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魔法適性0の守り人  作者: まとい
~守り人就任編~
24/266

朝の日課

 借り部屋から少し離れた所までくると、木が多く植えられたところにたどり着く。


「ここなんてちょうどいいんじゃないですか?」


 ミリンダが足を止める。

 アルバも周りを見る。ちょうど木が目隠しの役割になっていて、こちらからも、別の場所が見にくい。


「ああ。ちょうどいい感じに木が生えてるな」


 アルバはそう言って、前に出る。ミリンダが雰囲気を察して一歩後ろに下がった。

 グリードでもやっているアルバのいつもの日課である。

 腰の愛刀を引き抜く。

 独特のその黒い刀身が朝日に反射して鈍く光る。

 鞘を両手で掴むと精神を集中させる。

 感覚がどこまでも洗礼されていく。鳥の鳴き声や、風になびく木々のざわめきが、まるで遠い世界のように小さくなる。

 ピンっと張り詰めた空気があたりに充満する。

 それをひどく感じ取ったミリンダが呼吸でさえ気を遣うほどに、空気が明らかに変わる。


「っ……!」


 口から鋭く短い息を吐くと、目にも留まらぬ速さで、黒い刀が振り下ろされる。

 

 ドンッ!!


 まるで重い武器でも振っているかのように衝撃が、ミリンダのところまで伝わってくる。

 だが、アルバの得意としているのは、重い一撃じゃない。むしろ、これは刀の具合を確かめるに過ぎない。ここからが本番である。

 振り下ろした刀の具合を満足そうに口角を上げると、すぐに振り上げる。

 振り下ろす時と同じ速度で刀は、ピタッとアルバの顔の前で止まる。体幹がしっかり鍛えられているのか、アルバの身体にブレはない。

 さらに、刀を振り続ける。威力こそ初めの一撃より劣っているが、速度は変わらない。刀が空気を切る、鋭く高い音が響く。

 斜めから切り上げたと思ったら、今度は刀の遠心力を利用して、身体を一回転させると、そのまま後ろ蹴りを加える。

 刀から体術とを織り交ぜ、身体にかかる重力に逆らうことなく動く。

 アルバはこれといって決めらた動きをしない。相手のどんな動きでも、対応できないといけないとして、あえてそうしている。

 刀の動きが早すぎるためか、アルバの周りには、刀の残像ともいえる黒い影が常にまとわりつているように見える。

 時には、後ろに飛びのいたかと思うと、急に走り出し、敵の死角ともなる後ろから襲い掛かる……というような動きをする。それも刀を振るう速度と変わらないぐらいに高速に。

 アルバの得意とするのは、その速さだ。とにかく、相手に隙を見せない。

 そんな戦い方をしてきた。アルバの速さに追いつけるものはそうそう居ない。

 さらに、身体の動きによっては、刀を左右の手に持ち替えて振るったりと、予測できない。

 もちろん右と左で振る速度に変化はない。

 ミリンダも、集中してアルバを見ていないと簡単に見失ってしまう。


「すごい―――」


 これまでのアルバとは想像もつかないような動きに、ミリンダは呆気にとられる。

 開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。


:::::::::::::::::::::::::::::::::::::


 どれだけ時間が経ったのか分からない。

 アルバは一度も身体を止めることなかった。

 最後に、右手で刀を横に振り下ろす。


 カチン


 刀身が完全に鞘に収まる。

 そこで初めて、アルバは身体から力を抜く。

 アルバの感覚が元に戻ると、周りの空気も弛緩した。


「こんなもんか」


 額にかいた汗を拭うと、満足そうに身体を伸ばす。


 これがアルバの毎日の日課である。

 この刀を手にした時から、欠かさず続けていることだ。

 英雄と呼ばれるようになって、ギルドの仕事をあまりやらなくなってからは、特にこの日課を大切にしていた。時間を伸ばし、内容を詰め込んでいる。

 今では慣れたもので、これだけの動きをしても、アルバは息一つ乱していない。


 ミリンダのところに歩いていくと

「お疲れ様です!なんというか……とにかくすごかったです!!」

 どう表現していいか分からず、そう言ってミリンダはとにかくアルバを絶賛した。

 アルバにもミリンダの表情から、それがよく伝わってきた。


「これなら、レオナルド様にも勝てますよ!」


 ミリンダが興奮したようにアルバに詰め寄る。

 ミリンダにももちろん、アルバの決闘の話は聞かされている。

 最初聞いたときは、無理だと思った。レオナルドの名は、王都で一番の戦闘特化の騎士であることは有名である。その実力もさることながら、勝てば何でもやっていいという性格から、誰からも恐れられている人物だからだ。

 アルバを一目見たとき、レオナルドに勝てるかミリンダには少しだけ不安だった。

 だが、今の動きを見て認識を改めなければならない。


「それは分からないな。実際にやってみないと」


 そんなミリンダとは対照的に、アルバは自分が負ける可能性を捨てない。

 (おご)れば必ず足元をすくわれる。

 アルバの中にはそう、強い意志があったのだ。

24部にしてアルバ君 初めて刀を振りました。

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