に待機するミリンダ。


「…ああ。悪いな」


 うっかりするとすぐに、魔道具の事を忘れて普通に開けようとしてしまう。

 ミリンダにお礼を言って、アルバは店の中に入る。

 中は、狭い通路で、武器や防具が所狭しと並べられている。店をしているだけあってか、どれも綺麗な状態に保たれている。

 アルバは近くにあった、剣の一本を手に取った。

 標準と言われている、剣の一つだ。初めて武器を振るう人向けに、剣自体の重さはそこまで重くない。片手でも簡単に振るうことができる。

 両刃になっているために、扱いを間違うと自分を傷つける危険があるが、何も考えず振っても切りつけることが可能だ。刀のように、わざわざ刀身を振るたびに変えないでもいいだけに、剣を扱う多くの人は、このタイプの武器を使う。

 初めて使って、そのまま使い続ける人も多くない。

 ある程度見たところで、特に変わったところもなかっただけに、元の場所にそっと戻した。

 今度は、杖らしき木でできた棒を手に取る。

 大きさはアルバぼ身長以上もある。棚に立てかけられるように置かれていた。

 先には丸い物体のようなものがついていて、ここから魔法を放つのが予想できた。

 グリードにあるわけもないので、アルバは初めて杖を持った。

 思っていたよりも重量感があり、少々ふら付く。

 本体の木だけではなく、丸い物体の相当な重さを感じる。

 よくこんなの持てるなっと、アルバは純粋に思った。

 これだけ重い物を持ち歩くのなど到底考えられない。何か他の方法があるのかもしれない。

 魔法が使えないアルバがどれだけ見ようと、杖の良さは分からない。倒すことのないうちに、手を放す。

 次にアルバが手に取ったのは、プレートだ。

 胸の前につけるそれは、どんな武器で切りつけられても大丈夫なように、丈夫で分厚く出来ている。

 そのため重量もある。

 アルバは防具は行動を制限させるので着けていない。戦う速度に重点を置いているアルバにとって、防具は邪魔でしかないのだ。

 それだけに、戦闘の時は、誰よりも敵の攻撃に注意していないといけない欠点もある。

 この国の騎士を見ても、しっかりと鎧を着ていることから、防具は重要な役割をしているのだろう。魔法では、カバーできない何かがあるに違いない。

 この武具店も、武器よりも防具の方が多いことから、それが分かる。


「しかし……」


 アルバはポツリとこぼした。


(グリードの方が物が良いな……)


 ついそんなことを思ってしまう。

 ヴァニタスの戦士にとって、武具は重要だ。命を守るものだけに、戦士たちは誰よりも良いものを求めるようになる。必然的に職人の腕もあがるというものだ。

 それと、王都の武具店を比べるのは酷かもしれないな。

 アルバがそんな失礼なことを思っていると、さっきからミリンダが声を発していないことに気づく。

 ミリンダの様子をうかがうと、ミリンダは杖を見上げて止まっていた。


「杖が気になるのか」


 ミリンダの隣に立つと、アルバは同じように杖を見上げる。


「気になるほどではないのですけど……大きいなっと思いまして」


 確かに大きい。アルバの身長よりも高いそれは、ミリンダにとっては倍ぐらいになる。

 もしこれをミリンダが使ったら……必死に使おうにも、武器に使われているミリンダが想像できる。


「こんなに大きいもん、使う奴なんているのか?」


 アルバはこの杖を自在に使っている人がいるなら一目見てみたいと思った。

 そいつは果たしてどうやって身長よりも大きいものを使って戦うのか。


「これが、意外といるんだよ、兄ちゃん」


 突然かけられて声に、アルバとミリンダは声のした方を見た。


「いらっしゃい」


 そこには筋肉の発達した腕を組み、店の奥から出てきた。

 髪は短髪で、職人らしい独特の雰囲気を放っている。エプロンはこれまでの仕事でついたのか、ボロボロで黒ずんでいる。

 少し近寄りがたいという印象だ。


「悪いな。勝手に見させてもらっているぞ」

「すみません」

「おうよ」


 アルバは突然現れた店主に、驚くこともなく平然としている。

 ミリンダはぺこりと頭を下げる。


「この杖を買われる方がいらっしゃるのですか?」


 ミリンダが店主に聞いた。


「まぁな」


 店主の返答は短い。 


「どんな奴だ?」

「それを聞いてどうする」

「興味本位だ。教えれないんだったらそれでいい」


 店主としては、客の情報は漏らしたくないはずである。

 だが、店主はそんなアルバの態度を気に入ったのか口を開く。


「街のジジイやババア共が中心だ」


 店主から発した言葉はとても考えられないものだった。


「とても信じられんな」


 アルバでさえ持つことがやっとの杖を、体力の落ちた老人が持つとはどうも思えん。


「信じられんと言われてもな。本当のことだ」

「どうやって持つ。重量は相当だぞ」

「そんなもん魔法でちょちょいっとやっちまえばいいだけだよ」


 そう言って、店主は組んでいた腕をほどくと、カウンターなのか、そこに入り椅子に座る。


「お前、名前は?」


 椅子にドカッと座った店主はアルバに向かって聞いてきた。


「アルバだ」

「アルバか。覚えた」


 口角を上げ、白い歯が見える。


「悪いが、アルバ、もう出ていってくれねぇか」


 唐突にそんなことを言った。


「何故だ」

「てめぇヴァニタスだろ。こっちも客商売なんでな。ヴァニタスを長いこと店に入れてくわけにはいかねぇんだよ。悪い噂が立っちまったら、こっちもおしまいだ」


 店主はそう言って、手をシッシっと振り、アルバたちに出ていくように促す。

 突然の態度の変化に戸惑い気味のミリンダを連れ、店を後にする。

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